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第21話:月下の大鷹より弱ぇー・・・ part6

次回更新は明後日予定です。



 五匹の小鬼はまるで遠足でも行くかのように、のん気に森の中を歩いている。

手には各々違った武器を持っているが、その足取りは軽く、鼻歌でも歌っているのか時折り奇声が聞こえてくる。


 俺達は姿を失わないギリギリの距離を保ち、後をつけている。

正直、注意力のない小鬼達であれば、もっと近づいても大丈夫な気がするが、念には念をである。


 小鬼達は、この階層の東へと針路をとり、どんどんと進んでいく。


「どこまで行くんじゃろうのぉ」


「わからんのぉ」


 リゲルが退屈そうに言うと、エリックは首を傾げながら答える。


 森の中の景色はどこも同じように見え、今どこにいるのか方向感覚を失いつつある。

けれど、メモを手に取りマッピングしているアナライザーには、ここがどこであるのか分かっているのだろう。

何度も小さく頷いている姿に、さすが本職だと感心した。


「お、おい」


「あぁ?小鬼どもはどこへ行ったんじゃ?」


 突然、小鬼達の姿が消えた。

俺達の誰かが見失うのならありえるが、全員が一斉に見失うことなどありえない。

しかも、森とはいえ隠れられるような、例えば洞窟や窪地などといったようなものは無い。


 俺達は、急いで小鬼達が消えた地点へ向かおうとしたが、側面の木々に揺らぎを感じ足を止めた。


「静かに。何かがいるようじゃぞぃ」


 エリックが手で皆を制止し、木陰に隠れるよう促した。


 木々から姿を現したのは、小鬼であった。

しかし数が七匹と、先ほどとは数が違う。

その七匹もどんどんと森の中を進んでいくと、先ほど小鬼達が消えたであろう地点まで行き、姿を消した。


「――――は?」


 意味が分からず、情けない声を上げたのは他でもない俺である。


 俺達は急いで小鬼達が消えた地点へ走った。


「ここは、階層の終点じゃのぉ」


 そう言うエリックの手は、透明な何かに触れているようだった。

俺達も順々に、その透明な何かに触れる。

それは目に見えない壁であった。


 なるほど。

これは、迷宮が階層を作り出すとき同時に生まれる、東西南北を囲う透明な壁である。

転生前の世界の迷宮でもこの壁は存在した。

これが無ければ、迷宮の果てが無いことになる。

そうなればマッピングも探索も不可能であるから、当然存在するものだ。

だが・・・・。


「この中に小鬼は入っていったよな?」


 アナライザーが興奮を押し殺したような声で問いかける。


「そう見えたのぉ」


「わしもそう見えた」


「わしもじゃ」


「わしも」


「俺も」


 俺達が同意を示すと、アナライザーの興奮が一気に最高潮に達した。


「人間にとっては迷宮の果てにあるこれ以上進めない壁でも、魔物はそこを通り抜けることができる。ならばそこに、この先へ、上へと続く道があるんじゃないか?であるなら、あの魔物が階層を移動する方法は我々には感知できない、という推論が成り立つ。同時に、我々が階層を移動するセーフティーエリアに魔物が入れないのは、魔物にとってそこが迷宮の果てのように壁があってその先が見えないからではないか?俺は、今、迷宮の神秘に触れているのではないか!」


 渋い声で独り言をまくし立てる様は、ある意味恐怖であった。

しかも、興奮して鼻息も荒い。

目も血走っているため、こいつ倒れるんじゃないか?と心配になるほどだ。


「まてまて、だとすると。この4階層は・・・。まさか、まさかそういうことか」


 アナライザーは何かに思い当たったのだろう。

空を仰ぎ見るように顔を上げ、興奮に酔いしれている。


「おい、一体どういう・・・」


 突然、後ろから喚声が聞こえ、小鬼が現れた。

完全に不意打ちであったが、じいさん達はすぐに臨戦態勢を取る。


 小鬼の数は八匹と、そこまで多くないため焦ることなく、慎重に戦えば問題ない。

そう思ったのだが、小鬼達のあとから姿を現した巨鬼を見て考えを改めた。


 なんで巨鬼がいるんだよ?

アナライザーが言う推測が正しければ、ここに来るのは小鬼だけのはずだろ。

あれか?父兄の引率かなにかか?

そう思うと、巨鬼が親で小鬼が子供に見えなくもない。


 巨鬼に向かっていったのは、やはりリゲルであった。

どうやら、この階層に来てまともに戦闘していないため、フラストレーションが溜まっていたようだ。

嬉しそうにバトルアックスを担ぎ上げると、巨鬼に切りかかる。

それは巨鬼が持つ丸太の棍棒が振り下ろされたのと同時であった。

棍棒とバトルアックスは互いに譲らず、威力は拮抗している。

うん、助太刀はいらないようだ。


 俺は自分に向かってくる小鬼を見定め、剣を抜き放った。

剣は小鬼が持つ手斧の柄を切り落とし、武器を無効化する。

もう一匹向かってくる小鬼を蹴飛ばし、手斧を失って無防備な小鬼の首に剣を刺す。

蹴飛ばした小鬼が立ち上がって再度突進してくるが、そもそも数の利が無ければ相手ではない。

闇雲に振り回してくるナイフを剣で弾くと、袈裟切りで肩から胴までを裂いた。


 リゲルの方を見ると、巨鬼と激しく撃ち合っている。

技のリゲルと力の巨鬼。

一見互角のようであるが、傷を負っていくのは巨鬼のみである。

そこには抗いきれない、経験というものが存在した。


 リゲルは棍棒をいなしながら、バトルアックスを巧みに扱う。

巨鬼の動きが目に見えて悪くなってきた時、バトルアックが巨鬼の右足を切り落とした。

倒れる巨鬼を見て、勝負あったなと確信した。


「それで、何がわかったんじゃ?」


 戦いが終わり、少し場所を移動した後、エリックがアナライザーに問いかけた。


「この階層は、小鬼の前線拠点だ。おそらく、2階層の城へ送り込むためのな」


「どういう意味じゃ?」


「そのままの意味だ。魔王領から来た小鬼はここに集められ、増殖し、2階層へ送り込まれる。たぶん、迷宮内の数が一定量を超え、制限が解除されれば、ここはそのまま人族領へ攻め込む拠点にもなるのだろう」


「なるほどのぉ。では、アナライザー殿はこの階層こそ、冒険者達を集めて、大規模攻略をすべきだということかのぉ?」


「その通りだ。おそらく、それによって2階層は完全に解放される」


「ふむ。一考の余地ありじゃのぉ。ギルドに戻ったら掛け合ってみるかのぉ」


 エリックがそういい、思案にふける。


「じゃぁ、次はわしじゃな。これを見てみぃ」


 リゲルはそう言うと、うれしそうに一つのペンダントを取り出した。


「巨鬼がしておったんじゃ。どうじゃ?値打ち物じゃと思わないか?」


 赤い石に紐が通してあるだけの簡素なペンダントであるが、その赤い石に何らかの価値がありそうである。


「ちょっと借りても?」


「丁重に扱うんじゃぞ」


 俺はリゲルからペンダントを借りると、魔力を集中し始める。


「汝の真の価値を示せ。グター・・・おぇ」


 鑑定魔法を発動しようとしたが、壮大に嘔吐した。

どうやら魔力が足りず、魔法を顕現できなかったようだ。


 皆が驚き、俺を心配する。

それを手で制止、ただの魔力欠乏症であると告げる。


「すまない、鑑定できなかった」


 青白い顔の俺を見て、若干引き気味にリゲルがペンダントを受け取る。


 鑑定魔法でさえ、魔力が足りず使用できないのか。

俺は制約の多いこの体を情けなく思うのであった。


 俺達は針路を北西へとった。

何度か集落を見つけたが、アナライザーがマッピングだけして、先へ進んだ。

一度昼休憩を取った後、休むことなく足を動かした。

森の中を小鬼の小集団が歩いているところにも出くわし、戦闘になったが巨鬼との遭遇はあれから無かった。


 いくつ目かの集落を通り過ぎ、それでも歩き続ける。

満足そうなアナライザーを尻目に、俺達の足は棒のようであった。

5階層への階段は、もうこの階層隅々までマッピングしなければ見つけられないんじゃないかと思い始めた頃、森の中から大きな洞窟が現れた。


「いかにもじゃのぉ」


「「「「じゃのぉ」」」


 じいさん達も疲れきって、返事も投げやりである。


 洞窟を進むと、案の定、5階層への階段があった。

地上はもう夜であろう。

俺達は丸一日、4階層を彷徨ったことになる。

いくら健脚のじいさん達でも、さすがに参っていた。

俺も、アナライザーも同様である。


「今日はここまでじゃのぉ」


 エリックの言葉に従い、俺達が階段に腰を下ろそうとしたとき、下の階層から誰かが登ってくる気配がした。


「貴殿ら、久方ぶりだな」


 現れたのは、『月下の大鷹』のリーダーであるシーラだった。

その後から、他のメンバーも続く。


「おぉ、麗しの鷹殿か」


「その呼び名は・・・まぁいい」


 シーラはエリックの呼び名に眉を顰めたが、諦めたように溜息を吐く。


「お主らは、5階層を見てきたところかのぉ?」


「いや、我らは5階層を踏破し、戻ってきたところだ」


「なんと!それは早いのぉ」


「運が良かった。貴殿らは、これから5階層か?」


「いや、今日はここまでじゃ」


「そうか。我らも今日はここで休むゆえ、共に戦士の休息としよう」


 エリックとシーラの会話を聞きつつ、戦士じゃなくて冒険者だが?とはさすがに言えなかった。

シーラにはそう言わせない何かがあった。

それはたぶん、笑いを取ろうとしても真面目すぎて通用しないという確信である。


「時に、貴殿らのマッピングと我らのとの整合を確認したいのだがよろしいか?」


 俺達がアナライザーを見ると、彼は静かに頷く。


「助かる。ミミ、よろしく」


「あいよ」


 ミミと呼ばれた少女は元気良く答えると、アナライザーの元へ行く。

まだまだ元気一杯で若いなぁと思った俺は、心までおっさんに染まりつつあるようだ。

非常にまずい。


「聖剣の担い手殿。名前は・・・」


 いつの間にか、シーラが近くにいた。

というか、近い。

足音も無くパーソナルスペースを侵略するのはやめてほしい、マジで。


「セリア、セリア・レオドールだ」


「ふむ、セリア殿か。我はシーラ・バルディア。バルディア家の末席につらなる者だ。気軽にシーラと呼んでくれ」


 そう言われてもぜんぜんわからん。

バルディア家って何だ?貴族か?


「セリア殿。我はしばらく依頼でリェーヌを離れていたゆえ、貴殿のことを知らなかった。まさか、あの『グランディア』の担い手が現れるとは。しかも、我と同じこの時代に」


 目を輝かせ、感動しているシーラに誰か現実を教えてやってくれよ。

俺は『グランディア』とかいうデマを流した張本人を見るが、そいつはサッと目を逸らし、いかにも自分はマッピングの確認中ですという顔をしやがった。

こいつ、いつか報いを受けさせてやる。


「是非、是非、我に聖剣を見せてくれないか!」


 綺麗な90度のお辞儀で頼むシーラに、俺にはなんと言ってあげればいいのかもう分からない。


「聖剣殿、わしらは邪魔かのぉ?」


「席をはずそうかのぉ?あ、階段だから無理じゃな」


「しかし、あのシーラでさえ、聖剣を受け止められるか・・・見ものじゃわい」


「いや、逆にシーラで無理なら他の女性では不可能じゃろうて」


 こいつら勝手なこと言ってやがる。

シーラの仲間も興味津々に聞き耳立ててやがる。

仮にここで聖剣を出そうものなら、リェーヌへ帰ることはできないだろう。


 悩み、苦しむ俺を見て、シーラは何かを察したのか、慌て始めた。


「す、すまない。貴殿に無理を言った。忘れてくれ。そもそも、戦闘でもないのに聖剣を出してほしいなど、不躾にもほどがあった。浅慮な我を許してくれ」


 何度も頭を下げるシーラを見て思う。

あの颯爽としたカッコイイ女性はどこにいった?


「実は、我は幼き頃より聖剣『グランディア』を持つ英雄に憧れていた。ゆえに、少し興奮してしまったようだ。許してほしい」


 少しじゃないけどな。


「そうそう。5階層の魔物は蜘蛛女(アラクネ)で。場所は森、状況は夜であった。先日ギルドマスターより、聖剣は夜にこそ本領を発揮すると聞いた。ぜひ、その力を存分に発揮してほしい。我も立ちあいたいが、明日には戻らなければならぬゆえ、非常に残念だ」


 あのギルドマスター何言ってんだ?

絶対面白がってるな、あいつは。


 俺は戻ったらギルドマスターへ一言言ってやろうと心に決めた。


 結局俺は、シーラへ曖昧な返事をすることしかできなかった。

聖剣について懇切丁寧に教えてもいいのだが、シーラはどう見ても初心である。

さらに、俺との実力差は天と地ほどであるから、下手したら殺されかねん。


 俺は彼女達が女性であることを理由に、休む場所は男性と女性で少し離したほうが良いと提案し、難を逃れたのである。

そうしなければ、あのシーラなら夜中まで『グランディア』について語りそうな気がしたからだ。


 できるだけシーラから離れ、これからこの噂をどうしようかと、今日ほど真剣に悩んだ日はない。

こうして俺の迷宮探索3日目が終わっていくのであった。

次回が第一回迷宮探索の最後になります。ちなみに数話はさんで第二回が始まります。


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