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第95話:超低空飛行に弱ぇー・・・



 そこからはもはや話し合いにならなかった。

黒幕の存在が明らかとなり、そもそもお互いが被害者と分かったからである。

それでも、ここまで反目し合っていた手前、すぐに手を取り合うことなどありえない。

本当に、面倒な状況である。


 メフィストを介して魔王の手の平で踊らされたとしても、先に仕掛けたのはバンドーンである。

そして、知らなかったとはいえ、古竜を召還したのはバンドーンと同盟を結んでいたエルフ族によるものである。

少なくない被害を被ったメデゥカディア島がすぐに折れることはない。


 バンドーン側にしても、当初の目的であった傭兵の地位向上については、俺によって半ばまで話がついてしまっている。

それ以上の望みはあまりないので、あとは責任を少なくしたいのだろう。


 俺はそんな状況を他人事のように見ていた。

方向性は双方とも終戦で一致している。

それにも関わらず不毛な責任の追及は見ていても暇だ。


 ちょうど3回目のあくびをしたところで、後頭部を誰かがはたいた。


「あ痛っ!」


 後頭部を抑えながら振り向くと、鬼の形相をしたレーアが腰に手を当て仁王立ちしている。

どうやらこの不毛な状況に業を煮やしたようである。

だが、なぜ俺を叩くのだろうか?


「あんた、これどうにかしなさいよ!」


「えぇー・・・・、そんな理不尽な・・・・」


「ならどうするつもり? このままこんな無駄な時間を過ごすの? それなら皿洗いでもして借金返済した方がよっぽど有意義じゃない?」


 それはそうなんだろうな。

けれど、国家間の話し合いに、一個人が参加したって何も変わらないだろう。


「俺にどうしろと?」


「聖剣の担い手の名において、第三勢力として調停しなさい」


 マジかよ・・・・。


「マジかよ・・・・」


 心の声が漏れていた。


「マジよ!」


 ティファニアとリンカを見る。

二人とも俺を見て頷くだけである。

その顔は面倒事から逃げようとするようだ。

くそ、覚えてろよ?


「二人とも、もういいか?」


 グランとレギオスへ声をかける。

両代表はお互いに、冷静に務めてはいるものの内容はヒートアップしていた。

これでは話がまとまるはずがない。


「あのな、このままずっと平行線だと埒が明かないんで、俺が間に入る。いいか?」


 有無を言わせぬ口調で言うが、今の俺にグランやレギオスのような威圧感など存在しない。

よって、当の二人は呆気に取られた顔で俺の方を見るだけである。


「はぁ~、俺も本当はこんなことしたくなかったが、諸事情により介入する。まずグラン、メデゥカディア島は何を求める?」


「我々は・・・・、謝罪と被害を被った賠償を求める」


「賠償ってお前、古竜の亡骸をやっただろ? あれで十二分じゃないのか?」


「それは・・・・」


 口ごもるグランを見て、賠償金よりバンドーンが悪かったと認めさせることが大事なようだ。


「次、レギオス。バンドーンは何を求める?」


「傭兵の地位向上であったが、これは貴殿の提案を受け入れる。次いで、いくつかの魔道具の譲渡」


 なるほど。

バンドーン側は謝罪などしたくないということか。

あくまでも戦いによって目的を果たした、という形にしたいようだ。


「よし。もう面倒だからあんたら二人が言った要求は全て却下な」


「「・・・・は?」」


「今日、この場所へメデゥカディア島の代表とバンドーンの代表が来たのは、俺が古竜を討てる力を持つ聖剣の担い手だからってことだろ? だったら、あんたら二人は四の五の言わず俺が決める停戦協定に同意しろ。しない場合は実力行使する」


「それはあまりに横暴ではないか?」


 グランの物言いに、俺は盛大にため息を吐く。


「メデゥカディア島を守る結界はもう無い。このまま折り合いつかず戦争を続ければ、負けるのはメデゥカディア島だぞ?」


「・・・・なっ」


 俺が突然メデゥカディア島の内情を暴露したことに、グランは目を剥いて驚いた。

レギオスもまた驚愕の表情を浮かべている。


「けどな、仮にバンドーンが勝ったとしても、もう傭兵国家の体を成さなくなる。知っていると思うが、メデゥカディア島に住む9割以上が魔法使いだ。彼らが死兵になればバンドーンもただではすまないだろうな」


「・・・・」


「だからここは停戦するしかない。んで、周りを説得する理由が必要ならば俺のせいにしろよ。それが一番うまくまとまるだろうしな」


 グランもレギオスも、二人とも返事をしない。

ここでも先に返事をすれば弱さを見せることになるとでも考えているのだろうか?


「この停戦を断った場合や、停戦しているのにそれを破った国に対して、俺達は敵対行動を取るつもりだ。それが抑止力になるだろうし、この話をまとめようとする俺の責だろうな」


 権力者に対し、力を誇示することは転生前の世界で何度も行ってきた。

今回もそれと変わらないだろう。


「それならば、しかたあるまい」


「我らも従おう」


 二人が頷き合うのを見て、もう大丈夫だろう。

ここからは両代表とレーアにでも任せるか。


「さて、俺にはやらなければならないことがある。と言うわけで、後はレーアに任せるわ」


「は? あんた何言ってるの?」


 本気で怒りそうなレーアへ拝むように謝り、俺はティファニアへ向き直る。


「これで問題解決ってことで、俺達はちょっと西のエルフ族のところへ落とし前つけに行って来るわ。なぁに、転移で行くからすぐ戻る」


「転移だと?」


 あー、しまった。

思わず言ってしまったが、レギオスは知らなかったな。

頭を搔きつつ華麗にスルーする。


「じゃ、そういうことだから、後よろしく」


「おい、待て。転移とはなん――――」


 その場から走って逃走を開始する。

留まっていては詮索さるし、レーアの怒りの鉄槌が落ちてくる可能性があるからだ。

後ろからティファニアとリンカがついて来ているを確認し、そのまま島の端へと移動する。


「この辺りでいいだろう。ティファニア、エルフ族の一団は今どこにいるか分かるか?」


「少々お待ちください」


 そう言ってティファニアが『千里眼』を発動する。

いつもならばすぐに居場所を特定するのだろうが、古竜を倒してから数日経っている。

そう考えると、エルフ族は思いのほか遠くまで逃げたのではないだろうか?


「見つけました。船上です。どうやら明日にはリーフの森へたどり着きそうです」


 恐らくここへ向かう時に使った海路をそのまま逆走して戻っているのだろう。

だとしても、広大な大海原の中で一隻の船を見つけ出すとは・・・・、さすがティファニアである。


「転移できるか?」


「もちろんです」


「よし、ならば行こう」


 俺はそう言って地面に魔法陣を描く。


 ティファニアが魔法陣へ魔力を込めると、俺達は魔法陣へ入り転移した。


 目の前が切り替わる。

先ほどまで島の端から海が見えていたが、今は船上から海を見る。

ティファニアとリンカも無事にたどり着いたことを確認し、改めて船上を見渡す。

乗組員はエルフ族だけである。


 驚く彼らに対し、ティファニアが一歩前へ出る。


「リーフ族、族長のミュレット様はいませんか?」


 エルフ族の者達は、ティファニアのことは顔見知りだったのだろう。

警戒が若干弱まるのを感じる。


「おや、ティファニアじゃないですか。そちらは・・・・」


 俺とリンカを見るミュレットの目がスッと細くなる。


「こちらは聖剣の――――」


 ティファニアの言葉を途中で遮る。

ここは舐められるわけにはいかない。

俺が直々に、こいつらに自分達がしたことを分からせなければならない。


「俺こそ英雄であり、聖剣の担い手と言われ古竜を屠った者だ。いいか? お前達は人族とか、他の種族と力を合わせて魔王軍へ立ち向かわなければならないのに、あろうことか人族へ向けて古竜という魔物を召還するなど愚の骨頂。これから世界中が力を合わせて戦う場に、お前達の席はない。ずーっと森の奥深くにでも隠れて震えていろ。何があろうと、お前らの助けなど借りないし、必要もない!!」


 俺の一方的な言い方に、ミュレットは細めていた目を大きく見開く。

あっけにとられた顔をしているが、俺としては言いたいことは言ってやった。

よし、帰るぞ! とばかりに踵を返すが、ここは船上であったから帰る場所など無い。

魔法陣を描くのも、こいつらの研究材料を増やすだけだろうからしゃくである。

さて、どうしたものか・・・・。


 そんなことを考えていると、リンカがある方向を指差して言う。


「陸が見えまーす」


 のん気な声とは裏腹に、これ幸いとリンカへ指示を出す。


「リンカ、あの陸まで飛べるか?」


「もちろんです。いきまーす!」


「あっ! おい、まだぁあぁーーー」


 了承する前に、リンカが魔法を発動し俺を吹き飛ばす。

その速度と言えば、あの古竜と対峙させられたときにと同等である。


 ――――つまり、海面スレスレを高速で超低空飛行しているのである。

正直怖い。

怖すぎる。

しかも操るのはリンカである。

こいつは実に楽しそうだ。

ティファニアでさえ、海を見て若干顔を青くしているのに。


「リンカ! おい、リンカ!! 速度を落とせ!」


「ん~、もう着きますので、このまま行きまーす」


 こいつ、言うことを聞きもしない。

本当にこいつは、どうしようもない。


「やめろぉぉ、アッーーー!!!」


 壮大な叫び声と共に、エルフ族達の船との距離は離れていく。

もう、海面での飛行はこりごりである。

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