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第99話:魔晶石より弱ぇー・・・ part2



 リシタリカはティファニアの目線まで魔晶石を掲げた。

魔力を込めながら覗き込むと、ティファニアと魔晶石との間に魔力の揺らぎを感じた。

リンカが「はっ」っと息を吐き、あわてて口元を押さえる。

俺が感じるくらいなのだから、リンカにはもっとはっきりとした何かが感じ取れたのだろう。


 しばらくすると、半透明であった魔晶石の色に変化が現われる。

それは次第に濃くなっていく。

無数の茜色と紺色の糸が溶け合い、交じり合って渦を成す。


「赤は体を、青は魔を表します。色の濃さが才を、糸の数が可能性を示します。ティファニアは武術にも魔法にも優れた才能を持っているのがわかります」


 リシタリカが俺達に分かるよう説明する。


「あの、以前見ていただいた時と少し違うようですが」


「そうですね。以前はどこか靄のようなものがかかっていて、ここまではっきりと渦を形成する線が見えませんでした。ですからティファニア、あなたは人族達とふれあい、仲間を得て、自分の力量も目指すべき指針も明確になったのではないですか?」


 リシタリカの言葉をかみ締め、ティファニアが俺の方を見る。


 何だ?

俺の顔に何かついているのか??


「さて、ではそちらの・・・・確かリンカさんとおっしゃいましたか?」


「はーい」


「どうぞこちらへ」


 間の抜けたリンカの返事に驚くことなく、リシタリカが手招きする。

さすがの年の功である。


 リシタリカが魔晶石を掲げると、ティファニアとは全く違う色が現われる。

ゆっくりと回転する渦を形成する糸のほとんどが、濃藍色である。


「これは・・・・、ものすごい魔法の才に恵まれています。エルフ族でもここまでの才を持った者は本当に稀です。どうして人族にここまでの方が・・・・」


 族長とリシタリカが驚愕する。


 先ほどの説明を鑑みると、魔法の才能も可能性もティファニアよりリンカの方があるようだ。

これは驚嘆に値する。

魔法の民であるエルフ族を凌駕する人族。

最早、古今最高の魔法使いになりえる逸材である。


 皆がリンカを見つめる中、リンカは首をかしげ親指を立てた。


 あ~、そうだ。

こいつはアホの子だった・・・・。


「ではレーアさんでしたか? こちらへどうぞ」


「よろしくお願いします」


 外面の良いレーアは礼儀正しく、リシタリカの前へ移動する。

リシタリカが魔晶石を掲げる。


 まぁ、きっとあれだ。

レーアは渦ではなく鬼の文様を形成するだろう。

色は黒に違いない。


 などと勝手に思っていたが、現われた色は全くちがったものである。

赤、青、緑、黄色など、複数の色が複雑に現われている。

これは何だ?


「様々な色が現われるのは良くあることです。まだ、自分の才能も方向性も見えていない方などがこのような形になることがあります。ですが、これが見えますか?」


 そう言ってリシタリカが渦の中心を指差す。

皆で覗き込むように視ると、渦の中心に一本の金糸が見えた。


「これは何ですか?」


 レーアの問いに対し、リシタリカは考え込むような素振りをした後、リンカをじっと見つめる。


「金の糸が現われるということは、あなたには何かとてつもない役割が与えられるということです。それもこの世界を左右する類のものが。金の糸が現われた者は、その大責を担うために指導者として人の上に立つ者が多いです」


 リシタリカが一呼吸置く。

その間、誰も言葉を発しない。

当の本人でさえ、自分にそのような定めがあるとは思っていもいなかっただろう。

レーアは沈黙するだけであった。


「ふぅー、さすがティファニアが仲間と認めるだけのことはありますね。まさか金の糸の持ち主が私の目の前に現われるとは・・・・」


 緊張に包まれていた場が元に戻る。


 それにしても、レーアってそんなにすごい奴だったのか。

ただの暴力的な元受付嬢だと思っていた。

俺はまじまじとレーアを見つめる。


「何よ?」


「い、いや、別に」


 ガン飛ばされた。

レーアに世界を左右するような大責を負わせたら、滅ぶんじゃないのか? とは冗談でも言えそうにない。

まぁ、言わないけどな。


「さて、最後にセリアさんですね」


「だな。じゃぁ、よろしく頼む」


 俺はリシタリカの前へと移動する。

緊張などない。

どうせこの体だ。

身体も魔法も、才能などないだろう。

そうなると、これまでの展開からして俺が英雄であるという疑問が再発するだろう。

よしんば魔晶石が俺の精神を映し出せば、皆が俺にひれ伏すかもしれない。

正直、どちらでも構わない。

大切なのは俺が俺であることだからだ。


 リシタリカが俺の目の前へ魔晶石を掲げる。

ゆっくりと魔晶石に様々な色が浮かび上がる。

赤、青、緑、黄色。

レーアと同様、複数の色の糸が見て取れる。

ただ、・・・・その数が少ない。

どれも1本、もしくは2本である。

ティファニアやリンカのように魔晶石を色で埋めつくすようには見えず、むしろ透明な隙間が目立つ。

これは酷いな・・・・。


 そう考えていると、最後に真っ直ぐな糸が一本現われた。

中央に鎮座するそれがいったい何色なのかよくわからない。

何度も眼をこすり、細めて見るが、ダイヤモンドのように乱反射し、実体がつかめない。


「なぁ、これって何色だ?」


 リシタリカを見ると、彼女は白目を剥き、泡を吹いていた。


「ちょっ、えーっ!?」


 慌てて倒れそうなリシタリカを支える。

更に彼女の手から零れ落ちた魔晶石を地面ギリギリでキャッチした。


「あっぶねー・・・・」


 族長がリシタリカを引き受け、そのままベッドに寝かせた。

いったいどういうことだろうか?


 俺達が疑問を口にしようとした時、「クワッ」っとリシタリカの眼が見開かれた。


「ティファニア! あなたが連れてきた方は英雄などではない!!」


 ものすごい剣幕でまくし立てる。

いや、そんな全力で俺が英雄ではないと否定しなくてもいいのでは?

少しムッとしたが、俺は俺が英雄だと知っている。


「こ、このセリア様は、英雄などではなく、神の使徒ですよ!」


 ん? どういうことだ??

俺は首をかしげ、皆を見る。


 族長は驚き、口を半開きにして固まっている。


 ティファニアも驚いたようだが、すぐに得意気な顔になった。

さも、当然のようにさえ見える。


 リンカは冗談だとでも思ったのだろうか。

俺を指差し、笑っている。

いったい何がそんなに面白いのだろうか?


 そしてレーアであるが、明らかに不審な者を見るような目で俺を見ている。

どうやら見た目がおっさんである俺が神の使徒とか言われても信じられないようだ。


 まぁ、俺も神の使徒ではないと思うが・・・・。

そうでもないのか?

この世界へ俺を送ったのは女神である。

女神と言うくらいだから、一応は神なのだろう。

あんなのでも、な!


「私が生きている間に、あの輝く糸が視られるとは思いませんでした。あれこそまさに、神の使途の証。神がこの世界を救済するために派遣した者こそ、あなたなのですよね? セリア様??」


 リシタリカが確認するように尋ねる。


「確かに俺は、魔王を倒し、この世界を救うために来た」


 俺の答えに、リンカが爆笑する。

こいつは未だに冗談だとでも思っているようだ。


「やはり・・・・。ですが、どうしてあなたの精神はそのような貧弱な器に入っているのでしょうか? それでは本来の力など扱えるはずがありません。神はいったい、何を考えているのでしょう?」


 それは俺が聞きたいところである。

なんせ、英雄然とした容姿から冴えないおっさんになってしまったんだぞ?

あのくそ女神には文句の一つとは言わず、百や千でも足りないくらい言ってやりたい。


 思い出すだけで腸が煮えくり返るようである。


 俺は久しぶりに女神への怒りが湧き上がるのを感じた。




 噂はすぐに広がった。

特にこの外界とは断絶された里では恐ろしく早い。


 人族にあまり良い感情を持っていないエルフ達は、突然『神の使徒』と言われても半信半疑である。

そんな中族長は、俺のお披露目と立場を確立するために宴を開くよう告げた。


 宴の席だが、明らかに俺とその他で差をつけられている。

なんというか、上座が族長ならば、俺はその上の最上座? とでも言うような位置に座らされた。

もちろん、レーア、ティファニア、リンカも近くにいない。

俺は族長がエルフ達に、俺が『神の使徒』であること。

エルフ族は全面協力すること。

間違いなく魔王は倒され、世界樹は奪還されることを説くのを聞いていた。

エルフ達は半信半疑であるが、彼らの悲願が達成される可能性があるのであれば是非もない。


 族長の話が終わり、食事が配られる。

俺の前へは神への供物かのように置かれていく。

だが、・・・・肉が無い。

宴が本格的に始まり、周りを確認しても肉はなかった。

当然である。

エルフ族は肉を食べない。


 レーアとリンカを見るが、彼女達に不満は無いようだ。

彼女達は女性で、一日、二日肉を食べなくても、良いダイエットができたとでも考えるのかもしれない。

俺はため息を吐き、用意された葉っぱやキノコを食べるのであった。


「セリア様、楽しんでいただけておりますか?」


 族長が俺に近づいてくる。

彼以外、誰も俺のところへ来ないのだから楽しいはずが無い。


 俺の微妙な顔を見て察したのだろう。


「どうぞ。こちらは我らが作った果実酒です」


 俺は族長から器を受け取った。

匂いを嗅ぐと柑橘系の香りがする。

一口飲むと、適度な甘さを残し、柑橘の香りが鼻から抜ける。


「うまいな」


「お口に合ってよかったです」


 族長はにこやかに微笑む。


「ところでセリア様、世界樹についてなのですが、彼の樹の力は弱まり、奪還しても自然に元通りにはなりません」


「そうなのか?」


 俺は果実酒をちびちび飲みながら応対する。


「はい。ですが、世界樹を復活させる方法はございます。これです」


 族長が慎重に布を取り出し、それを開く。

中からは一枚の葉が出てきた。


「これは?」


「これは世界樹の子葉です」


 俺はその子葉をマジマジと見つめる。

大地から切り取られたと言うのに、この葉は青々とし、生命力にあふれている。

恐らく空気中の魔素を取り込んでいるためだろう。


「子葉は世界に二枚あります。この二枚の力があれば、世界樹を復活させることができるのです」


「なるほど。それで、もう一枚は?」


「それが・・・・、我らの他にもエルフ族があり、ここより南にリーフ族の里があります。彼らがもう一枚を持っているはずです」


 ふむ。

リーフ族か。

そういえば、どこかで・・・・。


「あ゛! あいつらか!!」


 一気に酔いが醒めた。

そういえば、「お前達の助けは必要ない」と大見得を切ってしまったんだった。

これはどうすればいいのだろうか?

パソコンの調子が悪く、起動したり、しなかったりするようになってしまった・・・・。

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