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第90話:古竜より弱ぇー・・・ part4



 程なくして三つ目の魔法陣が完成した。

俺が描いている間に、教祖の少女達には手を繋いで円陣を組んでもらった。

これが四つ目の簡易魔法陣である。


 他者から魔力を借りるための魔法陣。


 それを受け取る魔法陣。


 魔力を統合する魔法陣。


 統合した魔力を一つの弾丸とする魔法陣。


 あとはこれらを俺の詠唱で形にする。

これがものすごく精密さを要する。

本当に、体が本当の俺であれば、誰の力も借りることなくこの程度の魔法を具現化して見せたのに。

いや、そもそも魔法に頼らず物理攻撃で古竜くらい一刀の下に切り伏せてやれたはずだ。

嘆かわしい。


「よし、準備はできた。この魔法陣にはティファニア。こっちがリンカだ。配置についたら魔法陣へ魔力を込めろ。急げよ? こうしている間にも、古竜と戦っているあいつらの命が消えかねん」


「わかりました」


「はい!」


 二人は俺が指し示した魔法陣の中心に立つ。

俺も彼女達と同様、一つの魔法陣の中心へ向かう。


 二人が魔法陣へ、その膨大な魔力を注ぎ込む。


 ティファニアの魔力が、俺の足元に描かれた魔法陣よりあふれ出す。

これを一度取り込んでしまえば、すぐに俺の魔力限界値へ到達するだろう。

ゆえに、取り込むことなくこれを消費する。


 さて、やろう。

ここから先は人々を救う、真の英雄譚だ。


 目を閉じる。

深く息を吸い、ゆっくり吐き出す。

魔法にのみ集中する。

それ以外のことに関する感覚が鈍くなる。

そして、無となる。


「今、古来より定めし制約を現す。数多(あまた)なる魔力(マナ)は呼応し、円環と成す。時に激しく、何よりも苛烈に、高みへと至る螺旋を登り続ける」


 トランス状態へと至った俺の口から紡ぎ出される言葉。

それらは古代ルーン文字となって宙に漂う。


「幻想ではなく、想像でもない。ただ奔流の中にあって、真を示す。我は正義の使者ではない。我は我欲を満たす者でもない。我は届かぬものを求める登攀者(とうはんしゃ)である。さりとて、屈すること能わず。無限なる研鑽。無数の理念。不屈の信念。我はここに、終焉の一歩を踏み出そう。さぁ、驚愕し、恐怖せよ。我の前に傲慢なる者はいない。百害を持って圧する者もいない。異を唱えるならば抗え、その全てを喰い破ろう。アインシュラーグ、ディザリミットリヴァシュハイテン」


 最後に大きく叫び、目を開ける。

宙に漂っていた無数の古代ルーン文字が発光し、俺の想像を形成する。

光の柱が空へと登り、思い描いた銃砲身が姿を現す。


 その大きさは、口径だけで人の身長の倍以上である。

長さは地上へ出るぎりぎりでとどめている。

ただ、いざ弾丸を発射する場合、標的へ向かって本来の姿を現すはずだ。


 俺は魔法のできに満足し、弾丸の方を見る。


 弾丸はリンカに任せた魔法陣に彼女が魔力を込めることで出来上がる。

教祖の少女達が内包している魔力を集め、リンカの魔力がそれを弾へと変換するのだ。


「もう少し、というところか」


 ポツリと呟く。


 リンカの方も間もなく完成するだろう。

何も心配はない。


「何だこの魔法は・・・・。魔法陣と詠唱の融合だと? そんなことはできないはずだ、誰にも。お前は、一体何者なんだ?」


 先ほどまで呆気に取られ、言葉を失っていた理事長が問いかける。

本当に今更だ。


「俺はこの世界を救済する者だ」


「救済だと?」


「魔王を倒すということだ。それなのに、あんな魔物に後れを取るなどありえない」


 竜種の上位種である古竜をただの魔物だと吐き捨てる。


「バカな・・・・」


 絶句する理事長をよそに、リンカのほうを見つめる。

純粋に魔法陣へ魔力を込めるだけでも、魔法は完成する。

しかしリンカは、その持ち前のセンスで魔力の塊を整形している。

一切の無駄がなく、収縮と圧縮を繰り返す魔力の塊は、俺の想像を遥かに越えた出来を見せている。


 俺は安心して完成を待っていた。





 どれだけの攻撃をかわしただろうか。

コウとユイの二人は、息つく暇もなく古竜の攻撃を避け、魔法を放つ。


 ユイの魔法により、古竜へ明確なダメージを与えることはできていない。

それでも古竜にとって目障りと思えるほどの威力は見せている。


 けれど、古竜の攻撃はその比ではない。

最大出力を落とし、連射に切り替えた攻撃であっても、全てが一撃必殺。

当たれば二人は確実に死ぬだろう。

それも、一片の肉片を残すことなく。


 そんな攻撃をどうにか紙一重で避け続けてはいるが、余波や副次的に発生する建物の破片など、全てを避けることは出来ない。

ゆえに、二人の体は既にボロボロの状態である。


「我が灼熱の炎よ。魔力を喰らい、空を穿て。バーストフレア!」


 何度目の上位魔法であろうか。

最初の頃に比べ、格段に威力が落ちている。

魔力の残量よりも、集中して魔法を放つことによる疲労が要因である。


 ユイの魔法は狙い通り古竜の右翼を撃つ。

しかし、最も薄いと思われる翼の飛膜さえ傷つけることができない。

ユイは自分の不甲斐なさと、これまでの自信は過信であったことを知る。

それでも奥歯をかみ締め、次の魔法に備え魔力を練る。


 古竜が息を吸い込むのが見える。

もう何度目かであるため、攻撃が来る前兆であることを二人は知っている。


 コウはユイを抱えたまま方向転換しようと一歩を踏み出す。

その瞬間、ガクッと力が抜けた。


「くっ!」


 コウはどうにか踏ん張るが、既に『雷帝の剣』の力は半ば解けかけている。

それはつまり、コウに力を与えている4人に何かあったという事である。

そして、もう古竜の攻撃を回避する術がないことを表している。


「くっそ!」


 古竜は動きが鈍った二人目掛けて、容赦なく魔力の塊を放出する。

回避不可能。

悟ったコウは絶望的な瞳で、迫り来る魔力の塊を見る。


「我らを護れ。絶対の盾」


 当たる瞬間、ユイが障壁を展開する。

古竜の魔力に触れた瞬間、障壁が音を立てて割れる。

ユイがすぐさま障壁を張りなおす。


 ユイは歯を食いしばり、練り上げた魔力を全て注ぐ。

4度障壁を張りなおしたところで、どうにか耐え切った。

しかし、満身創痍である。

次の攻撃を防ぐことはまずできない。


 目の前には、雄々しく翼をはためかせる古竜がこちらを見ている。

既に魔力を放出する準備は整っているようだ。


「すみません。もう、魔力が・・・・」


「俺達も限界のようだ・・・・」


 二人は顔を見合わせ、お互いに小さな笑みを見せた。

その笑みは、お互いを健闘するものであり、どこか諦めのようなものでもある。


「最後に、あんたのような魔法使いと共闘できて良かった」


「私も――――」


 コウの言葉に対し、ユイが返事をしようとした、その時。


 ――――空へ昇る光の柱が現われた。


 古竜はすぐさま反応する。

その光の柱が、何らかの魔法であることは明白。

目の前の()()よりも脅威だと感じ、反転する。


 ユイとコウはその様子を見て安心する。

だが、それも一瞬のことだ。


「あんた、もう一発だけ魔法を搾り出せないか?」


「やってみなければわかりません。どうしてですか?」


「最後にあの竜へ一撃加えてやろうぜ」


「本気ですか? せっかく助かったのに・・・・」


「傷一つつけられなかっただろ? それで満足できるか?」


「・・・・できません」


「なら決まりだ。俺も力を搾り出す。最後にあの竜へ目に物を見せてやろうぜ」


「はい」


 ユイが頷くのを確認すると、コウは4人とのバイパスを強制的に遮断する。

そして今度は自分の魔力と闘気を放出し、身に纏った。


 長くはもたない。

この後は確実にぶっ倒れる。

けれど、今この瞬間、コウは自身の力のみで『雷帝の剣』を発動した。


 ユイを抱え上げ、コウはすぐさま最高速へ到達する。

先ほどまで追われていた古竜を、今度は逆に追う。


 古竜に追いつくと、コウはその背へと跳躍した。

右手の剣を構え、背後を狙う。


「今だ!!」


「バーストフレアー!!!」


 ユイが限界を超えて搾り出した魔法が古竜へ直撃する。

二人は燃え上がる炎の中へ進入する。

そして、コウが右手に持つ白銀の剣を突き刺した。


 二つの攻撃により、竜の鱗が剥がれ、剣先が肉へと到達する。

だが、次の瞬間。

古竜が大きく体を振り払ったことで、二人はバランスを崩し空へと投げ出された。


 コウは宙でユイを見る。

彼女は魔力切れで気絶していた。

コウはどうにか彼女の服を掴むと、抱き寄せる。


「エアーフォース! 頼む!!!」


 一縷の望みをかけ、叫びながら風魔法を展開する。

そしてそのまま、地面へと激突した。


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