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第17話:月下の大鷹より弱ぇー・・・ part2

進むテンポが少し悪いでしょうか?

手探り状態です。



 最初に感じたのは、不愉快な湿気であった。

迷宮の中の両壁は土壁で、触るとしっとりとわずかな湿り気がある。


 迷宮に入る前は夕暮れ時で、太陽が一日の最後の力を振り絞り、燃え盛る時間帯である。

だからこそ、辺りは黄金色に染まるのだが、この迷宮内は真っ暗で、エリックが持つ松明だけが辺りを照らす。


 迷宮の造りは、なんとなく転生前の世界のものと似ていた。

今俺達が歩いているのは、0階層である。

つまり、迷宮に入ったとはいえ、魔物も出なければ迷宮の特性さえも顕現していない場所である。


「緊張しておるのぉ」


 ルーカスが俺の両肩をもみほぐす。

迷宮には慣れているつもりであったが、それは最強の体と能力があった頃のことである。

この体では、とっさの不意打ちであっけなく死ぬ。

それが直感的に分かっているから、無意識に緊張していた。


「大丈夫。ここはまだ、魔物が出ないはずの階層だから」


「ほう。知っておったか」


 ルーカスが緊張をほぐそうとするかのように、笑いかけてくる。


「見えてきたぞ。下への階段だ」


 渋い声が、迷宮内をこだました。

さて、ここからが本番である。


 俺達が階段を下りようとしたとき、階段を誰かが登ってきた。

どうやら3人組の冒険者のようである。

一人が重傷を負ったのか、仲間の一人に肩を貸してもらいどうにか階段を登っている。


「大丈夫か?」


 先頭を行くエリックが声をかける。


「あぁ、けどシュウが赤狐にやられて、足を折ったみたいだ」


 シュウというのは、この怪我をした男のことだろう。

足が相当痛むのか、脂汗をかいている。

ハイポーションはないのだろうかと疑問に思ったとき、シュウという冒険者のタグが見えた。


 黒鉄級。


 俺と同じ階級である彼らは、まだ駆け出しの冒険者なのだろう。

であれば、ハイポーションなどを買う余裕があるとは思えない。


「そうか、それは災難だったな」


 エリックが、今度はポーションを渡すことは無かった。

さすがに毎回あげていては、今後の探索に支障をきたしかねないからである。


 とはいえ、本当は皆、何かしてあげたいと思っているだろう。

黒鉄級とはいえ、街の危機に少しでも役に立ちたいと迷宮へきたのだろう。

そうでなければ、こんなに早く、黒鉄級冒険者が迷宮に潜っているはずがない。


「少し、見せてもらえないか?」


 彼らが階段を登りきるのを待ってから近づく。


「あ、あぁ」


 おっさんに傷を見られるのはいやだろうな。

もし俺が女神官様であれば、男は喜んだことだろう。


 そんなことを考えながら、シュウと名乗った冒険者のズボンの裾をめくり、傷を確認する。


 表面の傷は大したこと無さそうだが、確かに骨が折れている。

脛が歪な形をしているのだから、間違いないだろう。


 俺は傷に手を当て、自分の魔力を少しずつ手に集め始める。


「我が内に秘めし魔力よ。この善なるものの傷を癒す力となれ。ハイル」


 魔法の言葉を唱えると、掌に温かな光が宿り、シュウの脛を明るく照らす。

それも、2、3秒のことで、すぐに光は四散し、痕跡さえ残さず消えた。


 シュウは足を確かめるように、一人で立ち、歩いてみた。


「治った、のか」


「いや、応急処置だ。完全に骨がくっついたわけではない。とりあえず無理せず迷宮から出て、ポーションを使うなり、安静にするなりして完璧に治すことだな」


「あぁ、ありがとな」


 シュウは嬉しそうに笑いながら、仲間と共に頭を下げた。


 彼らが地上へ戻っていくのを見送ると、エリックが話しかけてきた。


「聖剣使い様は回復魔法も使えるのかのぉ?」


「あ、ああ。この体だと初めてだったが、できたみたいだ」


 エリックはどういう意味だ?と首を傾げるが、重要なのは回復魔法が使えるということだったのだろう。

そこには触れず、確認のため質問をする。


「では、ポーションを節約するために、基本は魔法で回復って言うのもできるのかのぉ?」


「それは無理だな。さっきくらいの負傷を癒すのでも、たぶん後一回が限界のようだ」


 俺の魔力は先の一回で半分になっていた。


「ふむ、なるほどのぉ。じゃが、万が一のときは頼ってもいいじゃろうか?」


「それはもちろんだ」


 答えに満足したのか、エリックは笑顔で頷いた。


「さぁて、いつまでもこうしているわけにはいかぬし、そろそろ降りるとするかのぉ」


 エリックを先頭に、俺達は迷宮の1階層を目指した。


「グランディアは回復魔法も使える、魔力は多くないと」


 階段を下りながら、というよりも迷宮に入ってからアナライザーはずっとメモ帳に何かを書き込んでいる。

おそらく迷宮のマッピングをしているのだろうが、それ以外にも知りえた情報をメモしているようだ。

相変わらず独り言を言うアナライザーから、俺はそっと距離を取った。

何を考えているか分からないやつは苦手である。


 階段の終わりに近づくにつれ、辺りは明るくなってきた。

どうやら、1階層目は明るいエリアのようだ。


 階段を降りきったとき、何かの膜を通過したような感覚があった。

これが迷宮の制限というやつかもしれない。

俺がこれまでいた、転生前の世界の迷宮にはこのようなもの存在しなかった。


 1階層に足を踏み入れると、そこは大草原エリアであった。

見渡す限りの緑が広がっている。

穏やかな風が草原を駆ける風景は、とても迷宮の中だとは思えない。

それほどに壮観であった。


「じいさん達、やっとお出ましか?」


 入り口付近にいた冒険者の一人が、エリックへ声をかけた。


「まずは若いもんに任せ、年寄りはゆっくり来させてもらったわい」


「ふん、年寄りって柄かよ。アナライザーも連れてるなら、5階層まで行くんだろ?」


「まぁ、そうじゃな」


「そうか。何にしても、じいさん達にはがんばってもらわないとな。だが、地上の魔物とは勝手が違うから、気をつけるこった」


 エリックは笑顔で頷いて、その男の肩を叩くと、大草原への第一歩を踏み出した。

俺達も辺りを警戒しながらそれに続く。


 それにしても、辺り一面草原地帯なのだから、マッピング殺しだなこのエリアは。

苦笑しながら、アナライザーを見ると、いつの間にかコンパスを取り出し、メモ帳に書き込みをしていた。

まったく問題ないらしい。

実に腹立たしい。


 しばらく歩いたが、時折り聞こえるのは他の冒険者の戦闘の音だけで、未だに赤狐に遭遇していない。

俺は周囲を確認しながらも、ある考察をしていた。


 それは、この草原地帯の草の高さが俺の膝上くらいであり、赤狐が姿を隠せる絶好の高さであるということだ。

もっとも、赤狐側が俺達を発見したらすぐに襲ってくるだろう。

もしそうであるなら、俺達の警戒網はすり抜けられ、ファーストアタックを許すかもしれない。

やっかいなエリアである。


 たぶん俺が考察しているようなことを、皆考えているのだろう。

普段の進行速度より、随分と慎重になっている。


「いたぞぃ」


 先頭を行くエリックが赤狐を発見した。

まだ結構な距離があるにもかかわらず、俺の自信満々の考察は一目で打ち砕かれた。


 赤狐の体は、草の高さよりも随分大きく、完全にはみ出している。

というか、草の倍くらいにも見える。

ん?待て待て。

明らかにこれまで狩っていた赤狐の大きさと一線を画している。

見事な毛並みのそいつは、別種と言われても納得できた。

特殊(ユニーク)個体か?


「どうする?」


「どうするかのぉ。定石は、ルーカスの弓で討伐することだが、まずは迷宮の魔物を多く狩ることが必要じゃ。わざと仲間を呼ばせるのもありだとは思う」


 俺の問いに、エリックが答え、皆に意見を求めた。


「わしは、仲間を呼ばせるべきじゃと思う。その上で戦い、問題なく討伐できるか今のうちに試すべきじゃ。幸い、まだ入り口が近い。先の怪我した冒険者ではないが、怪我をして無理そうなら戻ればいいのじゃから」


 ジンの冷静な意見に、リゲルもまったくその通りと頷く。

いや、リゲルじいさんは、とにかくたくさんの赤狐と戦いたいだけだろ。


「わしもジンと同意見じゃよ。この先進んだところで襲われて対処できなければ、それはすなわち死ということじゃからな」


 ルーカスが同調したことで、方針が決まった。

決まったのだが、なぜか皆が俺を見ている。

俺も意見を言えということか。


「俺もジンじいさんの言うことが正しいと思う。どうやら、あの赤狐はこれまで戦ってきた、地上の赤狐とは大きさが明らかに違う。あれが特殊個体であるなら問題ないが、標準サイズがあの大きさなら、近くに冒険者がいる今、戦ったほうがいい」


 俺はアナライザーを見た。

彼も意見を言えという、無言の圧力である。


「俺か?俺はどちらでもかまわない。迷宮の魔物が不意打ちでも倒せるのかも記録したいし、仲間をどれくらい呼ぶのかも記録したい。まぁ方針は任せる」


 なんとも投げやりな意見である。

そういえば、こいつ、武器を何も携帯していないがどうするんだろうか。


「方針は決まりじゃな。それじゃぁ、ルーカス先生、出番じゃよ」


 エリックからのご指名で、ルーカスが前に出る。

弓を構え振り絞ると、矢を放った。

矢は綺麗な放物線を描いて、赤狐の足元の地面に突き刺さった。


 ビクッと反応した赤狐であるが、すぐに俺達を見定めると、一度大きく遠吠えを発し、俺達へ向かって突撃してきた。


 今度はリゲルが先頭に立ち、待ち構える。

赤狐が飛び掛った瞬間を狙い、バトルアックスを横に一閃させた。

赤狐は胴から真っ二つに分かれる。


「さぁて、来なすったぞぃ」


「後ろからもじゃわい」


 四方から赤狐が合計7匹襲ってくる。

予想よりだいぶ少ない。


 陣形はどうするのかじいさん達を見ると、ルーカスを守るように、リゲル、ジン、エリックの順に三方を抑えていた。

あとはもう一方を誰が抑えるかだが、俺はチラッとアナライザーを見る。


「あぁ、俺は、戦闘は一切やらないぞ。というか、武器を持ってきていないからやりたくてもできないぜ」


 は?

何言ってんだこいつ、特別白銀級だろ?


 俺の疑問をよそに、アナライザーはルーカスの近くへ避難する。

必然的に、俺がもう一方を抑えるしかないようだ。


 イラついた気持ちを、スキル『英雄の心』でもって浄化した。

英雄は常に冷静であれ。

その鉄則どおり、心は静まり、戦闘に集中できる。


 やはり、近づいてくる赤狐の体は、地上のものよりも遥かに大きい。

筋肉も発達しており、まずもって速度がまったく違った。

それでも、見切れない速さではない。


 赤狐が飛び掛ってくるところに、買ったばかりの剣を突き立てた。

そのまま地面に押し倒すと、足で踏みつけ、剣を引き抜く。

もう一匹迫っていることは分かっている。


 腰から予備の短剣を引き抜き、投擲した。

短剣は狙い通り、接近する赤狐の前足に突き刺さり、その進行を阻害した。

そのわずかに得た時間で、足元の赤狐に止めを刺すと、迫り来るもう一匹を迎え撃った。

噛み付こうと開かれた口に剣先を入れ、そのまま胴体ごと切り裂く。

赤狐はそのまま地面に倒れたが、まだわずかに生命反応がある。

俺は無慈悲に止めを刺した。


 短剣を回収しながら辺りを確認するが、もう赤狐の姿はない。

ちなみに、討伐された赤狐七匹の内訳はエリック一匹、リゲル二匹、ルーカス一匹、ジン一匹、俺二匹、アナライザー0匹であった。


 俺は初めて使った相棒を確認する。

刃こぼれもせず、切れ味も悪くない。

良い買い物であったと満足した。


「もっと集まってくるかと思ったのじゃがのぉ」


 リゲルが残念そうに言う。

実際、俺達もそう思っていた。


「この階層には多くの冒険者がいるのだろう。彼らが積極的に狩りを行っているから、集団が分散されていると推測できる。それならば、もうこの階層は何も問題あるまい」


 俺達の疑問にアナライザーが渋い声で答えた。

戦いもせず、微妙にえらそうなのが鼻につく。

しかし、周りでは戦闘時の声や、赤狐の遠吠えが聞こえているのだから、間違っていないのだろう。


「では、この階層はあと2、3回戦闘したら、次の階層へ降りるぞぃ」


「倒した魔物はどうする?」


「残念じゃが、今は荷物を増やす余裕はないのぉ」


 見事な毛並みであったが、仕方が無いか。

俺達は獲物を諦め、またエリックが先頭で歩き始めた。


 時折り出会う冒険者に道を聞きつつ、下の階を目指す。

結局、下の階層へ降りる階段に到達するまに、赤狐とは3度戦闘を行った。

最初の戦闘と合わせると、俺は丁度十匹の赤狐を討伐したことになる。


 そして気づいてしまった。

この体の能力的な成長限界が近いということを。

それは、俺にとって絶望に近い宣告であった。

皆様申し訳ない。

新キャラ出るといいましたが、1階層が長引いて、まだ出てきませんでした。(微妙な冒険者の新キャラは出てます)

次回、きっと新キャラ出ますので、楽しみにしてください。


よろしければ、感想、ブックマーク、評価などいただけるとうれしく思います。

何卒、よろしくお願いします。

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