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第100話:リベンジの流れに弱ぇー・・・

記念すべき100話です。



 それからの記憶はおぼろげである。

別に、宴で酒をたらふく飲んだわけではない。

ただ、彼らの尊厳を傷つけるだけの言葉を送っている。

だから彼らが怒っていないはずがない。

そう考えると酒を飲んでも酔えず、宴を楽しむ気分ではなかった。


 どうしようか?

謝れば協力してくれるか?

土下座か?

やっぱり土下座が効果的か?


 そんなことを考えていると宴の酣は疾うに過ぎ、既に解散の兆しを迎えていた。

そこでやっとレーア達が俺の元へと近づいてくる。


 三人共、赤みがかった満足そうな顔をしている。

どうやら存分に楽しんだようだ。

俺はまったく楽しくなかったけどな。


「どうしたのよ。そんな辛気臭い顔をして」


 (笑)でも語尾につきそうなほどレーアの機嫌が良い。


「そうです。セリアさんが主役なんですからー!」


 こいつも(笑)が語尾についていやがるな。

くそっ。

どいつもこいつも人の気も知らないで。


「セリア様、もしかしてエルフ族の食事は口に合いませんでしたか?」


 心配そうに見つめてくるティファニア。


 うむ。

その問いは間違いではない。

間違いではないが、そうじゃないんだよなぁ。


 内心苦笑いを浮かべ、俺は族長から聞いた世界樹の子葉の話を皆に聞かせた。


「・・・・つまり、あんたが粋って協力してくれないだろうってこと?」


「・・・・はい」


「さすがセリアさんですねー」


 楽しそうにリンカが俺の肩をバシバシ叩いてくる。

お前絶対今の状況わかってないだろ?


「ですが、リーフ族が古竜を呼び出し、人族へ攻撃を仕掛けたのも事実です。セリアさんの言い分もわかります」


 ティファニアはすかさずフォローする。


「だったらティファニアは世界樹が復活しなくてもいいの?」


「それはダメです」


 レーアの問いにティファニアが即答する。

彼女がエルフ族の悲願である世界樹の復活を諦めるはずが無い。

それに、世界樹の復活は俺とティファニアの約束である。


 選択肢は少ない。

奪うか、協力を要請するか。


「なぁ、力ずくでってのはなしだよな?」


 一応問いかけてみる。

もっとも、戦力としてカウントできるのはティファニアとリンカだけだ。

それでもリーフ族は先の戦争で少なくない被害を受けたはずである。

十分に勝機はある。


「うわっ・・・・」


「セリア様、それはさすがに・・・・」


「ドン引きですー」


 皆がっ引きつった顔で俺を見る。


「い、いや、一応聞いただけだぞ。一応」


 とは言ったものの、内心ではマジである。

ただ、戦いとなれば下手すると、彼らリーフ族の存亡を賭けたものになるかもしれない。

ルーンア族にとって「子葉」が宝であると同様に、リーフ族にとってもそうだろう。

ならば、彼らは全力で抗ってくる。

それは、俺達がすることではない。


「はぁ・・・・。今から謝る練習でもしておくよ」


 ため息をつき、俺は寝泊りしている家への帰路に着く。


「いや、謝ってもダメでしょー」


 後ろから、追い討ちをかけるようなリンカのつぶやきが聞こえたような気がした。




 エルフ族の朝は早い。

それは昨日まで宴が催されていても変わることはない。

だれもが二日酔いとは無縁で、何事もないように過ごしている。


 各言う俺は、昼近くに起きた。

そして、予想以上の頭痛に悩まされている。

やはりポーションが欲しいところである。




「なんと! トレントの森ですか」


 頭痛と迫り来る吐き気に耐え、とりあえず族長の家までたどり着いた俺は約束していたトレントの森について話をした。


「そうだ。あれから少し時間が経ってしまったから、今どうなっているかわからないけど、冒険者ギルドへ管理を任せたから多分大丈夫だろう。さすがにトレント達を討伐するような冒険者はいない・・・・と思う。で、エルフ族にその管理を任せたい。ついでに人族と交流を図ってくれればなお助かる」


 俺の要請に対し、族長は考える素振りを見せたが、それも一瞬だけである。

大きく頷くと笑顔を見せた。


「分かりました。トレント達とエルフ族は共存できます。そこを拠点に人族と交流するのも悪くはないかもしれません。今の若いエルフ達は外界のことをほとんど知らず育ちました。これからは人族との交流をする時期に来ているかもしれません」


 正直、俺は驚いていた。

これまで他の世界で会ったエルフ族は、皆が偏屈集団であった。

多種族を見下し、秘密主義を掲げる。

そんな姿を見続けて来たため、ここまで話の分かる族長がいるとは思わなかった。


「本当に助かる」


「いえいえ。話を聞く限り、おそらくこれはティファニアの独断ではないかと思っているのですが?」


 族長がニヤリと笑う。

トレントの説明をした際、ティファニアが皆を説得したことは言っていなかったが、どうやらお見通しのようだ。

俺は苦笑し、頭をかいた。

どうやら、この族長に勝つことはできそうにない。

洞察力も、人間的にも。



 トレントの森の問題が片付いたので、あとは世界樹の子葉である。

若干憂鬱になりながらも皆の元へ戻ると、既に旅の準備を始めていた。

エルフ達も協力的で、携帯食である干した果物や薬草などが渡される。


 ふむ、これは協力的というか、早く出て行って欲しいといったところだろう。

俺が皆の様子を観察していると、後頭部をひっぱたかれた。


「あんたも準備しなさいよ。今日出発するんだから」


「きょ、今日!」


 いや、既に昼を過ぎている。

ここはエルフ族の里であるから、転移魔法の使用は難しい。

ならば、彼らの領域外まで、馬車で移動しなければならない。

どう考えても明日にした方がいい気もするが・・・・。


「どうせ森を出るまでは何日か野宿するんだから、出るなら早いほうがいいでしょ?」


 レーアの言い分にも一理ある。


「はぁ~、分かった。今日出るか」


 返事をしながら腰をさする。

せっかく痛みが和らいできたのだが、どうやらまた酷使するしかないようだ。

だれか代わりに御者台へ座ってくれたらいいのに。

まぁ、そうもいかないよな。


 男はつらいぜ・・・・。




「セリア様、こちらにいらっしゃいましたか」


 ちょうど荷物をまとめていると、ティファニアが話しかけてきた。


「どうした?」


「こちらをどうぞ」


 そう言って手渡されたのは、以前みたことがある小瓶だ。

中を透かして見ると、真っ赤な液体は三分の一程度しか入っていない。


「いいのか?」


「はい。薬師によるとこれだけしかないようです。」


 申し訳なさそうにするティファニア。


「いや、これだけでも助かる」


 礼を言うと、ティファニアがニコッと笑う。


「さて、準備は整ったな。じゃぁ、行くか」


「セリアさん、なんかこの前のエルフ族のイケメンがすごい形相で残念なセリアさんのこと探していますよー?」


 俺の言葉と同時に、リンカが部屋へ飛び込んできた。

くそっ。

これから出発って時に誰だよ。

つか、エルフ族のイケメンって大概イケメンだろうが!

それに残念なセリアさんってこいつ・・・・。


 リンカの言葉に若干イラっとしたが、とりあえず誰が来たのか確認する。

そこにはおいしいソース、もといダルタールが家の前で仁王立ちしていた。

まぁ、確かにイケメンではある。

だが、こいつは面倒くさい。

正直ここはスルーすべきだと思う。


「あ、ここにセリアさんがいますよー!」


 リンカが外へ飛び出して、俺の所在を告げる。

俺の気持ちなどこいつには関係ないようだ。


 俺はため息混じりに家の外へ出る。


「何か用か?」


「認めねぇ。俺は絶対にお前を認ねぇよ。真剣勝負の前に腰が痛いとか仮病を使って逃げやがって。今度は逃がさねぇからな!」


 つまりこいつは、あの時の続きがしたいようだ。

だが、はっきり言って俺は乗り気ではない。

なぜなら、正直に言って勝てる気がしないからだ。

さて、どうしたものか。


「おー、英雄へリベンジですねー。セリアさん、セリアさん。ここは胸を貸してあげるべきですよ!」


 何言ってんだ、こいつ?

そもそもリベンジじゃねーよ。


「セリア様、私からもお願いいたします。やはり皆にセリア様の偉大さを見せ付けなければ気がすみません!」


 気がすまないのはお前だけだろ!

俺はもういいんだよ、くそっ!!


「だったらこれを少し使うぞ?」


 俺は先ほど受け取った小瓶を掲げる。


「はい。問題ありません」


 それなら、まぁいいか。


 俺は手早く両手の指に指輪をはめた。

ちなみにこの指輪と魔力回復薬による肉体強化の魔法をあわせれば、間違いなくゲキを倒した時よりも強い。

しかも手には業物の愛剣がある。

負けることはまずありえない。

後はこの腰がもってくれればいいのだが。


 腰に手を当て、体を捻る。

僅かに痛みを感じるが、たぶん大丈夫だろう。


「わかった。相手してやるよ」


「よっしゃ。なら広場へ行くぜ」


「必要ない。ここでいい」


 俺の言葉にダルタールは怪訝な表情を浮かべる。

それを無視し、俺はさらに続けた。


「一合だ。それで十分」


 指を一本立てて見せる。


 まさに、英雄が胸を貸すという姿そのものであった。

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