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第14話:じいさん達より弱ぇー・・・

一日送れてしまいました。

予想以上に長くなってしまったため、もう一話投稿します。



 あれから一週間が経過した。

まずは現在の状況を整理したいと思う。


 最初に特筆すべきは、例のうわさについてである。

例のうわさとは、もちろん俺が『聖剣の担い手』であるということだ。

このうわさは、一週間で街中に浸透した。

女性には俺が聖剣を持っているということだけが伝わり、男性にだけは聖剣がナニを指しているのかが、その事実と共に伝わった。


 うわさが浸透していくに従い、俺を見る街の人々の目は一変した。

いろいろな意味での憧れを抱かれるようになり、子供達からは握手をせがまれたりもした。

まったくついていけない状況に、だれか俺の心中を察してほしい。


 次に、俺の借金についてである。

あの決闘の後、冒険者ギルドのギルドマスターであるサムウェルから手渡されたポーションだが、ただのポーションではなく、上級ポーションであった。

いや、なんとなく分かってはいた。

あのポーションが、これまで腰痛や関節痛のために使っていたポーションとは、一線を画していることを。


 当然、価格は通常のポーションに比べて高価で、金貨2枚もするらしい。

それを無償で提供された、なんてことはなく、笑いながらサムウェルに請求された。

あの日、俺が手渡した赤狐が2匹いたので、それを差し引いて金貨1枚にしてあげたよといわれたときは、

正直、使った後に請求とかふざけんなよとキレそうになった。


 不本意とは言え、借金を返すためにはお金を稼がなければならない。

しかしご存知の通り、俺の武器は先の決闘で叩き折られてしまった。

魔物の討伐ができないのだから、俺は泣く泣く生活系の依頼を受けた。

倉庫の整理、清掃、ペットの探索、よく分からない荷物の配送など、依頼内容は多岐にわたる。


 その間、何度か他の冒険者から一緒に依頼をしようと誘われたり、パーティーへの勧誘もあった。

やはり、例のうわさが関係しているような気がする。


 『黒牛』パーティーからも、依頼を共に受けようと3度も誘われた。

どうやら、剣を折ってしまったことで同情されているようだ。


 また、ベンさんへの発言も謝罪された。

話してみると気のいいやつらである。

ただ、レーアとの関係を聞かれたときは顔がマジだった。


 さて、長々と現状の説明をしたのだが、俺が今いるところは冒険者ギルドの個室である。

金貨1枚がやっと貯まったので、サムウェルへ借金を返しにきたのだ。


「確かに、受け取った。ただなんというか、大変だったな」


 サムウェルからの同情の眼差しが痛い。


「金貨1枚なら、黒鉄級冒険者であれ、1日か2日で返済に来ると思っていた。まぁ、武器がなくて魔物の討伐ができないのであれば仕方がないよな」


 ポーションを勝手に使った手前、サムウェルは頭をかく。


「実際、あのポーションがなければ結構な怪我だったし、使ってもらってよかった。武器もまた金を貯めてから買うから気にするな」


「そう言ってもらえると助かる」


 サムウェルの返事を待ち、席を立った。

もう用件は終わりだ。

今は一刻も早く依頼が貼られている掲示板へ行きたい。

生活系の依頼とはいえ、良い依頼はすぐに受注されてしまうからだ。


「そうそう、昨日からじいさん達が、あんたを紹介しろとうるさくてな。たぶんギルドの飲食スペースにいるから話だけでも聞いてやってくれ」


 その言葉に黙って頷き、部屋を出た。


「あのさ、ちょっといい?」


 今日は―――鬼ではないレーアがそこにいた。


「何か用か?」


「大した用事じゃないんだけど、これ」


 そう言ってレーアは一冊の本を取り出した。

見ると古ぼけていて、ところどころ破れている。


「絵本か?」


「そう。あんた、毎回掲示板の依頼を私やギルド職員か、近くにいる冒険者に頼んで読んでもらってるじゃない。さすがに、文字を覚えないとまずいでしょ?」


 実際渡りに船であった。

さすがに文字が読めないのは辛く、そろそろ本格的に勉強すべきだと思っていたのだ。


「この本は、この街で一番読まれてる絵本なの。この街の子供でこの絵本を読んでない子はいないわ。文法や言い回しも簡単だし、まずはこれを読んで文字を覚えなさい」


 俺はレーアから絵本を受け取った。

絵本をパラパラめくるが、書いてある文字はさっぱりわからない。

どうすりゃいいんだよ。


「まぁ、分からないことがあったら、ベンさんか、私やキャロルに聞いてよ。時間があるときは教えてあげられると思うから。それじゃあね」


 話は終わりだと、手を振りながらレーアは受付へ戻っていく。

ふむ、やっぱりレーアはキレなければ良い女である。


「ありがとう」


 歩き去るレーアの背に、感謝の言葉を述べた。


 手に持つ絵本を見る。

題名も分からないが、今日から文字を勉強することを決意した。

とりあえず、今日の夜ベンさんに読んでもうおう。


 そんなことを思いながら、掲示板へ向かった。

そういえば、飲食スペースで誰か待っているんだったな。

仕方なく目的を変更し、飲食スペースへ向かう。


「お!これはこれは聖剣使い様」


「やっときたのぉ」


「しかし、うらやましい。わしにも聖剣があれば」


「無理じゃろうて、今のあんたにゃ、宝の持ち腐れじゃわい」


「ちがいない、ちがいない」


 はははーと笑うじいさんが4人、昼前だというのに酒を飲んでいた。


「俺に何か用でもあるのか?」


 呆れながら尋ねるが、じいさん達のペースは変わらない。


「そんなことよりも、まずは一杯どうじゃ?聖剣の英雄殿」


 そう言って、じいさんがビールジョッキを一つ俺の前へドンと差し出す。


「いやいや、それじゃぁ、聖剣様に失礼だろ」


 別のじいさんがもう一つジョッキを前に置く。


「なんのなんの、聖剣様ならこれくらい無ければ満足できまい」


 再度別のじいさんが、ジョッキを一つ置く。

合計三つのビールジョッキが俺の前に置かれ、それを見ながらじいさんたちは大爆笑している。


 くっそこいつら、本当に全部飲んでやろうか?


 さすがの俺でも、これ以上酔っ払いの相手などしたくない。

眉間に皺をよせ、立ち去ろうとした。


「あいや、すまんすまん。そう怒るでないわい。実はお主に頼みがあってな」


 じいさんの一人が楽しそうに笑いながら語りかける。

俺はぜんぜん楽しくない。


「明日から、わしらと一緒に赤狐の集団を狩ろうではないか」


 どうやら狩りの誘いであった。

嬉しいことであるが、いくつか問題がある。


 まず、俺は武器がない。


 そしてもう一つは、昼間から飲んだくれのじいさん達が狩りなんてできるとは到底思えないことだ。


「申し訳ないが、俺は今武器を持っていない。一緒に行っても戦力にはならないし、誰か他を当たってくれ」


 素気無く答える。


「そのことについてはベンから話を聞いておるよ。なぁに、お主は狩った獲物を運んでくれさえすればよい。見ての通り、わしらは年寄りじゃ。荷物の運搬は若い者に任せたい。もちろん、報酬は等分するから期待してくれてかまわんよ」


 なるほど、ベンさんの知己か。

確かにこのじいさん達はベンさんに歳が近いような気がする。

そうであるなら、結構な歳なのだから実力について疑問符がつく。


「俺はあんた達の実力がわからない。本当にあんた達だけで赤狐を狩れるのか?」


「ほっほっほ、わしらは確かに、一度冒険者を引退して戻ってきた者じゃよ。じゃが、冒険者のパーティーで白銀級の称号を与えられるほどの力は未だに健在じゃよ」


 そう言うと、首から冒険者のタグを取り出した。

タグは2枚あり、その両方が銀色に輝いていた。


 どうやら彼らが白銀級の冒険者であることは間違いないようだ。

俺はじいさん達からの要求を吟味する。


 赤狐と戦うのはじいさん達で、俺は倒した赤狐を回収し、運ぶ役目、つまりポーターということだ。

非常に魅力的な提案である。うまくいけば、金貨1枚くらいなら貯まるかもしれない。


「ちなみに、目標は何匹だ?」


「そうじゃのぉ、2日で30~40匹といったところか。最近、赤狐の被害が近隣の村で増えているから、これくらいは狩りたいのぉ」


 うほっ!

一人当たり金貨3枚くらいにはなるのか。

実にうまい話である。


「わかった、引き受けよう。よろしく頼む」


「そうかそうか。引き受けてくれるか。これでわしらも安心じゃわい。それじゃぁ、明日の朝、ここで待ち合わせとしよう」


「わかった。それじゃあ、また明日」


 俺はじいさん達に別れを告げ、踵を返した。

後ろから、「聖剣を拝めるかのぉ」などと相変わらず酔っ払いの会話が聞こえてくる。

本当に大丈夫か?


 なんだかもう疲れたので、今日は依頼を受けるのをやめよう。

溜息をつきながら、俺は冒険者ギルドを後にした。


 なけなしの金で、明日に必要そうな食料や薬草などを購入し、ベンさんの元へ帰宅した。


 その日の夜、俺はベンさんにレーアから借りた本を見せた。

ベンさんはそれを手に取ると、懐かしそうにページをめくり、俺に話を聞かせてくれた。


 本の内容は、どこにでもある英雄譚である。

はるか昔、魔王軍が始めて人間の領土へと侵攻した第一次魔王大戦。

それにより自分の生まれ育った村が襲われ、唯一生き残った青年は魔王軍と戦う力を得るため、冒険に出る。

困難を乗り越え、大地の精霊から『グランディア』―――ん?『グランディア』といえばあの時、誰か渋い声で俺のことをそう呼んでいたな。

大地の精霊から『グランディア』と呼ばれる聖剣を授けられ、それを持って魔王軍の侵攻を阻んだ。

そして、魔王に戦いを挑んだが、力及ばず敗北し命を落とす。

けれど、そのとき魔王も重傷を負い、魔王軍はそれ以上侵攻を継続することができなくなった。

という話であった。


 本を読み終わったベンさんに、明日のことを話した。

ベンさんは、酔っ払い達は気の良いじいさんだから、心配ないと笑って保証してくれた。


 ベンさんの言葉を信じ、明日に備えて早めに就寝した。


新展開の第一弾です。


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