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第13話:黒牛達より弱ぇー・・・ part2

やっと書けました。

もしかしたら、どこか修正するかもしれません。

ですが、本筋は変わらないので、ご了承ください。



休憩を終えたレーアが受付に戻ってくると、いつもとは違う騒がしさが冒険者ギルド内を支配していた。

首をかしげながら、レーアはキャロルに近づき尋ねる。


「何かあったの?」


「あっ、先輩。それが、大変なんですよー。あの中年の新人冒険者と、『黒牛』さん達が決闘することになったんですよー」


 あの中年の新人冒険者というのは、おそらくセリアのことだろう。

キャロルが言う『黒牛』さんというのは、長ったらしいパーティー名だから通称『黒牛』と呼ばれる冒険者達のことだろう。


「キャロル、せめて常連の冒険者の名前くらいは正確に覚えなさいよね」


 レーアが軽く嗜めると、キャロルは口を尖らしながら反論する。


「だって、あの中年の人ならともかく、『黒牛』さんは先輩のところばっかり並んでるから分かりませんよー。そんなことよりもですね、この決闘って先輩のせいだと思うんですよ、私はー」


「え?何で私のせいなのよ?」


「だって、あの中年さんに一番悪口を言って挑発したのは『黒牛』のAさんだったんですよー。Aさんが先輩に気があるのは周知の事実だと思いますー」


 確かに、何度か食事に誘われたことはある。

その度、仕事を盾にして素気無く断っていたことも事実だ。


「絶対、先輩があの中年さんと鏡屋さんへデートして、あまつさえ鏡なんてプレゼントされて喜んでたのが気にいらなかったんですよー」


「な、な、なんで知ってるのよ」


「いやー、とっくにうわさになってましたから。うわさを知らないのは本人達だけかと思いますー」


 かわいらしく微笑むキャロルを見ながら、レーアは「じゃぁ、今朝の質問はなんだったのよ!」と心の中で呻いた。

レーアがキャロルの黒い内面を知った瞬間である。


「それでー、先輩はこれからどうしますー?」


「どうするって」


「だって、男達が先輩を巡って決闘をするんですよー!」


 もう決闘の動機がレーアであることは間違いないと言った様子のキャロルに、もしかしたらそうなのかも知れないと思うようになりつつあった。


 新人冒険者をベテラン冒険者が挑発して決闘をするというのは珍しいことではない。

珍しいことではないのだが、そこにギルド職員への恋慕が介在するのなら話が違う。


 決闘は真剣で行われる。

いくら殺しは禁止という不文律があっても、何が起こるかわからない。

不安に思うレーアの顔は目に見えて青くなっていた。


「私、ちょっと行ってくる」


「わかりましたー。私が受付がんばりますので、行ってきてくださいー」


「ありがとう」


 レーアはキャロルにお礼を言うと、冒険者ギルドの裏手にある訓練場へ向かった。


 その姿をキャロルは微笑みながら見ていた。

普段冷静で、完璧超人なレーアが取り乱しているのだから、焚きつけたかいがあったというものである。


「しかし、先輩っておじさま系がタイプだったんですねー」


 キャロルはこれから、どうやってレーアをいじっていこうか考えていた。




 冒険者ギルドの裏手に、訓練場があるとは知らなかった。

俺は促されるままそこへ向かい、今は目の前の男達、三人と対峙している。


 見物人である他の冒険者は、ギルドの2階や、訓練場の縁でこちらを見ていた。


 幸いであったのは、相手が3人だけということだ。

さすがにあの場にいた冒険者全員なら、集団リンチである。


 目の前の三人は、三人とも筋肉隆々の巨漢であった。


 ベンさんへ暴言を吐いたやつをAとするなら、Aは右手に幅広で刀身が異様に短い片手剣を持っている。

明らかに近距離タイプである。


 その隣のBは長い鉄棍を持っている。

装備を見る限りでは、中近距離の遊撃タイプだと思われる。


 最後にCだが、こいつは徒手空拳である。

手には皮の手袋をしていることから、近々距離タイプといったところだろう。


 どちらにせよ、三人ともパワーファイターなのは間違いない。

そうであれば、非常に分が悪い。


「ベテランの風格を漂わせた新人と、『黒牛』達、どちらが勝つか賭ける人いないっスか?」」


 周りで見ている冒険者の中から、そんな声が聞こえる。

新人が俺なのだから、『黒牛』は目の前の冒険者だろう。


「俺は黒牛」


「俺も黒牛」


「つか、黒牛の誰か一人が相手でも、あの新人じゃ相手にならないんだし、三人なら賭けにならないだろ」


「―――それもそうっスね。中止!賭けは中止っス!」


 こいつら、勝手に賭けを始めようとして、俺に賭けるやつがいないと見ると、中止にしやがった。

金さえあれば、俺が自分に賭けてやったというのに。


 そんな周りの様子をうかがいながらも、俺はすでに二つのことを始めていた。


 一つは、肉体強化魔法である。

さっき誰にも聞こえないほど小さな声で、魔法の詠唱を行った。

相手がパワーファイターなのだから、肉体強化魔法をつかわなければ対抗できないだろう。


 一つは、たった今発動した『英雄の心』である。

どんなに能力が低下しても、かつての不動のメンタルは変わらない。

自己暗示の一種であるが、誰にも負けることはないという、余裕が生まれる。


 以上、この二つを成し終えたのだから、私の勝ちが確定した。

楽勝である。


「ではこれより、青銅級パーティー『荒野に二本の角を掲げて立つ、黒く雄雄しき野牛』と、黒鉄級冒険者のセリア・レオドールの決闘を開始する。見届け人は私、ギルドマスターであるサムウェルが行う。では、はじめ」


 パーティー名、長っ!

そりゃ、皆が『黒牛』と呼ぶのも分かる。

それに、以前会ったあの話の分かるギルド職員ってギルドマスターだったのか。

などと、決闘が開始されても、他の事を考えるほどの余裕がある。

それだけ自分に自信があったのだ。


 黒牛Aは剣を肩に担ぐと、黒牛BとCへ合図を送った。

すると、BとCは戦闘態勢を解き、傍観者の立場をとる。

なるほど、まずは一対一といったところか。


「んじゃぁ、お前さんが来ねぇなら、こっちから行くぜ」


 黒牛Aは、それこそ牛のように突撃してくる。

これでは赤狐と大差ない。


 黒牛Aの剣は短いため、肉薄してからの攻撃になる。

接近してから上段に振りかぶり、重力を加えて加速した剣先を完全に見切った。


 右足を引くことで半身となる。

先ほどまで俺がいたであろう場所を剣が通過した。


 よし、まずは一人。


 カウンターの要領で、下段から黒牛Aのわき腹めがけて剣を振った。

それを黒牛Aはすんでのところで飛び退く。


 なるほど、腐っても青銅級ということか。

確実に倒せたと思ったが、自身の剣速と相手の技量を見誤っていた。


 黒牛Aは驚いたように目を見開いた。

そして、嬉しそうに笑う。

こいつ、筋肉達磨で戦闘狂か?


 仕切り直しとなったが、黒牛Aは再度突撃を慣行した。

また、射程が短いのだからそれしかないか。

突撃の加速を利用して、今度は突きが伸びてくる。


 首を振るだけでかわすと、お返しとばかりにカウンターの突きを放つ。

黒牛Aはそれを腕につけた篭手で受け流す。

そのまま篭手で俺の首を狩るように大きく振った。


「くっ、鉄篭手ですか」


 とっさに肉体強化魔法をオンにし、バックステップで距離を取りつつ避ける。

黒牛Aが追随し、距離を縮めてくる。

なんとか剣で攻撃をいなし、距離を取ろうとするが、闘牛のように突撃し距離を殺しにかかる。


 やり難い。

途中で気づいたが、黒牛Aの攻撃は鉄篭手で、防御を剣で行っている。

剣は幅広で刀身が短いため、もっぱら盾のような使い方をしていた。

これが彼本来の戦闘スタイルなのだろう。


 慣れるまでは防御に重点を置くしかない。

裏拳を剣で受け、続く左フックはスウェーしてかわす。

次第に、俺からの攻撃の手数が少なくなっていく。

一撃を狙っているから、というわけではない。

単純に身体能力の差が顕著に現れ始めたからだ。

更に言えば、奥の手としていた肉体強化魔法はずっとオンのままである。

このままだとジリ貧だと思えた。


 突然、視界の端を黒い物体が捉えた。

それを避けれたのは、長年の経験による勘であった。

地面を転がるように避けながら見ると、黒牛Bが鉄棍を振ったのだと理解した。


「もう、ここまでだ。これ以上は待てない」


 黒牛Bが鉄棍を担ぎながらいう。


「ちっ、しゃあねぇなぁ。あいつがここまでやるとは思わなかったぜ」


 どうやらここからは二対一のようだ。

正直、早いうちに一人は退場させたかった。

しかし、こうなったら仕方がない。


 俺に宿る『英雄の心』が冷静に状況を分析する。

このまま二対一では、まず勝ち目がない。

勝てる可能性があるとするなら、先制攻撃でどちらか一人を退場させる方法だろう。

そうであるなら、狙うのは一人。


 ここへきて初めて自ら仕掛けるために足を動かした。

いや、正確には足を動かそうとした、である。


「なっ!」


 いつの間にか俺の両足のくるぶし付近まで、泥が覆っていた。

その泥は徐々に、足の上へ上へと侵食を開始する。


「彼は、魔法使いでしたか」


 黒牛Cを見ると、右の手のひらをこちらへ向け魔法を行使していた。

まさか、あのなりで魔法使いとは、さすがに予想できない。


 圧倒的不利な状況にもかかわらず、俺に恐れはない。

このような状況は何度も切り抜けてきた自負があったからだ。


 幸いこの魔法は足止めだけのようである。


 俺は剣を構えた。

大丈夫、黒牛AとBの攻撃はすべて受け止め、カウンターで彼らを粉砕してやる。

ここへ来て、全ての力を結集して本気を出すと決めた。

 

 黒牛Bが鉄棍を大きく振り上げ、思いっきり振り下ろした。

俺はそれを剣で受け――――え?


 バキっという音と共に、俺の剣が砕けた。


「あぁあぁぁ!!俺の剣が!!!これいくらしたと思ってやがんだ」


 折れた剣を見つめながら絶叫する。

どうやら、『英雄の心』は俺を見捨てたらしい。

絶望に打ちひしがれる俺へ、二つの影が近づいてくる。


「さて、覚悟はいいな?」


 すごくいい笑顔で、手の関節をボキボキ鳴らしながら黒牛A言う。

どうやら剣は地面に置いておいてくれるようだ。


 黒牛BもAに倣って鉄棍を地面に置く。


「そういえば、さっき聖剣がどうのと言っていたよな?ここで出さなきゃ、いつ出すんだ?」


「い、いや、それは異世界の話で」


「そんなん知るかよ!」


 黒牛Aが握りこぶしを作り、打ち出す。

もう、そこからは一方的であった。

どうにかガードする俺を、黒牛AとBが容赦なく殴りつける。

顔はどんどん腫れ上がるが、すでに魔法の泥は膝より上まで来ているため、倒れることもできない。

ただ殴られるだけのワンサイドゲームとなった。


 負けでいいよもう。

だから、鉄篭手だけは外してくれ!


 俺の心の叫びは聞こえるはずも泣く、黒牛AとBのラッシュはその後数分間続いた。


「そこまで。この勝負、荒野に二本の角を掲げて立つ、黒く雄雄しき野牛』の勝ちだ」


 ギルドマスターの言葉で、ラッシュが終わった。


 ギルドマスターは俺の隣に立つと、労わるように顔を覗き込む。


「うっ、これはひどいな。ほら、これを飲め」


 若干引き気味で、ポーションが手渡された。


 俺は口の中からにじみ出る血とともに、ポーションを体内に流し込んだ。

効果は劇的で、すぐに血は止まり、傷がふさがった。

ギルドマスターはそれを確認すると、皆に大声で告げた。


「よし、決闘は終わりだ。ここにいる皆で、大浴場へ行くぞ。なぁに、彼が下水道の掃除をしてくれたおかげで、今まで少しだけ臭っていた大浴場が、まったく臭くなくなったぜ」


 ギルドマスターは俺の背中に手を回し、軽く何度か叩いた。


「そんで、お風呂の後はビールで乾杯だ。最初の一杯は俺がおごってやる」


 周り中から割れんばかりの歓声が上がった。

我先にと皆が大浴場へ向かう。

その中には決闘で勝った黒牛達の姿もある。


「ほら、あんたも行くぞ」


 喧嘩して、終わったらもう友達だ、みたいにすぐ割り切れるわけがない。

まして、ベンさんへの謝罪を聞いていないのだから、あいつらと同じ風呂なんぞ入れるはずがない。

俺の憮然とした態度を見て、ギルドマスターは溜息をついた。


「まぁ、あいつらの言い方が悪かったのは分かる。けど、あいつらがベンさんを本気で軽視しているわけではないことは分かってくれ。あいつらも新人の頃、あんたと同じようにベンさんに面倒を見てもらっていたんだ。今回はどうしてもあんたに決闘を受けてほしくて言っただけだ」


「なんで?」


「冒険者になると、他の冒険者と一緒に仕事をする機会は幾度も訪れる。だから、皆、仲間の冒険者の実力や人となりを知っておきたいものだ。それでいつも、新人冒険者にはいろいろ自分をアピールする場が設けられる。今回の場合は、まぁ、あんたが内のマドンナとうわさになったからこういう形になったんだろう」


 ギルドマスターは笑いながら、俺の背中を叩く。


 なるほど、確かにレーアのあの容姿であれば、彼女に恋心を抱く者も多いだろう。

そんな彼女と、いくら鏡を弁償するためだとはいえ、休日一緒にいたのだから恨まれることもある。

理由は分かったが、釈然としないまま、ギルドマスターについて大浴場へ向かった。


 脱衣室で服を脱ぐが、すでに他の冒険者は皆、大浴場へ入っていた。

俺とギルドマスターが最後である。


 大浴場へ入ると、確かに大浴場というだけあって大きな浴槽が目に入る。

たぶん、男ばかりのこの空間での裸の付き合いは、冒険者同士の仲を良くするのに役立っているのだろう。

皆が笑顔でわいわい騒ぎながら風呂を楽しんでいた。

その中に黒牛達もいた。


「いつまで、そんなもので隠してるんだ?男なら堂々とせよ、堂々と」


 俺は一物をタオルで隠していたのだが、そのタオルはギルドマスターの早業によって取り払われた。


「こ、これは!!」


 ギルドマスターの叫び声に、皆がこちらへ注目する。


「まさか、ここで聖剣を出すとは・・・・」


「なんだ、このデカさは・・・・」


「聖剣の担い手というのは本当だったのか・・・・」


大地を統べる者(グランディア)・・・・」


 俺は恥ずかしさのあまり、急いぎ手で隠した。


 つか、こんなことで聖剣の担い手とか思われたくない。

それに、最後に変な名前で呼んだやつ、無駄に渋い声だったけど誰だよ。


 皆に背を向けて湯船につかりながら、やっぱこれっておかしいよなと下腹部見て溜息をついた。


 この日以来、俺は冒険者達から一目置かれる存在になったのだ。




次回から新展開を予定しております。


よろしければ感想いただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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