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第89話:古竜より弱ぇー・・・ part3



コウ達は地下から地上へ戻った。

空を見上げると、食物連鎖の頂点に立つ王者の姿がそこにある。


「殿下。本当に大丈夫でしょうか?」


 イッキが心配そうに尋ねる。


「やらなければどの道死ぬだろ? 俺はむしろ感謝している。どうせなら、誰かの手に命運が握られるよりも、自分の手で未来を決められるほうがいいだろ?」


 ニヤリと笑うコウの姿に、ユーヤ達4人は王としての素質を垣間見たような気がした。


「本当に、あなたというお人は・・・・。これより我ら4人、殿下にこの命をささげます」


 膝を突き、頭を下げる4人に、コウはなんともいえない表情を浮かべていた。


「俺も、()()雷帝の剣を使う」


「しかし・・・・」


「異論は認めない。他国での使用は禁止されているのは知っている。けどな、俺達以外の誰があれを使ったと分かる?」


 4人は顔を見合わせる。

確かにこの状況であれば、使えるものは何でも使わなければならない。

そうしなければ生き残れないだろう。


「そろそろいいですか? 悠長にしていると、取り返しのつかないことになります」


 見れば、古竜は街の上を低空飛行している。

それだけで建物が倒壊していく。

美しかった魔法都市が一瞬にして崩壊していく。

街は混乱の只中にあった。





 多くの者は恐怖を抱き逃げ惑う。

勇気を持ち、誇りを胸に抗う者はその暴風により自身の愚かさを知る。

あまりにも圧倒的な『力』に対し、並の魔法使いではかすり傷すら与えることができない。


 そんな状況の中、ユイは自分にできる最大級の魔法の詠唱を終えていた。

後は狙いを定め、放つだけである。


 ギリッ。

古竜が蹂躙する街を見て歯を食いしばる。

ユイがすべきことは時間稼ぎ。

ゆえに、ギリギリまで攻撃を控えている。

まだ、致命的な被害は出ていない。


 ユイはコウ達と取り決めた策を思い出していた。

否、策と呼べる品物ではない。

ただ、ユイとコウ達で順番に古竜を攻撃することにより、古竜からの攻撃を分散しようというものだ。

しかし、ユイはコウ達が古竜の注意を引けるか半信半疑である。

ゆえに、求められた5分は自身のみで稼いで見せると意気込んでいた。


「グォオォォァァーー!!」


 古竜は咆哮すると、口から魔力の塊を吐き出した。

それは街を通り、一瞬で海まで到達する。

通り過ぎたところはえぐれ、建物も、道も、何もかもが消失していた。


 ふーっ。

ユイは一度大きく息を吐き出す。

背中を汗が濡らし、服が張り付く。

思えば訓練以外、全力で魔法を使ったことがなかった。

否、最近は訓練ですら全力を出す相手がいない。

だから、自分の力を試す良い機会だと思ってた。


 ユイは照準を合わせ、練り上げた魔力を魔法へと変換する。


「喰らいなさい。バーストフレア!!」


 杖から一気に放出された魔法は、一直線に古竜へと向かう。

狙い通り、古竜の顔面に着弾した。

そして、これも狙い通りに、古竜の注意を引くことに成功した。


 ――――ただ、全ての思惑が間違っていた。


 古竜は振り向き様に、口を開き、魔力の塊を吐き出した。


 ユイには圧倒的に経験が足りなかった。

古竜で力を試す?

注意を引く?

それがどういうことか本質的に理解していなかったのだ。


 竜の攻撃と魔法使いの魔法とでは決定的な違いが一つある。

それは発射までの時間である。

魔法使いは詠唱をしなければならない。

高威力の魔法ならば、その長さも延びる。

しかし、竜の攻撃には一息の溜めしかない。

それゆえ、ユイは回避するタイミングを逸した。


 古竜の魔力がユイへと迫る。

分析力に優れたユイには、自分が展開する障壁魔法ではその一撃を受けきることはできないことがわかる。


「リンカ様、すみません。5分、稼げませんでした・・・・」


 迫り来る魔力の塊に対し、ユイは抗うことを止め、生きることを諦めた。




 ユイと別れた後、コウ達はすぐに『雷帝の剣』を発動するための準備を始めた。

『雷帝の剣』とは、魔力と闘気といった本来相反するはずの二つの力を統合した、複合技術である。

ただし、この技術を誰でもは使うことはできない。

研鑽し、受け継がれた血を引く者だけが可能である。


「さてと、早速だが『雷帝の剣』を発動する。お前らの命、俺が預かるぜ」


 コウはユーヤ、イッキ、サキ、シア、それぞれと視線を合わせる。


 コウにはまだ、完全なる『雷帝の剣』を発動することができない。

特殊な血筋。

稀有な才能。

そして、果て無き修練こそが『雷帝の剣』には不可欠である。

コウにはまだ、発動に必要な能力が足りないのだ。


 これは現皇帝以外同じである。

皇族達の誰も、完全な『雷帝の剣』を発動することが出来ない。

ゆえに、歴代の皇族達は別の道を模索した。

それが、他者からの力の譲渡である。


 コウ達5人は幼き頃より一緒に育ち、繋がりを深くした。

そして、5人が5人とも半端とはいえ魔力と闘気を身につけている。

よって、5人の力を合わせれば、『雷帝の剣』を使用することが可能になる。


 コウを中心とし、彼を囲むように残りの4人が方陣を作る。

4人はコウへ片手を向ける。


「「「「偉大なる原初の帝。我ら、御身を敬う忠実なる僕。彼の御身の化身が顕現する、刃の一翼を担うことを許し給え」」」」


「受け取った。この困難に打ち勝つ様を汝らに示すことを誓う」


 コウの全身に(いかずち)が宿る。

右手には白銀に輝く一振りの剣が握られている。


「――――イッキ、どれくらいもつ?」


「5分はもたせます。ですので、全力で戦ってください。我らが殿下を支えます」


 コウは頷く。


 魔力はこの学院に入学してから徐々に増えている。

問題は闘気である。

通常闘気は、一部の達人のみが扱える代物だ。

その頂にたどり着いてない者が使用するには、命を削るしか術がない。

彼ら4人は後者である。


 コウは地面を蹴り、駆け出す。

通った道は地面が抉れている。

今の彼には一騎当千の力が宿っているのだ。


「それでも、あのデカ物を倒すことはできない、か」


 速度を上げ、古竜を追随する。

先行しているユイは既に臨戦態勢に入っているだろう。

彼女が攻撃した後、そこからが戦いの始まりである。


 街に到達すると、目の前を炎の閃光が空へ登ぼる。

ここまですさまじい魔法を、コウは初めて見た。

しかし、彼の直感がささやく。

古竜は無傷であるということを・・・・。


 コウは限界速度でユイへと疾走する。


 ユイの姿を見つけた時と、古竜から魔力の塊が放たれたのは同時であった。


「くっ、間に合うか?」


 全速力で駆蹴る。


「――――え?」


 コウは間一髪でユイの元までたどり着くと、ユイの腰に手を回し抱きかかえた。

そのまま速度を緩めることなく、安全圏へ駆け抜ける。

後方では爆心地から順に、広範囲にわたって灰燼と化して行く。


 どうにか安全圏へたどり着き、後ろを2人は後ろを振り返る。

そこには『無』が広がっていた。

生命も、建物も、何も残っていない。

巨大なクレーターがあるだけであった。


「もう、降ろして」


 しばらく茫然と見ていた2人であったが、ユイの言葉で意識が戻る。

見ると、コウはユイをお姫様抱っこしていた。


「お、おう」


 コウはユイを降ろそうとしたが、頭上に陰が差したため、横へ跳ねた。


 ドードォーン!!

先ほどまで彼らがいた位置を古竜の爪がなぞる。

地面は抉り取られ、地肌がむき出しになる。


「くっそ! 喰らえ」


 コウは『雷帝の剣』を振り上げる。

剣先から雷がほとばしり、古竜の翼に直撃する。

だが、僅かな焦げ跡を残しただけでダメージなど皆無であった。


「愚かな人族よ。我に刃を向けるとは、万死に値する」


 怒号と共に、古竜が追ってくる。

釣れた!

二人は古竜の注意を引きつけられたことに喜んだが、内心迫り来る尋常ではない圧力に恐怖を感じていた。


「俺が足になる。お前は魔法で攻撃しろ」


 コウがユイを抱いたまま言う。


「命令しないでください。私の方が先輩です」


 そう言いながらユイは詠唱を開始する。


「残念。俺の方が年上だ」


 古竜の攻撃を紙一重でかわしたコウは更に加速する。


 こうして、2人だけの5分間の戦争が始まった。


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