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第16話:月下の大鷹より弱ぇー・・・

タイトルと、あらすじを少し変更しています。

それと、今後は活動報告も少しずつ書いていけたらと思います。



 迷宮。

ダンジョンとも呼ばれるそこは、俺がこれまで渡ってきた異世界にも多数存在した。

自身を鍛えるため。

最強の武具を手に入れるため。

様々な理由で迷宮へ潜り、踏破してきた実績が俺にはある。


 迷宮の出現はチャンスである。


 神々が作り出したそこは、下の階層へ行け行くほど、強力なアイテムが手に入る。

あるいは、今この状況の俺でさえ、真なる聖剣を手に入れ最強へ至ることができるかもしれない。


 迷宮とは、無限の可能性を秘めた場所でなのだ。


 しかし、と冒険者ギルド内を見渡す。

この世界の住人である彼らは、一様に悲壮感を漂わせていた。

なぜ?


 小さくうめき声を上げながら立ち上がる。

先ほどの男が迷宮の詳細を皆に伝えている中、そっとレーアに近づき尋ねる。


「なぁ、迷宮といえば一攫千金だったり、強い武具だったりが手に入るチャンスじゃないのか?どうして皆、こんなに神妙な雰囲気を醸し出してるんだ?」


 小声で話しかけると、レーアは眉間に皺を寄せて睨みつける。


「ちょっと、こっちに来なさい」


 有無を言わせぬその圧に、ただ頷きレーアに従う。


「いい?いくら無知でクズだからって、迷宮をチャンスとか言わないで。迷宮がここへ出現するということは、魔王軍がついにここまで侵攻することを決めたってことなのよ」


 ん?どういうことだ?

首を傾げる俺に、レーアは大きく溜息を吐いて迷宮について説明してくれた。


 曰く、迷宮とは魔王軍の侵攻のための楔とのこと。

誰が出現させたかは分からないが、これまで魔王軍は迷宮が出現した場所まで侵攻し、領土としてきた。

さらに、迷宮を踏破したその先は魔王領につながっているらしい。


 どうやらこの世界の迷宮は、俺が知っているものとは随分と違うようだ。


「つまり、迷宮から魔王軍が侵攻してくると?」


「そういう側面もあるわね。迷宮内の魔物はすべて魔王領から送り込まれているらしいの。ただ、迷宮には制約があって、強い魔物はこちらから見て上の階層には上がってこられないの。それはこの世界で唯一迷宮を踏破した英雄、『ヴァン・フリード』の手記にもそう書いてあるわ」


「ヴァン・フリード?」


「第2次魔王大の英雄で、ほら、この街にある英雄の銅像が彼よ」


 なるほど、そういえばあったな、そんな銅像が。


「強い魔物が上がってこられないなら、問題なくないか?」


「それがそうでもないのよ。実は一つだけ抜け道があって、迷宮内の魔物の数が一定以上に到達したら、その制約の一部が解除されるらしいの。以前、迷宮を軽視していた国があって、気がついたら迷宮から魔王の軍勢が出現していたって事があったらしいわ」


「それで、皆、神妙な顔つきなんだな」


 そう言う俺の声も神妙さが醸し出されていた。


「私達にできることは、一刻も早く迷宮に潜って魔物を狩ることね。魔物を狩り続ければ、迷宮から強い魔物は出てこないはずだから。後は、迷宮の詳細を調べることと、冒険者を他の街から募らないと。はぁ~、やること多いわ。でもやらないとこの街が戦火になるし」


 レーアは疲れたような表情を浮かべたが、一瞬で真剣な表情へ切り替えた。


 強い女性だ。

心底そう思った。

今この瞬間にも、魔王がここへの侵攻を開始するかもしれない。

いや、もうしている可能性もあるのだから、逃げ出しても不思議ではない。


「俺に、できることはあるだろうか?」


「考えるよりも動け、迷宮へ行け、魔物を狩れ」


 そうだな。

レーアの答えが正しい。


「おぉ~、ここにおったかぃ」


 エリックが後ろから声をかけた。

その手には金の入った袋を持っている。


「報酬じゃ。ペール村のと、今ギルドの査定が終わったから、それを等分したものじゃわい」


 中を見ると、金貨が3枚と銀貨が20枚入っていた。


 これで武器が買える。

それに、今までお世話になったベンさんへ恩返しができる。

今日は、うまい肉でも買って帰ろう。


「それと、ほれ。ポーションじゃ。ぐいっといけ、ぐいっと」


 促されるまま、ポーションを飲み干す。

疲れている体もこれ一本。

ポーションが体の隅々へ染み渡り、疲れがふっ飛んでいくのを実感した。


「ありがとう。けど、どうして?」


「飲んだな」


「え?」


 エリックは黒い笑みを浮かべると、大声で他のじいさんへ報告する。


「皆、喜べ!聖剣様がポーションを飲んだぞ!」


「おぉ~」


「これは朗報じゃわい」


「やはり若い力がほしいからのぉ」


 リゲル、ルーカス、ジンがそれぞれ歓声を上げる。


 どういうことだ?


「ポーションを飲んだからには、わしらと迷宮へ潜ってもらうぞぃ」


 エリックは嬉しそうに笑っている。


「え?いつから?」


「今からじゃわい」


「マジ?」


 じいさん達を見渡すが、微笑みながら頷くだけである。

これは、だまされたな。


「まぁ、今からといってもさすがに準備が必要じゃからのぉ。今度は迷宮じゃから、4日か5日は覚悟するんじゃぞ」


「そんなに!?」


「ほれ、時間がない。皆、一時間後にここへ集合じゃ」


 エリックが一度手を叩くと、他のじいさん達が動き出す。


 しかたがない。

どの道、迷宮へは行こうと思っていた。

それなら、この異常に強いじいさん達と行くのも悪くないだろう。

そう無理やり納得し、駆け足でギルドを後にした。


 ベンさんの家にたどり着き、借りている自室へ入ると、まずは汚れた下着を鞄から取り出した。

洗濯する時間もないし、替えの下着もこれ以外もっていない。

まずは武器を買いたいが、下着も必要だろう。


「おぉ、帰っておったか」


 ベンさんが部屋の前に立っていた。


「今帰った。けど、またすぐでることになりそうだ。今度はいつ帰ってこられるか・・・」


「迷宮じゃな」


 黙って頷く。


「そうか。わしら冒険者ではない者には、冒険者に頼るしかない。わしにできることと言ったら、お前さんの洗濯をするくらいしかできんからのぉ」


 そう笑顔で言いながら、ベンさんは俺の洗濯物を拾った。


 守りたい、この笑顔を。

本気でそう思った。

こんな人の良いベンさんに、不幸が訪れることなどあってはならない。

そう決心し、ベンさんに感謝を述べると駆け足で武防具屋へ向かった。


 店に入ると、あの従業員がカウンターで頬杖をついていた。


「いらっしゃい」


 相変わらずである。


 今度の俺は真っ直ぐ従業員の方へ向かった。


「なんだ、またあんたか」


「またで悪かったな。まぁいい、今は時間がない。金貨2枚で主装備の武器と、予備の短剣がほしい」


「なら、金貨1枚と銀貨50枚の剣がそこの樽にある。銀貨50枚の短剣は俺がなにか見繕ってやる」


「助かる」


 そう言って、剣が刺さっている樽から剣を選ぶ。

前回金貨1枚の剣を買ったが、今回はそれよりも幾分か質がよい。

とりあえず、時間もないのだから、握ってみて一番軽いものを選んだ。


 細身のそれは、握りやすさも、振りやすさも前回より断然良い。

即決である。


「これにする」


「あいよ。じゃぁ、短剣はこれだ。本来なら銀貨70枚するところだが、サービスしてやるよ」


「悪いな」


 俺は金貨を2枚取り出すと、従業員へ手渡した。


「迷宮にいくんだろ?」


「あぁ」


「そうか。まぁ、がんばれ。武器のメンテナンスはしてやるし、折れたら新しいものを用意してやる。俺にできるのはそれくらいだからな」


 武器を受け取り、店の出口へ向かう。


「あんた、ただの従業員にしとくのはもったいないな。いつか自分の店が持てるようがんばれ。俺も迷宮でがんばるからさ」


 笑顔で買ったばかりの武器を掲げた。


「いやー、俺この前ここの店主になったんだ。雇われだがな」


「-――紛らわしいわ!!」


 大声で店主にそう言うと、店を後にした。




 冒険者ギルドへ戻り、準備を終えたのはちょうど一時間が経った頃であった。

武防具屋の後は、服屋で下着を購入し、商店街で保存の利く食べ物をいくつか購入した。

最後に、冒険者ギルドではポーションを3つ購入した。

これだけ入れれば、俺のなめし皮の鞄は満杯である。


「そろったようじゃな。それじゃぁ行くかのぉ」


 エリックを先頭に、俺達は冒険者ギルドの出口へ向かった。


 あれ?一人多くないか?

つか、誰だこの人。


 俺達の集団の中、極々自然にカウボーイハットの男が混じっている。


「ルーカスじいさん、あの人誰だ?」


 小声でルーカスに尋ねる。


「あぁ、聖剣殿は彼を知らないのか。彼はアナライザーと呼ばれる特別白銀級の冒険者じゃよ。今回の迷宮探索では彼も同行するそうじゃ。彼は調査や分析のスペシャリストで、迷宮の難易度や、魔物の強さなどを彼はギルドから委託されておるんじゃ」


 なるほど。

だが、なぜ俺達と?


「その質問には俺が答えよう」


 え?心が読まれたのか?

戸惑う俺をよそに、アナライザーは言葉を続ける。


「今回の迷宮探索では、このじいさん達がもっとも上位ランクの冒険者パーティーだ。ゆえに、もっとも早く5階層へ到達することだろう。俺の役目は迷宮や魔物の強さを測り、ルートをマッピングすることだ」


「なぜ、5階層?」


「新迷宮が誕生した場合、5階層ごとにギルドへの報告が義務付けられている」


「つまり、5階層まで行ったら、ここへ戻ってこられるのか」


「その通りだ」


 なるほど。

歩きながら納得しつつ、俺はこのアナライザーの渋い声がどこかで聞いたことがあるような気がしていた。

どこだっただろうか。


「時に、『グランディア』。俺はあんたの強さにも興味がある」


 グランディアねぇ・・・。


 ―――思い出した。


 こいつ俺を()()聖剣の名前で呼んだやつじゃないか。

あの日以来、聖剣様とか聖剣の担い手とかいろいろな二つ名で呼ばれているけど、一定数のやつがグランディアとか呼んでいるのを耳にする。

完全にこいつのせいである。


 正直、苦手であったから、できるだけ距離を取ろうと心に決めた。


 南門に到着するが、すでにそこは大混雑であった。

衛兵は通過する冒険者達を確認し、何かを説明していた。


 まずもって、冒険者の数に対して衛兵の数が足りていない。


 これではいつ順番が回ってくるかわかったものではない。

そう思っていたのだが、衛兵達も必死のようだ。

予想よりも早く順番が回ってきて驚いた。


 待っている間、他の冒険者へ説明が何度もなされ、それが耳に入って来る。

ゆえに、迷宮の場所も、本日の門限が夜中だということも把握している。


 それでもエリックは注意深く衛兵の説明を聞き、ねぎらいの言葉をかけて門をくぐった。

俺達もそれに倣う。


「あの森を抜けた先に迷宮はあるらしいのぉ」


「予想以上に近いようじゃ。もし、魔物が放出されたら、この街の住民は逃げる暇もないじゃろうのぉ」


「そうならないために、わしらがいるんじゃ。そうじゃろ?」


 エリックの説明に、ジンが反応し、ルーカスが気合を入れる。


 リゲルだけは、相棒のバトルアックスを背負い黙っている。

リゲルはなんというか、黒牛達と同じ匂いがする。


 街を出たのが、すでに夕方に差し掛かった頃であったから、俺達は暗くなる前に森を抜けようと急いだ。


 森はそこまで広大ではなかったため、すぐに通り抜けることができた。

そして、通り抜けた先には、巨大な横穴が地面から顔を覗かせている。


 その横穴こそ迷宮の入り口であった。

入り口付近では、すでに多くの冒険者がいた。

篝火や、テントなどを張って夜に備えている者もいる。


 しかし、目に付くのはそこではない。

冒険者の多くが傷を負い、包帯などの応急処置を施している者も数多くいることだ。


「何があったんじゃろうか」


 ルーカスが皆を代表して疑問を口にした。


「お主大丈夫か?良かったらこれを使え」


 怪我を負っている冒険者の一人に、エリックがポーションを差し出す。


「あぁ、助かる」


 その冒険者がポーションを受け取るのを見て、俺は先ほどのことを思い出していた。

それは罠だ。

飲んではダメだと、心の中で訴えた。


「ところで、どうしたんじゃその怪我は?」


「この迷宮の第1層の魔物は赤狐だったんだ。それでこの有様さ」


 力なく笑う冒険者に、俺達は顔を見合わせた。


「なぁ、赤狐って最弱の魔物だろ?それで何でこんな負傷者が出てるんだ?」


 俺の疑問に、アナライザーが答える。


「赤狐の特性は遠吠えによる、仲間を呼ぶことと、突撃することだ。この、迷宮という限られた空間の中で、ほぼ無限に近い数の赤狐が突撃してきたらどうなる?」


 ゾッとした。

確実に物量でおされる自信がある。


「それが、原因か」


 それでも、迷宮へ潜らないという選択肢はない。

潜るために、魔物を狩るために俺達は来たのだから。


「では、いくかのぉ」


 エリックは特に気負うことなく、いつも通り出発を促した。

それだけで俺達は平常心を保つことができる。


 こうして、俺達の迷宮探索第一日目が幕を開けたのである。


次回は本格的な迷宮探索になります。

新キャラも登場しますので楽しみにしてください。


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