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第15話:じいさん達より弱ぇー・・・ part2

とりあえず、遅くなりましたが投稿します。


次の投稿は明後日の予定です。ご了承ください。



 翌朝、冒険者ギルドの飲食スペースには昨日とは別人達がいた。

見事な鎧や武器を身に纏う姿は、さながら実力者の風格が漂っている。


「いや、この人達誰だよ!」


 思わず大声で叫んでしまうほどであった。


「自己紹介がまだじゃったのぉ。わしはエリックじゃ。よろしく」


「よろしく」


 エリックじいさんは右手に剣、左手に盾のオーソドックスな前衛である。


「わしはリゲル、よろしくのぉ」


「よろしく」


 リゲルじいさんは年甲斐も無く、バトルアックスを扱う。


「わしはジンじゃ、よろしく頼むぞぃ」


「よろしく」


 ジンじいさんは、短槍使いである。

主に遊撃として動くそうだ。


「最後に、わしがルーカスじゃ。今日はよろしくのぉ」


「よろしく」


 ルーカスじいさんは弓による遠距離支援を得意とする後衛だ。


 全員と握手を交わし終わると、エリックからなめし皮の大きな背嚢を渡された。

確かにこれなら結構な数の獲物が収納できる。

できるのだが、これを背負うと、『なめし皮野郎』に拍車がかかる気がする。


 黒牛達には絶対に見せられない姿だなと思い、笑いながら出発した。


「そろそろ方針を聞かせてくれ」


「そうじゃのぉ、まずは被害にあったペールの村へ行って、罠でも仕掛けるとするかのぉ」


「それがよいじゃろうな」


 エリックがのんびりとした口調で言い、ジンが同意する。

他の二人も異論はないようで、目的地はペール村へ決定した。


 俺達は野を越え、丘を越え、決して広いとは言えない道を行く。


 ―――つか、このじいさん達早いよ!


 そう思ったのは、歩き始めてしばらくしてからだった。

明らかに俺と歩行速度が違っている。

背嚢を背負っているとはいえ、俺は軽装である。

じいさん達は重そうな鎧を着ているのに、時折楽しそうな会話を交えながら余裕で歩いている。

健脚ここに極まれり。


 プライドゆえ、待ってくれよとは言えず、俺は必死に喰らいついていった。

ペール村らしき村へ着いたのは、昼を過ぎた頃であった。

その間、休憩は一回のみである。


 じいさんたちはペール村へあいさつを行い、被害にあった畑や家屋を案内してもらった。


「よーし、この辺りに罠を仕掛けるかのぉ」


 被害が多かった方角の、開けた空き地へ罠の設置をするようだ。

まだ昼休憩もしていないのだから、このじいさん達の正気を疑ったのは言うまでもない。


 じいさん達は持ってきた強靭な糸を張り始めた。

どうやら、それで赤狐の動きを制限するようだ。

俺も汗だくになりながら手伝った。

そろそろ休憩しようぜ。


 じいさん達は罠を張り終えると、休憩に入った。

それぞれ持ち寄ったパンやチーズ、果物などを食べながら作戦会議を始める。

ちなみに俺は昨日買った干し肉を提供したのだが、微妙な反応をされた。

その理由は後々分かった。


「さて、休憩が終わったら森に入り、赤狐を挑発してくるかのぉ。皆はここで一網打尽にしてくれ」


 エリックの提案に、他のじいさん達が一様に頷く。


「俺はどうすれば?」


「そうじゃのぉ、これを貸すから、自分の身くらいは守ってくれ」


 エリックは自分の短剣を俺に差し出した。


「助かる」


 短剣を受け取ると、腰に差した。

武器を装備するというのは、存外、安心するものだ。

たとえそれが短剣だとしてもだ。


「じゃぁ、行ってくるぞぃ」


 エリックは散歩にでも行くように、気楽に森へ入っていた。


「あんたらは、余裕そうだな」


「そりゃあまぁ、赤狐が相手じゃからのぉ。これがビッグベアやドラゴンなんかなら、そもそも尻尾を巻いて逃げるところじゃて」


 俺の問いにルーカスが笑いながら答える。

俺もじいさん達に負けないよう、『英雄の心』を発動した。


 しばらくすると、森の奥から動物の鳴き声が聞こえてきた。

それは次第に大きくなり、どんどん近づいてくる。

俺は短剣を手に握り、不動の心で迎え撃った。


 まず飛び出してきたのはエリックである。

そのすぐ後ろを数匹の赤狐が追う。


 シュッという音と共に、矢が赤狐に突き刺さり、その進行を妨げた。

射ったのはルーカスである。


 ルーカスはどんどん矢を番えると、狙いを定めて赤狐へ打ち込んでいく。

見事な腕前で、まだ距離があるにもかかわらずミスショットはない。


「す、すまん。角猪(ホーンボア)の巣をつついてしまったわい」


 エリックが大声で謝罪を口にすると同時に、後方の森から立派な角を持ったどでかいイノシシが現れた。


「エリックじいさんは、目が耄碌したんかのぉ。赤狐と間違えて角猪なんぞ連れてきおって」


 呆れたように言うジンを尻目に、リゲルが嬉々としてバトルアックスを担ぐ。


「久々の大物じゃわい。腕が鳴るのぉ」


 ニヤリと笑うリゲルに、ジンとルーカスが溜息を吐く。


「予定変更じゃ。悪いが、ルーカスの守りは任せる。わしも前線に出ないと、赤狐どもを抑えられそうにない」


 ジンの指摘どおり、赤狐達の数も増えている。

すでに臨戦態勢を取っているエリックの元へ、ジンは短槍を構えて走った。

俺は指示されたとおり、弓を射るルーカスに近づく赤狐へ対応するために身構えた。


 数はこちらが圧倒的不利。


 しかし側面に回ろうとする赤狐は、糸に阻害されて回り込むことができず、正面からの突撃では、エリックとジンの守りを崩すことはできない。

さらにそこは、ルーカスの射線でもあるから、突破は困難だ。


 角猪と対峙しているリゲルは、その巨体をバトルアックスでかち上げて見せる。

嬉々としている姿から、一人でまったく問題ないようだ。


 次第に赤狐の屍と、角猪の傷は増えていく。

じいさん達の実力は予想をはるかに超えるもので、圧倒的であった。


 俺はといえば、何とかして側面に回り込もうとし、糸に絡め取られた赤狐一匹の脳天を短剣で突き刺しただけである。


 赤狐の最後を討ち取るのと、角猪が倒れるのは同時であった。

先ほどまでの喧騒はすでに無く、魔物の屍がそこにあるだけであった。


 驚いたのは、傷を負ったのが森を疾走して腕を軽く擦りむいたエリックだけだということだ。

ほぼほぼ完封勝利。

楽勝であった。


 戦闘後、さすがに疲れたのか、獲物を回収するじいさん達の会話は少なめである。

その場で穴を掘り、血抜きを行い、赤狐を積み上げていく。

どうやら赤狐は40匹以上で、それに加えて角猪がいる。

いやこれ、誰が運ぶんだよ・・・。


 あらかた作業を終えると、もう辺りは薄暗くなりつつあった。


 エリックは村人に助けを求め、村人と共に獲物を村まで運んだ。

獲物のあまりの量に村人は驚いていた。

俺達では『リェーヌ』の街まで運ぶことは不可能であることを伝え、買い取ってほしいと交渉すると大いに喜ばれた。


 そして宴である。


 角猪の肉はうまいそうで、村は半分を買い取り、もう半分は俺達からの提供ということで宴に使用されることが決定した。

赤狐も持ち運べそうにない量の肉は、宴に提供することになった。

なるほど、じいさん達が昼食で肉を敬遠したのも頷ける。

また、毛皮もいくつか買い取ってもらい、持ち帰る量はどうにか背嚢に入るほどになった。


 転生前の世界でもそうしていたように、持ち帰る赤狐の肉を凍らせた。

広範囲ではないため、魔力の使用は少しであったが、それでも魔力欠乏症になるギリギリであった。


 宴では、俺達が提供した肉の代わりにと、村からぶどう酒が出された。

さすがにじいさん達も今日はお酒を持ってきていないだろうし、良かったなと思ったのだが、その考えは甘かった。

じいさんたちは袋に詰めた大量のビールを提供し、村人達と交流を深めていった。


 そんな光景を懐かしむように眺めていた。

魔物を討伐し、宴を行う。

これまでどの世界へ転生しても、こればかりは普遍である。

おいしい肉をかみ締めながら、今はもう会うことのできないかつての仲間へと思いを馳せていた。


 次の日の出発は、太陽が完全に昇りきった頃であった。

朝、獲物へ魔法を再度かけなおした俺は、背嚢のあまりの重さもあってすでにヘロヘロである。

じいさん達も、昨夜飲みすぎたため、二日酔いでヘロヘロであった。


 ヘロヘロ達がのろのろ歩き、何度も休憩するので、街に着いたのは昼と夕の境であった。


 冒険者ギルドへやっとのことでたどり着くと、背嚢を置き、地面に突っ伏した。

もう無理、動きたくない。


 じいさん達からのねぎらいの言葉に、曖昧に手を振り、気絶するかのように寝転がって休む。

腰も、節々も、これまでの中で一番悲鳴をあげている。

明日は動けないなと覚悟した。


「ちょっと、ここで寝られると邪魔なんだけど」


 まるでゴミを見るように見下ろしたレーアがいた。

俺は曖昧に笑いかけると、コロコロ転がってホールの隅へ移動した。


「きもっ」


 レーアの暴言でさえ、今は気にならない。

それほど疲れていたのだ。


 じいさん達が背嚢の中から赤狐を取り出し、冒険者ギルドへ査定を求める。

肉は、凍らせたとはいえ一日経っているのだから、本来より安く買い叩かれるだろう。

それでも、昨日ペールの村人へ売った分も合わせれば結構な金額になるはずだ。


「武器も、ポーションも買える。むふふふ」


 ホールの隅で一人笑い声を上げる俺を、レーアは本気で気持ち悪がっていた。


 そんな時、突然冒険者ギルドの扉が開かれ、一人の男が飛び込んできた。

血相を変えたその表情は、絶望を表しており、皆が何事かと男を見つめた。


「た、大変だ。街の近くの森に、迷宮が、迷宮が出現した」


 沈黙が支配するギルドの中で、俺はそれが何を意味しているのかまったく理解していなかった。

さて、新展開に突入しています。


今後についていろいろ考えてはいますが、感想や、アドバイスをいただけたら幸いです。

よろしくお願いします。

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