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第88話:古竜より弱ぇー・・・ part2



 俺は跪き、地面に魔法陣を描き始める。

必要数は3つ。

適度に複雑なものであり、残された時間も少ないだろうから集中しなければならない。


「貴様、いったい何をしている? ()()をどうするつもりだ?」


 今にも掴みかからんとする勢いでグランが俺に詰め寄る。

だが、その歩みも俺の前に立つティファニアに遮られた。


「先ほどセリア様が忙しいからしゃべりかけるな、と言われたが聞こえなかったのですか?」


 目を細め、今にもブチ切れそうなティファニアに、グランがたじろぐ。


 リンカはといえば、突然現われた自分そっくりの32人の少女へ視線が釘付けである。

戸惑うのも無理はない。

明らかに彼女の複製体だと分かるからだ。

仮面をつけていない少女達とリンカは本当に瓜二つである。

違いと言えば、表情の有無だろうか。


一つ目の魔法陣が完成する。

この調子であれば三つ全て描き終えるのに、そう時間はかからないだろう。

問題は発動した時である。


 今はあの傲慢な竜は、人々を恐怖へ駆り立てるのに忙しい。

だが、さすがに高出力の魔力を感知してはこちらへ反応するだろう。

最低限、極大魔法が完成するまでの時間稼ぎが必要になる。

つまり、時間もしくは、それを稼げる者こそが最後のピースである。


「さて、どうやって時間を稼ぐか・・・・」


「セリア様が魔法を完成させるまでの時間でしょうか?」


「そうだ」


「私がその時間を作ります」


 ティファニアが俺の独り言を聞き、提案してくる。

確かにティファニアならば十分時間を稼ぐことができる。

だが、その提案を聞くことはできない。


「それは却下だ。ティファニアには俺の魔法を手伝ってもらわなければならない」


「そう、ですか・・・・」


 とは言え、どうにかしなければならない。

リンカもティファニアと同様に、極大魔法を手伝ってもらわなければならない。

だとするなら、あとはグランだけが時間を稼げる可能性がある。


 ただ、グランは先ほど聞き捨てならない言葉を発した。

教祖の少女達に対して、「()()」と言ったのだ。

時間を稼いでもらう前に、何も分かっていないグランに分からせる必要がある。


「あの竜を倒すには、莫大な魔力が必要になる。その量は、どれだけ優れた者が1人、2人いたとしても到底足りないほどの量だ。でも、ここには大量の魔力を内包している者が32人いる。彼女達の魔力を使えばあの竜でさえ倒すことができるはずだ。だけどな、そんなことをすれば彼女達は確実に死ぬ」


 魔法陣を描きながら、グランへ竜を倒す方法の一部を語る。

少しでもグランが抱く彼女達への考えを改めてくれないかと期待してのことだ。


「それならば問題ない。それで竜を倒せるのなら、存分に使うがいい」


「はぁ~」


 俺は深くため息を吐いた。

彼女達の命を使うかどうかは、グランが決めることではない。

たとえ、彼女達を生み出したのがグランであったとしても、今、この時、この状況ならば、選択すべき者は彼女達自身をおいて他にいない。


「グラン・シュタットフェルト。お前が何のために彼女達を生み出したのか、どう思っているのかはこの際どうでもいい。お前がすべきことは、彼女達に懺悔し許しを請う事だ」


「何だと?」


「彼女達は生きている。だから、彼女達の魔力を使っていいかどうかは、彼女達に決めさせる」


「馬鹿な。あの者達は私が生み出した、魔力を貯蔵するだけのただの魔道具だ」


「違う。生まれがどのようなものであろうと、彼女達は生きている。意思があるんだ。俺はそれをないがしろにするつもりはない。彼女達全員が了承しない限り、俺は魔法を使うつもりはない」


「貴様も死ぬぞ?」


 グランが俺をものすごい形相で睨む。


「俺が死ぬって? どう思うティファニア?」


「愚問ですね。結界がない今、本来であればセリア様や私達がここにいる意味はありません。早々に魔法によって転移してもいいと思います」


「転移・・・・だと・・・・?」


「そうです。そもそも私達はそうやってこの島へ来たのですから」


 ティファニアが淡々とした口調で語る。


 グランはリンカの方を見るが、彼女が頷いたことでティファニアの言うことが真実であると理解した。


「グォオォォァァー!!」


 竜の咆哮が轟く。

間もなく最後の審判とやらが始まるだろう。

本当に時間がない。

けれど、譲れないことを妥協するつもりもない。

それに、今魔法陣を発動させてもすぐに竜に察知される可能性が高い。

そうなれば、当然ここへ攻撃してくる。

初めはグランに時間稼ぎしてもらおうと思ったが、今のあいつにはどう考えても荷が重過ぎる。


「やはり、最後のピースが必要だ」


「最後のピースですか・・・・、それは――――」


「リンカ様!」


 ティファニアの言葉を遮り、一人の少女が空から降ってくる。

学院が誇る最強の生徒、ユイ・リーベルハイトである。


「まさかこのタイミングで本当にここへ来るとは思わなかった」


 素直に感嘆する。

 

 彼女がここへ至る可能性はずっと考えていた。

彼女の魔法使いとしての才と、リンカへの崇拝にも似た敬愛。

それらを総合的に判断すれば可能性としては、あると思っていた。

だが、まさかこの状況だとは・・・・。


「リンカ様、竜が、竜が現われました。このままではこの島は・・・・」


「分かっているわ。だからそれをどうにかしようとしているのよ」


「どうにかできるんですか?」


「セリアさんなら大丈夫です」


 リンカの言葉を聞き、ユイが俺へ懐疑的な視線を向ける。

どうやら、こいつの俺への評価はかなり低いようだ。

まぁ、これまで散々醜態を晒してしまったから仕方がない。


「今から竜を倒す極大魔法を構築する。それが出来上がるまで時間を稼いで欲しい」


「それは・・・・どのくらいですか?」


「そうだな・・・・5分くらい、か」


「5分ですか・・・・、結構厳しいですね。私の命を差し出しても、それだけの時間を稼げるか・・・・」


「だろうな」


 ユイの言葉に、俺は小さく同意を示した。

仮にユイが魔法を使って竜の注意を引いたとしても、次の一撃を防ぐのがやっとだろう。

二撃目を放たれたら防ぐ術は、彼女にはない。

ならば稼げる時間は1~2分といったところか。


 ユイ一人では、最後のピースの半分にしかならない。

もう半分を埋めるには、やはりグランを行かせるしかないのか?

しかし、それではどうやって教祖の少女達に酬いてやればいい?

グランが罪悪感を得ぬまま彼女達の命を使えば、また同じやり方で人の命をもて遊ぶだろう。

何か、他の方法はないだろうか・・・・。


「おい、おっさん。これは何の集まりだ?」


 洞窟の入り口方向から、コウ達が現われる。

どうやら、塞がれていた入り口を開通させたらしい。


「本当に、これは運がいい。それとも、必然か・・・・。コウ、あの竜を倒すため、力を貸してくれ」


「竜を倒せるのか?」


「あぁ。今から極大魔法を構築する。その時間をユイと共に稼いで欲しい」


「そういうことならしかたねーな。お前達はどうする?」


 コウがユーヤ達4人へ問いかける。


「もちろん殿下と共に参ります」


 ユーヤが代表し答える。

4人は両手の拳を合わせ、コウへ頭を垂れる。


「ちょっ、ちょっと待ちなさい。いくらなんでもこんな魔法使いのいろはも分からないような者達に、そんな役目を任せることはできません」


 ユイがコウ達を指差す。


「彼らは冒険者で、魔物を狩る専門家だ。それに、時間稼ぎなら魔法使いより機動力がある者の方が適任だ。コウなら、いや、コウ達ならうまくやると思う」


「私には、ただ犠牲者を増やすだけのような気がします」


「もちろん彼らにも命を賭けてもらう。ことによっては、その命で数秒の時間を稼いでもらう。理解しているな?」


「あぁ、もちろんだ」


 コウが真剣な表情で頷く。


 これなら任せても大丈夫だろう。

誰も犠牲にならなければ一番良いが、少なくとも彼らの命で5分は稼げるだろう。


 さて、後は少女達次第だ。

俺は真剣な表情のまま竜との決戦へ向かうコウ達と、釈然としない表情のユイを見送る。


「グラン・シュタットフェルト。全てのピースは揃った。後は彼女達の意思次第で、この島の命運が決まる。お前にできることは彼女達への謝罪と許しを請うことだけだ」


「愚かな。貴重な魔法使い達と、余命がせいぜい2ヶ月の人工物を同じ台に乗せること自体間違いだ。そもそもこいつらには――――」


「おじい様!」


 グランの言葉をリンカが遮る。

そして曇りのない瞳でグランを見つめた。

彼女にとって、グランは本当に尊敬し、愛する肉親なのだろう。


 グランはリンカの瞳を正面から受け止める。

すると、次の言葉が出てこないことに気づく。

本当は分かっていた。

人工的に人を作るなど、人道に反すると。

それでも島民や、学院を守るために必要だと思っていた。

だから、わざと目を背けていたのだ。


 竜の雄たけびが聞こえ、地面が揺れる。

どうやら街への攻撃が始まったようだ。


「仕方がなかったのだ。魔力を大量に内包する聖遺物には限界がある。それを人工的に作るには長い歳月を必要とする。ゆえに、人工生命の研究を開始した。そんな時、リンカ、お前が生まれたのだ。類稀なる魔法の才能と、人族において最高の魔力の限界値を持つお前が」


「だから彼女達を作ったと」


「そうだ。全ては島を守るために」


「それを彼女達に言えるのか? 自我を持ち、意思がある彼女達に、犠牲になるために生み出したと言えるのか?」


 竜の咆哮と、竜に抗う者の戦いが始まったようだ。

もう、時間は幾ばくもない。


「言える! 言うしかないのだ」


 グランは少女達の前まで歩き、膝を地面に着く。

そのまま地面に両手をつくと、深々と頭を下げる。


「顔を上げてください」


 教祖の少女の一人がグランへ声をかける。

服装の乱れから、先ほど気を失っていた少女だろう。


「魔道教の教典の中に、助けを求める者には友愛と守護を、矛先を向ける者には裁きと鉄槌を、という言葉があります。私は偽りとはいえ、魔道教の教祖です。ですから、言われるまでもなく、この命は助ける者のために使いたいと思っています。これが私達の総意です」


 後ろに控える少女達が一斉に頷く。

俺が心配するまでもなく、決意していたようだ。


「本当にいいんだな?」


「はい。この島を守りたいと思います」


 意思は固い。

俺もそれに応えなければならない。

そうでなければ、何が英雄だ。


 時折り聞こえる竜との戦闘音。

次第に激しさを増している。

皆が自分の役割を全うしようとしているのだから、俺も自分の責任を果たさなければならない。


 いよいよ、極大魔法の構築へ取り掛かるのであった。

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