第101話:リベンジの流れに弱ぇー・・・ part2
漆黒の剣をゆったりと構え、間合いを計る。
同時に先ほどティファニアからもらった魔力回復薬を数滴口に含んだ。
「くっ~~~!!」
来た来た来た!
この万能感、超越感。
最早敵はなし。
自然と笑みがこぼれるが、笑みを浮かべると口から違うものがこぼれそうで慌てて引き締める。
ダルタールが剣を構え、突撃してきた。
だがもう遅い。
俺は既に、口に出すことなく諸々の強化魔法発動し、重ね掛け済みである。
ダルタールは間合いに入ると袈裟切りに剣を振る。
その速度は達人の域に達している。
並の冒険者であれば見切ることも、まして防ぐことさえ不可能だ。
残念ながら今の俺は、並ではなかった。
身を半歩分反らし、ギリギリでかわす。
そのまま左手でダルタールの剣の柄を抑え、動きを完全に封じた。
後は右手に握る『真なる闇』を振り下ろすだけで勝負が決まる。
もちろん殺すつもりはない。
一瞬で剣の握りを変え、ダルタールの横っ面を叩くように振り下ろした。
瞬間、ピキッーンと俺の全身を稲妻が駆け巡った。
「うっ、がぁあぁぁ!!」
右の上腕二頭筋の強烈な痛みと、振り下ろした剣の腹がダルタールを直撃するのと同時であった。
「ぐふっ」
これはあれだ。
肉離れ、別名ミートグッバイ。
俺は剣を落とし、左手で腕を押さえる。
くそっ。
どうやらこの体ではあれだけの負荷を耐え切ることができないようだ。
次があれば、肉体強化だけでなく肉体の耐性も強化しなければ話にならない。
二つの魔法を常時展開すれば、魔力の枯渇はより一層激しくなる。
ままならないものだ。
などという考えが一瞬頭を過ぎるが、今はそれどころではない。
呼吸を整え、腕を伸ばす。
「セリア様の勝利ですね」
振り返ると、勝ち誇った顔のティファニアが良い笑顔をしていた。
リンカはガッツポーズをし、レーアは頷いている。
クソっ!
こいつらが心底恨めしい。
顔を歪めながらダルタールを見ると、完全にのびていた。
俺は深く息を吐き出すと、落ちていた剣を拾いマジックポーチへ収納する。
「レーア、ポーションをくれ。腕がくそ痛てぇ」
俺の要求に対し、レーアはため息を吐くとポーションを差し出した。
「いや、開けてくれよ。片手では蓋が開けられない」
「セリアさんは情けないですー。仕方がないので私がやりますー」
リンカがレーアからポーションを受け取ると蓋を開け、俺へと差し出す。
「助かる」
言うが早いかポーションを奪うように受け取ると、口の中へ流し込む。
ポーションが五臓六腑へと染み渡る。
魔力回復薬が麻薬であるなら、このレーア産ポーションもまた違った意味での麻薬である。
もうやめられそうにない。
痛みが和らいだ俺は、真剣に魔法回復薬とポーションのチャンプルを考えていた。
つまり、どういった割合であわせれば効果を損なうことなく使用できるかといったところだ。
まぁ、これは今後の宿題である。
そんなことを考えている間に、レーアはダルタールにもポーションを使っていた。
しかも俺に渡したやつよりも高価なやつだ。
この差はいったいなんだろうか?
顔か??
「くっそ、俺は負けたのか?」
「あぁ、もう完璧な負けだ」
正気に戻ったダルタールへ追い討ちをかけるように言う。
「くそが。俺が人族ごときに負けるとは・・・・」
どうやら現実を受け止められないようだ。
まぁでも、ここでフォローするつもりもない。
俺達はさっさとここからおさらばする。
ダルタールとの戦いを見ていたエルフ達は、俺へ畏敬の念を抱く者と、恐怖を抱く者とに分かれる。
あぁ、あと殺意を抱く者もいるな。
先ほどから木陰に隠れて俺へ鋭い眼光を向ける者がいる。
あれは、ティファニアの姉だな。
確かダルタールの婚約者とか言っていたし、俺へ恨みを抱いたようだ。
何というか、ティファニアに似て美人であるから逆に恐ろしく感じる。
俺は急いで準備されている馬車へ向かうのであった。
馬車に揺られ、来た道を戻る。
エルフ族の領域外へ出なければ転移の魔法陣が使えない。
もっとも、これだけ木々が生い茂っていればどこからどこまでが彼らの領域で、どこからがそうではないのかわからない。
もちろん来た道もわからない。
俺はただ、ティファニアに言われるがまま、御者台に座って馬を真っ直ぐ進ませる。
・・・・そう、俺は結局御者台に座らされているのだ。
腰は大丈夫か? だって??
大丈夫なわけがない。
ここのまま数日過ごさなければならないと思うと、正直に言ってかなり憂鬱である。
再発した腰の状況も悪いし、一度シュタットフェルト魔法学院へ行って『女帝』に特効薬を処方してもらおうかと真剣に悩んでいた。
そろそろ限界だ!!!
と叫ぼうとした頃、ティファニアからエルフ族の領域を抜けたことが伝えられた。
そのティファニアだが、ほっぺたにお菓子をつけていた。
・・・・は?
俺は外で御者台に座ってたのに、こいつらまたお菓子食べてたのか?
ちょっとキレそうになりながら馬車の中を除く。
レーアとリンカの様子も気になったのだ。
・・・・は? え?
思わず二度見してしまった。
馬車の中は馬車ではなかった。
いや、馬車なのだが、まるで高級旅館の一室のようになっていた。
魔改造である。
こいつら乗り心地を良くするために馬車の中を魔法で改造したようだ。
まぁ、確かにティファニアとリンカがいれば十二分に可能だろう。
そしてこれを設計したのは間違いなくレーアである。
こいつ以外では、こんな部屋を想像することもできないだろう。
「お前ら、いくらなんでもこれはやり過ぎではないか? 今から転移するんだし、これどうすんの?」
呆れながら尋ねる。
「もちろん馬も馬車も連れて行くわ」
マジか・・・・。
4人でここからシュタットフェルト魔法学院まで転移するだけでもものすごい魔力が必要である。
加えて馬車までとなると・・・・大丈夫か?
俺が眉を潜めたのに対し、ティファニアが慌てて口を開く。
「リーフ族の森は、距離にするとシュタットフェルト魔法学院よりも近くにあります。ただ、あちらも森に特殊な結界が張ってありますので、近くの街に転移してから馬車での移動になるんですよ」
「あぁ、なるほど、なる・・・・これからまだ馬車でいどうするのかよ!」
「はい」
ティファニアが可愛らしく首を傾げながら肯定する。
くそっ。
こうなったらレーアにポーションをもらって耐えるしかない。
それでシュタットフェルト魔法学院へ行って『女帝』から秘薬をもらおう。
俺は覚悟を決め、地面に魔法陣を描き始める。
近場に転移するわけではないため、できる限り魔力を節約できるよう複数の魔法陣を合成する。
「まだですか~?」
いつもより丁寧且つ複雑に描いたことで、想像以上に時間が掛かった。
どうやらその様子に業を煮やしたのだろう。
リンカが馬車から顔を出す。
「もう少しだ」
「はーい。じゃぁ、セリアさんのお菓子も食べちゃいますねー」
そう言ってリンカは馬車の中へと引っ込んだ。
あいつら俺が外で作業をしているのに、馬車の中でお菓子食べてるのかよ。
つか、俺のも用意してくれてたのか?
少し嬉しかったが、リンカが食べるのであればもらえない。
俺は涙をこらえながら魔法陣を描くのであった。
完成した魔法陣にティファニアが魔力を通す。
どうやら問題なく転移できるようだ。
本当にティファニアの魔力量は底なしである。
「では行きます」
ティファニアが告げると、俺達を淡い光が包み込む。
そして瞬きした次の瞬間には、異国の街を眼前に捉える丘の上に転移していた。