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第19話:月下の大鷹より弱ぇー・・・ part4

誤字等の報告ありがとうございます。


投稿ペースが落ちないよう、これからも努力します!



 2階層から3階層へ続く階段で昼休憩を取った。

ちなみにじいさん達は、昼休憩中も、終わってからも、階段を降りている間も、シーラの話題で持ちきりだった。


 リェーヌ唯一の黄金級冒険者である彼女は、街中の人からの羨望も、期待も一身に受けていた。

この街で最強なのは彼女である。

それは事実として知られ、真面目であるがゆえに、彼女自身もまた皆が望む偶像であろうと苦心している。


 彼女は容姿にも優れ、身長こそ女性の平均よりやや高い程度であるが、大きな瞳と整った鼻筋、口元は見るものを惹きつける。

それは男性だけでなく、女性でさえ、憧れるほどであった。


 実力と美貌。

そして真面目な性格。


 彼女を形作る三つの要素は、それゆえに男性を遠ざけた。

もちろん、冒険者や職務などで話す者はいたが、レーアのように男性から誘われることは皆無であった。


 そんな孤高の彼女が自ら話かけ、しかも聖剣を見たいという大胆な発言を引き出した存在。

年若い彼女を憂いていたじいさん達が、その事実を放っておくはずが無かった。


 じいさん達は時折り下ネタを交えながら、実に楽しそうである。

俺が彼女へどのような状況で聖剣を見せるか、そして見せた後の反応と今後の展開を幾重にもシミュレートしている。

俺役、彼女役で行われるそれを、見ている方はたまらない。

そこで演じられる俺は、百戦錬磨の猛者として語られている。


 だからこそはっきりと言おう。


 俺は転生前の妻としかそう言う関係を持ったことがないと。


 百戦錬磨などとんでもない。

けれど、それを言う気にはなれなかった。

俺の『英雄の心』を持ってしても、訂正することは諦めたのだ。


 セーフティエリアである階段も終わりが近づいてくると、さすがにじいさん達も気を引き締めにかかった。

さすがは白銀級の冒険者といったところである。

切り替えの速さは目を疑うほどであった。


 3階層へ足を踏み入れると、そこは山岳地帯であった。

見渡す限り、山の地肌とゴツゴツした岩しか見えない。

あとは枯れ木と、雑草が少々。

なんとも殺風景なエリアである。


「じいさん達、やっぱりあんたらも来たのか」


 3階層に入ってすぐ、またもや冒険者に話しかけられた。


「やっぱりとはどういうことかのぉ?」


「さっき、『月下の大鷹』がここを通ったぜ。だから、そろそろあんたらも来るかと思ったわけだ」


 エリックの質問に冒険者が答えた。


「そんなことよりも、ここで悠長にしてていいのか?5階層を目指しているのパーティーは他にもいるが、あんたらと『月下の大鷹』が最有力だろ?」


 話しかけてきたのはそっちだろうと、思わず突っ込みそうになった。

しかし、5階層への最有力とはどういう意味だろう。

確かに、5階層ごとに冒険者ギルドへ報告義務があるとは言っていたが。


「ほっほっほ、わしらにはわしらの、『月下の大鷹』には『月下の大鷹』のペースがあるんじゃよ。無理をすれば、まだ浅い階層とはいえ、足元をすくわれかねんからのぉ」


 実際、2階層はやばかったしな。


「なるほどな。この迷宮は1階層も2階層も結構きついから、青銅級のパーティーでさえここまで来るのに疲弊していた。だから、必死に最速で攻略しようとしているパーティーも、この階層までしか到達できていないだろう。もし、無謀で足元をすくわれた冒険者がいたら、助けてやってくれ」


「承知したぞぃ」


 冒険者に背を向け、エリックを先頭に山岳地帯を進んだ。

足元も石だらけのため、戦闘中気をつけなければ、先の会話ではないが文字通り足をすくわれかねない。


「ルーカスじいさん、さっきの話なんだが、5階層へ到達したら何かあるのか?」


 俺はルーカスへ質問した。

最近、もっぱら近くを歩くルーカスへ話しかけることが多い。


「新たに出現した迷宮に関して、5階層ごとに最速で到達した冒険者へはギルドが報奨金を設定している。報酬は、金貨一人当たり20枚だ。それゆえ、無理をするやつも多いのだが、おそらくこのままいけば、『栄光の残滓』と『月下の大鷹』の一騎打ちになるだろう」


 そして、答えるのはこいつである。

なぜ、話しに混ざろうとするのか不思議である。

普段は寡黙なのだが。

たまには渋い声をアピールでもしたいのか?


「それなら急ごう」


「いやいや、さっきエリックも言っておったが、焦りは禁物じゃよ。わしらにはわしらのペースがあるしのぉ」


 それは分かるのだが、せっかくの金貨20枚・・・。


「じゃが、このエリアは分からんぞ。さっきの冒険者の言葉を聞く限り、まだ4階層へ続く階段は見つかってないのかもしれん。それなら案外、わしらのほうが先に階段へ到達することもありそうじゃ。なんせ、アナライザー殿がおるしのぉ」


 確かに、このエリアは山岳地帯であるから、風景の変化が乏しい。

さらに、道しるべになるようなものもないのだから、迷う可能性もある。

その点、アナライザーがいれば迷うことはないだろう。

――――大丈夫だよな?


「皆、前方を警戒」


 エリックが声のボリュームを抑えて皆に言った。


 前方には、三匹の狼がいる。

あれが岩狼(ロックウルフ)だろう。

それにしても、想像とは随分違った。


「なぁ、岩狼の岩って、岩のようにでかいってことなのか?」


 俺の疑問に、皆が首をひねる。


「いや、岩狼は表皮の体毛が岩のように硬いからそう呼ばれている」


 答えたのは渋い声のこいつである。


「じゃぁ、大きさはあれが普通ってことか?」


 またもや皆が首をひねる。


「あそこまで大きいものは見たことがないのぉ。1階層の赤狐もそうであるが、やはり魔物領で育った魔物と、野生の魔物では大きさが異なるようじゃ。まぁ、とりあえず、まずは戦ってみるとしようかのぉ。ルーカス出番じゃ」


 エリックに指名され、ルーカスが前に出る。

2層目もそうだったが、先制攻撃をするなら遠距離攻撃ができるルーカスに頼らざるをえない。


 ルーカスは矢を番、振り絞って放った。

一直線に岩狼を襲い、突き刺さる。

――――突き刺さると思ったが、弾かれた。


「これはなんとも・・・」


 攻撃に反応した岩狼達がこちらへ疾走してくる。

まだ距離があるため、ルーカスが矢でもって迎え撃つが、ことごとく弾かれた。


 近づいてくるにつれ、その表皮が岩のようであることが分かる。

進行方向にある障害物になる岩などにぶち当たっても、関係なく全てを破壊して向かってくる。


 あそこまで硬いなら、剣で斬りつけて大丈夫だろうか?

俺は自分より、武器の心配をしていた。

折れたら、また生活系依頼が待っている。


「アナライザー、あんた魔物の情報も集めてんだろ?こいつらに弱点はないのか?」


 迫り来る岩狼を見据える。


「あるにはある。だが、こいつらに当てはまるかはわからん」


「いいから、それを教えてくれ」


「岩狼の表皮は硬い。が、首から腹にかけてはそこまでの硬さは無いはずだ。他には、関節だな。そこが硬ければ、そもそもあそこまでの疾走は不可能である」


「了解」


 俺は小声で、肉体強化魔法を唱える。

そして一匹の岩狼の前に立ちはだかった。


 ルーカスが俺のフォローをしてくれるようで、後ろに付き添っている。

残り二匹は、リゲルが一匹を、エリックとジンでもう一匹に相対している。


 迫り来る岩狼に対し、剣を抜き放って待ち構える。

飛び掛った瞬間、もぐりこんで体毛の柔らかい部分を斬り裂く。

俺はそうイメージし、飛び掛ってくるのを待った。

岩狼は接近すると、飛び掛って――――来ない。

そのまま速度を維持し、轢き殺そうとしてくる。


 やばい。

後ろにはルーカスがいるため、避けるという選択肢は取れない。

俺は魔法で、限界まで肉体を強化した。

剣で受け止めようとした瞬間、『英雄の心』がささやいた。

目を狙えと。


 その言葉に従い、剣を岩狼の目に突き刺した。

それと同時に、衝撃が体中へ襲い、俺は宙へと飛ばされた。


「ぐっ」


 どうにか受身を取り、身構える。

岩狼の方を見ると、片目は完全に潰れていた。

それでももう片方の目で俺を捉えたのだろう、再度突進を開始する。

そこへ、今度はルーカスの放った矢が飛来した。

冷静であれば、先ほどのように体毛で弾いただろう。

しかし、岩狼は避けるために飛び、そのまま俺に向かってくる。


 弱点を晒したその姿に恐怖はない。

俺は身を低くし、スライディングするのように岩狼の下を潜り抜けた。


 岩狼は着地と同時に倒れた。

片足は関節から切断され、腹は大きく切り裂かれている。

一目で致命傷と分かる傷であった。


 俺は慎重に近づくと、首に剣を差し込んだ。

岩狼は一瞬苦しそうな声を上げた後、全身の力が抜け、絶命した。


「ふぅー」


 俺は一息吐くと、他の岩狼を見た。


 リゲルに関しては、体毛など関係ないように、バトルアックスで殴りつけていた。

可哀想に、体毛は硬くても、中の骨はそうでなかったようだ。

いろいろな部分があらぬ方向に曲がっている。

ご愁傷様であった。


 エリックとジンは基本に忠実で、エリックが盾で受け止め、ジンが槍で突いていた。

たぶんこの方法が一番危険が少なく、安全なのだろう。

すでに幾重の傷が首から腹、関節にもついており、岩狼の動きは止まっていた。

ジンが最後に深々と首から槍を刺し込むと、勝負はついた。


「この階層は、なかなかヘビーじゃのぉ」


 ジンが疲れたように言う。

皆が同意し、頷いた。


「だからと言って、やめるわけにはいかんじゃろ?とにかく、安全マージンを十分に取って、ゆっくりとでも前進するしかないのぉ。最悪逃げることも考慮して進もうぞぃ」


 最後は笑いを誘うように、エリックが言う。

俺達はもう一度気力を奮い立たせ、エリックに続いて歩き出した。


 変わり映えしない景色を、俺達はとにかく進み続けた。

その間、岩狼とは4度の戦闘があり、討伐数は二十一匹を数えた。

俺の魔力はすでに底を尽き、皆傷だらけである。

それでも前進できたのは、切り立った渓谷が見えたからだ。

あそこがこの階層の最深部であり、下へ降りる階段があるに違いない。

そう思わなければ、疲労困憊の体を動かすことはできそうに無かった。


 俺達が進む道は、渓谷の上に出た。

どうにか下へ降りたいと辺りを見渡すが、下へ降りる道は一向に見つからない。

どうしようかと頭を悩ませていると、渓谷から戦闘の音が聞こえてきた。


 渓谷の下を覗き込むと、『月下の大鷹』が十数匹の岩狼と戦っていた。


「見てみるんじゃ。あれが、彼女の実力じゃよ」


 いつの間にか近くにいたエリックが、シーラを指差しながら言う。

シーラは岩狼の標的を自分一人に集めていた。

襲い掛かる岩狼の猛攻を、二本の剣で巧みにさばく。

小鬼との戦闘でもすさまじいと思ったが、今はあの時以上である。

どれだけの数が襲ってこようとも、まったく彼女を傷つけることができない。

そして、彼女が攻撃を捌いている間に、彼女の仲間が魔法や弓矢で確実に岩狼の数を減らしていく。


「前衛はシーラだけなのか」


 彼女達の戦いを見て気づき、驚愕した。


「そうじゃよ。わしらとは構成がまるで違う」


 確かに、じいさんたちを分類するなら、前衛三人の後衛一人である。

俺を入れれば、前衛が四人にもなる。


「彼女、シーラが戦闘不能になれば、確実に全滅する」


「そうじゃろうとも。けれど、シーラにはそうならないだけの自信があるのじゃ。そして彼女の仲間も、そんなシーラを信頼しておる」


 シーラが最後の一匹に止めを刺すと、戦いは終わった。

岩狼の十数匹では相手にならない。

それくらい圧倒的であった。


 俺達は、数匹の岩狼でもヒーヒー言っている。

パーティーとしての実力が違うのだ。

いや、一人がパーティーの実力を押し上げているのだ。


 自惚れているが、かつての自分を見ているようであった。


「おぉーい、下への道が見つかったぞ」


 ルーカスが俺達を呼びにきた。

それに手を挙げる。


「どうじゃ?あのパーティーに入れば前衛2人になるし、なによりハーレムを謳歌できるぞぃ」


 エリックが笑いながら問いかける。

魅力的な提案であるが、悔しいかな、今の俺では力が足りない。

(かぶり)を振って、エリックと共にルーカスの元へ向かった。


 案の定、渓谷の先には4階層へ続く階段があった。


 地上ではまだ夕方だというのに、どうやら俺達の体力は限界のようで、誰からともなく階段へ腰を下ろした。


 こうして、迷宮探索2日目は幕を閉じたのである。



次回もまだまだ迷宮が続きます。


美人の受付嬢、冒険者へのファンレターお待ちしてます。

感想や、アドバイスも受け付けております!


ブックマーク、評価していただいた方々、ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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