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第11話:赤狐どもより弱ぇー・・・

初の戦闘シーンです。


皆さん楽しんでいただけたら幸いです。



 ついにこの時が来た。

俺のなめし皮の鞄には、240枚の銀貨と18枚の紙が入っている。

無論、銀貨は下水道の清掃依頼の報酬であり、紙はその完了届けである。

そして今いる場所は、武器防具屋の前である。


 依頼完了をベンさんに確認してもらったのは、今日の昼過ぎであった。

第18区画清掃完了の報酬銀貨30枚と、指名料として銀貨30枚、完了届けを受け取った。

指名料はいらないと固辞したが、すでに冒険者ギルドへはその報酬で届出をしているため受け取ってほしいとのことであった。

俺はありがたく報酬を受け取ると、その足で武器防具屋へやってきたのだ。


 今日、俺は武器と防具を購入し、街の外へ出て魔物を狩る。

ガンガン魔物を狩ってお金を稼ぎ、ベンさんへ恩返しする腹積もりである。

もう、生活系の依頼を受けるつもりはさらさらない。


「いらっしゃい」


 店に入ると、店主らしき男がカウンターで頬杖をついていた。

その目は客を品定めしているようで、さすが冒険者の装備を扱う店の店主だけある。


 俺は一通り店の中を見て回ると、その品数に驚かされた。

武器だけでなく防具も売っているのだから、多種多様ではある。

それはそうなのだが、武器にしても剣だけで数百本並べてある。

これは、選ぶのに骨が折れそうだ。


 一本の剣を手に取る。

刀身に自分の顔が映るくらい磨き上げられ、当然刃こぼれなど皆無である。

柄も握りやすく、良い品であるのは一目瞭然であった。

でも、字が読めないのでそれがいったいいくらなのかさっぱりわからない。


 しかたなく、店主のほうへ向かった。


「すまない、武器と防具を購入したいのだが」


「予算は?」


 武器と防具だけでなく、ポーションなどの薬類も買っておきたい。

その他にも必要なものがあるかもしれないため、とりあえずは金貨1枚ずつといったところか。


「武器に金貨1枚、防具に金貨1枚だ」


「ふむ。得物は何を扱う?」


「そうだな、剣がいいか。槍でも棍でもいいが、一番慣れているのは剣だ」


「それなら、その樽の中にある剣が全て金貨1枚のやつだ」


 店主は店の隅に置いてある樽を指差した。


 樽には20本以上の剣が入っている。


「中古か・・・」


 樽に入っている剣は、すべて使い古されていることが傍目でもよくわかる。


「確かに中古だ。だがな、しっかりと手入れをしている武器しか店頭には並べていない」


 余程自信があるのだろう。


 樽から剣を一本手に取ると、鞘から引き抜いた。

刀身を見ると、確かに綺麗で、丁寧に磨き上げられていることがわかる。

柄も使い古されてはいるが、その分よく手になじむ。

非常にいい仕事をしている。


「確かに良質だな」


 俺は樽の中の剣を一本一本持っては握り、長さ、重さ、扱いやすさを確かめていくが、どうにもしっくり来る物がない。


「すまない、もっと軽い剣はないか?どうやら俺には少し重いようだ」


 樽の中の剣では、俺の体が耐えられそうにない。

腕力が明らかに足りていないのだ。


「そいつらで重いってんなら、あんた冒険者辞めたほうがいいぜ?」


 俺もそう思う。

反論の余地なしである。


 結局、樽の中にある剣で最も軽いものを選んだ。

他のものに比べれば若干刀身が薄くなっているが、許容範囲内である。

柄も滑らないように薄い布が丁寧に巻かれているし、悪くない品であった。


 振っていれば重さになれるし、経験値を積めば肉体も強化されるだろう。

そう考えれば、これくらいが妥当とも思えた。


「じゃぁ、次は防具だが、あんた前衛として戦うんだろ?悪いが、金貨1枚ならその鎧しか買えないぜ?」


 店主が指差したのは、皮でできた鎧であった。

しかも、フルアーマーではなく、急所だけを強固にした服のようなものである。


「これって、なめし皮か?」


「そうだ。皮もそこそこ厚いし、まあ鉄の鎧に比べれば強度は落ちるが悪くないと思う。とくに、あんたみたいなのは、重い鎧なんて着れないだろ?」


 まったくその通りである。

さすが店主だ。


「わかった。じゃぁ、そのなめし皮の鎧をもらおうか」


「毎度あり。今から着るか?」


「頼む」


 そう答えると、店主は鎧を手に取り、俺の体に当てていく。

器用にサイズを調節し、俺へ着るように促す。


 なめし皮の鎧は、思った以上に重かった。

この体になってからは、布の服しか着てないため、当然である。


「ほれ、これが今日からあんたの相棒だ」


 店主が剣を手渡す。

腰に下げると、懐かしさを感じた。

考えて見ると、武器を身につけなかったことなど、ここ100年はなかったのだ。


「あんた、これから初めて魔物を狩るんだろ?だったら、赤狐(リックス)がいいぜ。冒険者ギルドの魔物情報にも書いてあるが、こいつらは突撃してくるしか能がない。団体だと面倒だが、単独行動しているやつもいるし、そいつを狙って狩っていったら楽だぜ。ただ、団体様には手を出さないことだな。次々増えていくらしいし」


 店主は俺から銀貨200枚を受け取りつつ、魔物の情報をくれた。

今後お得意様になるであろう俺へのサービスだろう。

顧客を捕まえる術をよく知っている。

さすが店主だ。


「分かった。これから冒険者ギルドへいくし、ちょっと魔物の情報を調べてみる。それじゃぁ店主、また来る」


 軽く片手を挙げ、出口へ向かって踵を返した。

今の実力がどの程度か、やっと知ることができる。

ニヒルな笑みを浮かべ、俺は戦いへの第一歩を踏み出した。


「あ、俺は店主じゃないぜ?ただの従業員だ」


 まさかただの従業員だったとは・・・。

俺はずっこけないよう必死に踏ん張った。


 店を出ると、自分の姿を再度確かめる。

細身の片手剣、まだ傷のないなめし皮の鎧、なめし皮の鞄。

とんだなめし皮野郎だった。


「ま、まあ武器も防具も買えたし、問題ないだろう。さて、冒険者ギルドへ行くとするか」


 冒険者ギルドへ着くと、まずは下水道の依頼達成報告をするため列に並んだ。

相変わらず人が多い。

それも全て冒険者であるから、この世界では皆が先輩である。


「しかし、誰にも負ける気がしないな」


 見渡して見ても、俺より強いやつは皆無に思えた。

やはり、強者は前線へ赴いているのだろう。

であれば、ここにいるのは弱者だけである。


 そんなことを考えると、右端の受付が空いたのでそこへ向かった。


「ひっ、なんか、悪寒がしたような気がする」


 誰かに睨まれた様な気がして、その方向を見るとレーアがいた。

レーアは左端の受付にいた。

めっちゃ睨んでいた。

あの鬼がまた現れたのだ。


 俺は逃げるように、空いた受付のカウンターの前に立った。


 目の前には眼鏡をかけた、ほわほわした受付嬢がいた。

レーア以外の受付嬢がいるのはなんとなく知っていたが、なんと言うか、この受付嬢はレーアとタイプが間逆である。


「いらっしゃいませー、今日はどういったご用件でしょうかー?」


 おっとりしたタイプのようで、癒される。


「以前から受けていた下水道の依頼が終わったから、その報告に来た」


 そう言って、完了届けを差し出す。


「確かに、完了してますねー。では、承ります。お疲れ様でしたー」


「ありがとう。それと、魔物の情報を知りたいのだが、それってどこにある?」


「それなら、そこの部屋が情報室ですよー」


 俺は礼を言うと、情報室へ向かった。

そこは以前、レーアに連れ込まれた個室の隣にあった。


 扉を開けると、中は本棚で埋め尽くされている。

魔物の情報は紙媒体で保管されているようだ。


 俺は本を一冊手に取る。

そして、ぱらぱらめくると、すぐに本を棚へ戻した。


 まったく読めない。


 困ったと腕組をしていると、後ろから咳払いが聞こえた。

振り返ると、鬼がいた。


「別にいいんだけどさ、あからさまに私を避けるってどういう了見?」


 レーア様はご機嫌ななめのようだ。


「いや、避けたわけでは・・・」


「避けたよね?こっち見たよね?でもキャロルのところへ行ったじゃん」


 あのほわほわした受付嬢はキャロルというらしい。

癒し系であるから、今度から彼女のところへ並ぼうか。

でも、レーア様怒るからなぁ。


「あれは、たまたま空いてたからで、別に他意はありません」


「本当に?」


 レーアが眉間に皺を寄せて睨む。

手足が俺の意思とは無関係にガタガタ震える。

もう、恐怖しか感じない。

いつか、心臓止まるんじゃないか?


「まぁいいわ。それで、そんな格好をしてるってことは、魔物を討伐しに行くって事でしょ?」


「その通りです」


「ふ~ん、それで情報室に。字も読めないくせにねぇ」


 レーアが腕を組んで、嘲るような笑みを浮かべる。

普段なら「ばかにすんなよ」と怒るところであるが、相手がレーア様なのでそれもできない。

先生に怒られた生徒のように下を向く。


「ほんっとに辛気臭いわね。それで、どの魔物の情報が知りたいの?」


赤狐(リックス)


「あぁ、新人の定番ね。ちょっと待って」


 レーアはそう言うと、本棚から一冊の本を取り出してページをめくり始めた。


「あったあった。いい?赤狐はこの世界に広く分布している魔物で、その特性は小柄で群れるとのこと。生息地は、この街の周辺の平原や森なら大抵いるらしいわ。危険度は『D』で、新人は単体でいるところを倒すことがおすすめだって。倒すのが長引けば、仲間を呼ばれたりするから撤退推奨ってあるわ。あと、今は時期的に毛皮が売れるし、肉は食用になるから一匹あたり銀貨50から80枚くらいが相場になるらしいわ」


「ありがとう。助かった」


「別にいいわよ、これくらい。魔物の買取はギルドでもしてるから、せいぜいがんばって来なさいよ。それじゃぁね」


 手を払うように振って、レーアは部屋から出て行く。

やっぱり、良いやつではあるんだよな。

キレると怖いけど。


「さて、では情報も手に入ったし、街の外へ行ってみるか」


 冒険者ギルドから外へ出ると、そのままメイン通りを南下し、南門を目指した。


 南門はさすが、街の入り口だというだけある。

さながら、南門が正門なら、西門は裏門である。

それほどまでに、大きさも作りも違っていた。


 俺は南門にいる衛兵に冒険者のタグを見せ、街の外へ出た。


 この世界では、始めて街の外へ出たことになる。

人工物のない、一面自然のそこは、俺にとっては慣れ親しんだものである。

転生前の世界でも、冒険者としてよく平原や森、谷、山など様々なところへ赴き、魔物を討伐した。


 あの時の感覚が蘇るような気がした。


 街の中とは違い、いつ魔物に襲われるか分からない。

気を張り続けるつもりもないが、気を抜くことは下手したら死につながる。

その絶妙なバランスがあることを経験として知っていた。


 しばらく歩くと、目の前に平原が広がった。


「ほぉーー!」


 思わず感嘆の声を漏らす。

水平線の向こうまで平原が広がり、そこは自然の楽園と化していた。


 平原の中で、周囲を確認してから剣を抜いた。

俺が扱う剣の流派は、俺が生まれた世界のものだ。

それを転生しても忘れることなく精進してきた。


「ふっ」


 一息吐くと、11の型、全てを行った。


 できる。


 体が変わっても、知識は失われない。

確かに、体格の違いも筋力も違うのだから、当然違和感はある。

しかし、戦えるだけの確信が持てた。


 再度、11の型、全てを行う。

うむ、やはり違和感がある。

なんかこう、重心がずれていて、振られるような感覚があった。


 再々度、11の型、全てを行う。

やはり重心がぶれる。

薄々原因は分かっていたが、ここで確信が持てた。

それに、前々から思ってもいた。


 俺の()()が無駄にでかいことを。


 キジを撃ちに行くたび、分かっていた。

でも、それが戦闘の足かせになるとは思っていなかった。


「ま、まぁ、身体的特徴だし、慣れれば大丈夫だろう」


 微妙な顔をしていると、視界の隅を何かが横切った。


 一瞬で臨戦態勢に入ると、案の定、そこに一匹の魔物がいた。


 赤毛の小柄な狐で、あれが赤狐(リックス)で間違いないだろう。

周囲を見渡すが、仲間の影は見当たらない。

チャンスである。


 音を殺してゆっくり近づく。

あと数歩のところで、一気に距離をつめた。

先制攻撃である。


 横薙ぎの一線は、見事に赤狐を捕らえたかに見えた。

しかし、身を低くした赤狐の右耳を切り裂くにとどまった。

やはり走ってからの一撃では、照準が合わない。

まだ、この体に慣れていないのだ。


 赤狐に逃げられると思ったが、赤狐は一声遠吠えをすると、一気に加速して突撃してきた。

それをギリギリで交わし、すれ違い様に袈裟切りを放った。


 鮮血が飛び、赤狐は瀕死の重傷を負っている。

それでも、再度突撃を仕掛けてくる根性は見事であった。

狐は狡賢いイメージを持っていたが、なかなかどうして潔いではないか。


 赤狐は再度遠吠えすると、最後の命の炎を燃やして突撃を敢行してくる。

俺は正面から迎え撃つと見せ掛け、ヒラりと身を引き、上段から打ち下ろした。

赤狐の首が宙を舞う。

初討伐達成である。

楽勝だ。


 そう思ったときはもう遅かった。

俺の周りをぐるりと赤狐どもが囲っている。


「なるほど、あの遠吠えは仲間を呼ぶためのものだったか」


 背筋を冷たい汗が流れる。


 さっきの感覚ならば、1匹、2匹なら対応できる。

しかし、赤狐どもの数は10匹を優に超えている。


 それでも。


「こんなところで負けてたら、一生魔王なんて倒せやしない。かかってこいや」


 一番近くにいた赤狐を剣で切り裂き、挑発する。


 そこからはもう一方的だった。

考えても見てくれ。

十数匹の狐がロケットのように突撃してきたらどうなるかを。


 最初の2、3匹はいなし、払いぬけ、避けた。

でも、一度バランスを崩して突撃を受ければ最後、永遠のような打撃を全身に浴びることになる。


 もう無理であった。


 体中ぼろぼろで、せっかく買ったなめし皮の鎧には無数の傷が入っている。

その場に留まることは不可能で、逃げに逃げた。

ボロボロになりながら、泣きながら走った。

後ろから聞こえる吐息が、恐怖以外のすべての感情を消し去る。


 どうにか街の門までたどり着き後ろを見ると、すでに赤狐の姿はどこにもなかった。


 俺はとぼとぼとベンさんの元へと向う。

初めての魔物討伐は、ほろ苦いもので幕を閉じた。


次回は、恒例の先輩冒険者からけんかを売られます。

はてさて、どうなることやら。


お楽しみに!



美人の受付嬢へのファンレターや、小説の感想お待ちしてます。

ぜひ、よろしくお願いします。

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