表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/124

第18話:月下の大鷹より弱ぇー・・・ part3

結局投稿は今日になってしまいました。

皆様、申し訳ありません。



 2階層への階段を降りる俺達は、非常に疲れていた。

昨日から、赤狐との戦闘、夜の宴を経て、翌日である今日は昼間に街への帰還。

さらに、迷宮への道を早足で駆け抜け、1階層を踏破した。

いくらポーションを飲んでいても、さすがに限界であった。


「今日はここで休むとするかのぉ」


 エリックが疲れた声を発すると、皆、呼応するかのように階段へ座り込んだ。


「ふむ、白銀級パーティーでも、1階層を踏破することしかできなかったか」


 事実をメモに書き込むアナライザーの言葉は、まるで嫌味のように聞こえた。


「俺はポーションさえ、ポーションさえ飲めばまだ行ける」


 アナライザーを見返そうぜと、じいさん達へ元気アピールをするが、じいさん達の反応は芳しくない。


「その発言は、ポーション中毒者のようじゃのぉ」


 ルーカスが呆れたように言う。


「人間、疲れたら疲れたと言って休むのが一番健康的じゃよ。ポーションにばかり頼っては、蓄積疲労で過労死するかもしれんぞ?」


 エリックが続く。

というか冒険者ギルドで、俺をだましてポーションを飲ませたのは誰だよ。


「それにのぉ、地上はもう夜じゃぞ?」


「そうなのか?迷宮の中が明るくて分からなかった」


「無理もない。迷宮の中での時間の流れは、地上とはまったく異なるのだから」


 お前に聞いていない。

俺は割り込んできた渋い声に心の中で叫んでいた。


 俺達は階段の中腹ぐらいに陣取り、各々で食事を取った。

皆疲れており、会話はほとんど無い。

食べ終わると、階段で楽な体勢を模索し、見つけたものから眠り始める。

寝返りを打てば、下まで転がりそうではあったが。


「ルーカスじいさん、迷宮の階段はセーフティーエリアなのか?」


 まだ起きていたルーカスに尋ねる。


「そうじゃよ」


「じゃぁ、どうやって魔物は下の階から上の階へ移動するんだ?」


「未だにそれはわかっていない。魔物がこの階段を感知できないように、我々人間も、魔物が移動する道、もしくは何らかの方法を感知することができないのではないかというのが有力な説だ」


 盗み聞きしていたのか、渋い声が俺の疑問に答える。

だから、お前に聞いてねーよ。


 これ以上話をすると、今度は精神的に疲れそうである。

俺は口を閉じ、目を瞑った。

今日一日を回想しながら、俺の短くも長かった迷宮探索1日目が終わったのである。


 2日目。

目が覚めると、無理な体勢で寝ていたためか、体中が痛かった。

俺は鞄からポーションを取り出し、口をつける。


「まてまて。目覚めにポーションを飲むとか本当に依存症だわ」


 ギリギリでポーションを回避し、鞄にしまった。


 ゆっくりと立ち上がり、伸びをする。

体を確かめながら、回したり、伸ばしたり、曲げたりを繰り返す。

次第に凝り固まった筋肉がほぐされるのを感じた。


「おぉ、目が覚めたようじゃな」


「おはよう」


「おはようさん」


 すでに起きていたのであろう、エリックが声をかけた。


「他の人は?」


「もう下じゃよ」


 どうやら俺が一番最後だったようだ。

エリックに従い、階段を降りる。


 たどり着いたそこは、1階層とは大きく異なっていた。

鬱蒼と茂った森と、その向こうには廃墟と化した城が見える。

空は分厚い雲が多い、気温は蒸し暑い。

1階層のような清々しさはまったく無い。

2階層とは、そんなところであった。


「お、来たかのぉ」


 先に着いていた、ルーカスと言葉を交わし、ジン、リゲル、ついでにアナライザーとあいさつをする。


「さっき、他の冒険者に会ってのぉ。先に情報収集をしていたんじゃ。どうやらここは、小鬼(ゴブリン)のエリアらしい」


 小鬼か。

どこの世界でも忌み嫌われる存在。

緑の肌をした小人で、その残虐性は有名である。

知性は乏しいが、獣よりも幾分高く、道具を使用する厄介な存在でもある。


「赤狐の次は、小鬼か。なんというか、群れる性質の魔物ばかり配置されているな」


 ルーカスは俺の答えを予測していたようだ。

案の定といった顔で、さらに3階層の情報を伝える。


「そのようじゃのぉ。ちなみに、3階層は岩狼(ロックウルフ)だそうじゃ」


 岩狼は初めて聞く名前であった。


「こやつも群れる魔物でのぉ。どうやら、1階層から3階層は物量で来るようじゃ。厄介じゃのぉ」


「だが、我々にとっては僥倖だろう。迷宮の魔物を一定数狩らなければならないのだから、群れる魔物は願ったり叶ったりだ」


 アナライザーの言葉と、俺の意見は同じであった。

こいつ、自分は戦わないくせに。


「さて、3階層へ続く階段はあの城を抜けた先のようじゃ。城を迂回して森を行くか、城を突っ切るか。どうするかのぉ」


「やはり、城を突っ切るべきじゃ。その方が早いんじゃろ?」


 ジンが確認を取る。


「そうじゃな。先の冒険者の話によれば、今日から本格的な城の攻略に乗り出すとのことじゃ。中心となるのは、青銅級、鋼鉄級の冒険者達で、昨日から結構な人達がこの2階層へとたどり着いているそうじゃ。この階層もさっさと通り抜けるのなら、最短の城を目指すべきかのぉ」


 エリックが問いかけると、俺達は一様に頷いた。


 エリックを先頭に出発した俺達は、エリック、リゲル、俺、ルーカス、アナライザー、ジンという順番で森の中を歩いていた。

この階層は深い森であっても、視線をやや上へ向ければ城が見える。

方向感覚を失わないという意味では、歩きやすい森であった。


「来よったぞぃ」


 前方を見ると、木に身を隠したつもりの小鬼がいた。

やはり、知性は大したことないようである。


 ルーカスは矢を番えると、的確に小鬼を打ち抜いた。

小鬼が倒れると同時に、左右の茂みから小鬼達が現れる。

その数、左右共に五匹ずつ。


「ちっ、囮かよ」


 俺はすばやく剣を抜くと、左側面へ回る。

リゲルが、俺と同様の左側面へ向かうのをエリックとジンは確かめ、二人は右側面に回った。


「アナライザー殿。申し訳ないのじゃが、後方の警戒だけはしてもらえんかのぉ」


「承知」


 エリックの要請に、アナライザーは短く応える。


 小鬼の身長は俺の腰くらいの高さで、装備も棒を持ち、布切れを着ているだけであった。

だからこそ、侮っていた。


 一匹目の右手、つまり棒を持つ手を切り飛ばし、蹴り上げた。

そして迫る二匹目が振り上げる棒を、剣で受け止めた。


「くっ」


 小鬼の予想以上の力に驚いた。

身長は低いのだが、単純なパワーなら俺と同等程度あるように思う。


 蹴り飛ばした一匹目の小鬼が体勢を整えて突進してくる。

俺は二匹目の猛攻を剣で裁いていたが、余裕はあまり無い。

少しまずいかと考えていると、突進を開始した小鬼がもんどり打って倒れた。

胸には矢が刺さっている。


 俺は対峙する小鬼へ意識を集中させ、攻撃を受け流した。

体勢を崩した小鬼の足を払い、倒れこむ小鬼にのしかかるような体勢で胸に剣を突き立てた。


「ぐぅあぁぁ」


 悲鳴を上げる小鬼の胸を更にえぐると、小鬼は息絶えた。

俺はそのまま、矢で倒れた小鬼へ近づくと首をはねる。


 戦闘は終了である。

他の小鬼はすでに討伐されていた。

相変わらず強いじいさん達である。


「聖剣殿は、普段とは打って変わって、戦闘になると冷酷じゃな。眉も動かさず止めを刺すからのぉ」


「そうか?」


「もちろん褒めておるんじゃぞ。新人冒険者なのに、玄人感を感じるんじゃ。さすがは神より聖剣を賜れただけあるなとなぁ」


 俺は曖昧な返事をエリックへ返した。


 森を抜けると、そこには廃墟と化した城があった。

そして、城からは雄たけびや、悲鳴、怒号が聞こえてくる。

どうやらすでに、攻略が始まっているようだ。


「おお、じいさん達。まだ生きてたか」


「失礼なやつじゃのぉ」


 城の入り口には3名の冒険者がいて、中を時折り確認していた。

その一人が俺達へ声をかけ、今はエリックが対応している。


「冗談だよ冗談。それで、じいさん達もこの戦闘に参加するのか?」


「いやいや、わしらの出番は無いのじゃろ?」


「わかるか?」


「青銅級冒険者が数名いれば事足りるからのぉ。わしらは下の階へ行くことにしたんじゃよ」


「下の階への階段は、このまま真っ直ぐ城を突っ切って、向こうの門の先にあるぞ」


「助かるわぃ」


 エリックが冒険者へ礼を言い、俺達に向き直る。


「では、行こうかのぉ」


 俺達は頷き、警戒しながら進み始めた。


 廃墟の城は、ほとんどが崩れ、その景観はすでに損なわれている。

そのため、奇襲や潜伏などするための場所はいくらでもあるように思えた。

俺達が侵入したのは、かつては門があったと思われる、城の始まりであった。

そこから直進すれば、反対側の門へ到達する。

距離は巨大な城を横切っているのだから、おしてしるべしである。

それほど長い通路の丁度中間くらい、俺達から見て右手に、横幅の広い階段が存在する。

そこを登れば、城内へ続くようだ。


 俺達は今、その城内へ続く階段の前にいた。

階段を見上げると、冒険者達と小鬼の乱戦が繰り広げられている。

数は圧倒的に小鬼が多い。

しかし、質は段違いで、冒険者達は連携しながら小鬼を圧倒している。

それでも、城内からは次々と援軍が現れるのだから、実際に戦っている彼らにとっては苦しいことだろう。


「進まないのか?」


 すでに足が止まっていた俺達をアナライザーが促す。

たぶん、皆が加勢すべきか迷っていたのだろう。

()()()以外は。


「いこうかのぉ」


 エリックが皆を促す。

戦友たちを信じる。

俺達はそう決め、3階層へ向けて再度進み始めた。


 その音は異様であった。

獣とは違う雄たけびで、すさまじい数の音源からそれは発せられた。

発生源は俺達の前方、3階層へ向かうための門からである。


「これは、まずいのぉ」


 こちらへ向かってくるのは、小鬼の大軍である。

数は百匹を軽く超えているだろう。

こんなものが、今、城を攻略するために戦っている冒険者達の後ろから襲ってきたらどうなるか。

想像に難くない。


 だが、俺達で対処できるのか?

疾走する小鬼を止めることができるのだろうか?

じいさん達は逡巡し、いつも傍観者のように振舞っているアナライザーでさえ、言葉を失っている。


 それでも、やらなければならない。

仲間を、戦友を見捨てることなどできないのだから。


 俺は『英雄の心』を発動した。

揺るがぬ心は、どんな絶望でも希望を見出す。

頭は冷静に、しかし、心は熱く。

英雄とは、かつての俺は、そうだったはずだ。


 剣を抜き構える。

今の俺に、一閃で戦況を変える力はない。

けれど、できることはあるはずだ。


「聖剣殿、お主は・・・」


 まず、俺の決断に感銘を受けたのは、リゲルであった。

バトルアックスを構える。


 次に動いたのはルーカスであった。

弓に矢を番える。


 そして、エリックが、ジンが、彼らもまた決断し、覚悟を決めた。


 アナライザーは――――あれ?いないぞ。

あいつ逃げやがった。


 それでも、俺の英雄の心は微塵も揺るぎはしなかった。


 俺達は5人が通路を阻むよう、横に並んでいた。

とにかく、あの軍団の勢いを殺さなければ、勝機はない。

最後は体ででも、受け止める。

俺達5人は強く決心していた。


 次第に迫ってくる小鬼の群れに、俺はどこか懐かしさを感じた。

転生する前も、こうやって魔物の軍団に対し、信頼できる仲間と共に立ちはだかったものだ。

それは今世でも変わらない。

それを少し、嬉しく思った。


 小鬼の軍団と激突する直前、まずはルーカスが矢を射る。

自分にできる限界の速度で番え、次々と矢が撃ちだされた。

当然、そんなことで進撃を止めることなどできない。


 俺は大きく息を吸った。


「さぁ、来い」


 その瞬間、炎の玉の魔法が俺達を後方から飛び越えた。

その魔法は小鬼に命中すると弾け飛ぶ。

小鬼の前進を阻むには十分であった。


 援軍である。

それは後ろを振り返らなくても分かる。

俺達はそのまま、乱戦へ突入した。


 そんな中を、一人の女性が颯爽と現れた。

両の手に剣を持ち、小鬼の軍団の中央へ向けて疾走している。

彼女が通った後は、小鬼の肉片しか残らない。


「サリーは左、マオは右、最大火力。リオとアイシャは後方の敵へ掃射。ミミは私の援護を」


 彼女が指示を出すと、小鬼達の左右を魔法が襲い掛かった。


 一瞬で形勢逆転である。

しかし、これは・・・。


 俺達も勝機とばかりに、小鬼を狩っていく。

すでに混乱の中にあるため、小鬼達はバラバラである。


 最後の一匹まで狩りつくすと、俺達の戦いは終わった。


「エリック殿、貴殿の戦場に無断で参戦した。許してほしい」


 先ほどの女性がエリックに謝罪する。


「とんでもない。むしろこちらこそ助かった」


 エリックが首を横に振りながら、感謝を述べる。


「ルーカスじいさん、あの人は誰だ?」


 ルーカスへ小声で尋ねる。


「彼女はシーラ、『月下の大鷹』のリーダーで、黄金級冒険者だ」


 渋い声が横から答えた。

だから、お前に聞いてない。

つか、お前どこに行っていたんだよ。


 そう思ったが、彼の額に浮かぶ汗と、苦しそうな息遣い。

どうやら、こいつが彼女達を呼んできてくれたようだ。


「彼女達『月下の大鷹』はのぉ、わしらと同じ白銀級の冒険者パーティーじゃよ。ちなみにリェーヌには、わしら『栄光の残滓』と『月下の大鷹』の二つしか白銀級はおらんのじゃ」


 え?じいさんたちのパーティー名は『栄光の残滓』と言うのか。

今、初めて知った。


「聖剣の担い手とは、貴殿のことか?」


 突然、シーラから声をかけられた。

彼女の身に纏う強者のオーラと、彼女の美貌に言葉を失った。

俺はどうにか、頷くことしかできない。


「次は、貴殿の聖剣とやらを拝ませていただきたいものだ」


 シーラは微笑を浮かべそう言うと、踵を返し、現れたときと同じように、颯爽と立ち去った。

なんとも、カッコイイ女性だ。


 じいさん達のほうを見ると、唖然としていた。

そして、シーラたちの姿が完全に見えなくなると、大爆笑が始まった。


「あの、あの、シーラ嬢が下ネタだと!?」


「こ、これは事件じゃわい」


「くっくっく、聖剣様、どうするんじゃ?女にあそこまで言われたからには、次に会うときは見せるモノを見せなければなるまいのぉ」


「腹が、腹が痛い。あれは夜伽の誘いじゃろう。聖剣殿の、聖剣を見たシーラの反応をぜひ見たい!いや、聖剣の何たるかを知ったときのシーラの顔を見たいのぉ」


 次々に勝手なことを言うじいさん達。

先ほどまでの、絶望感からの反動だろうか。


「なるほど、『月下の大鷹』のリーダーシーラの好みはアレが聖剣級であることか」


 アナライザーは相変わらず、くだらないことでもメモを取っている。


 いや、もうそれよりも早く3階層へ行こうぜ。

俺はくだらないじいさん達を、門のほうへ促すのであった。

次回も迷宮が続きます。


美人の受付嬢、美人の冒険者のファンレターをお待ちしております。

感想も待ってますので、よろしくお願いします。


ブックマークをしていただいている方々、本当にありがとうございます。


今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ