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第87話:古竜より弱ぇー・・・



「――――これは貴様の仕業か?」


 グラン・シュタットフェルトは怒りで震える中、どうにか声を絞り出した。

その圧は、さすがこの世界最高の魔法使いと謳われるだけのことはある。

ただ、魔力量、質共にリンカの方が上回っているため、恐れることはない。


「あんたが言う()()というのが、結界魔法の魔法陣ということなら、俺の仕業ではない。そこで寝てるコンラートがやりやがった」


 横穴の入り口で横たわるコンラートを顎でしゃくる。

理事長はチラッとコンラートの方へ視線を向けるが、すぐに俺を睨みつける。


「貴様、彼のような将来有望な少年の責にするとは・・・・」


 理事長の両手に魔力が宿る。

どうやら本気で俺へ攻撃するつもりのようだ。

今はそれどころではないだろうに・・・・。


「魔法陣を壊したコンラートは俺が捕まえたんだから、あんたはまず、この島の人達を守ることに集中しろよ」


「黙れ! 我らに危機をもたらした元凶が目の前にいるのだから、まずはそれを排除することが先決であろう」


 どうやら話し合いにもならないようだ。

仕方がないか。


 俺は剣を構える。

この距離ならば、ある程度の魔法を無効化できる。

その間に気が変わってくれればいいが・・・・。


「大地に宿りし精霊の御霊よ。今、我が呼び声に答え、その真価をここに示せ。ロック――――」


 ――――突然地面が激しく揺れ、轟音と共に、地下の天井が割れた。


 頭上からは、地上と地下を隔てる砕けた岩盤が降ってくる。

詠唱を中断した理事長は、自身を守るために防壁を展開する。


 俺も慌てて防壁を展開しようとするが、既に魔力はほとんど無い。

これはヤバイと、横穴の入り口へ走った。


 間一髪、横穴へたどり着いたことで難を逃れる。

走りながら、確かに俺は見た。

小さなゴーレムが降り注ぐ岩から俺を守ってくれたのを。

それが無ければ、ここまでたどり着くことはできなかったかもしれない。


土煙が収まり、辺りの様子が鮮明になる。

天井に開いた穴から日の光が差し込み、先ほどまで暗かった地下を照らし出す。


 岩盤を形成していた岩が一帯を覆っている。

そんな中、一人の男が立っていた。

先ほどまでとは打って変わって、男の顔は憔悴しきっている。

更に、服装は所々破れ、そこから血が滲んでいる。


 さすがのグラン・シュタットフェルトでも、竜による一撃に加え、無数の岩石による弾丸全てを防ぐことはできなかったようだ。


 それでも男は立っていた。

それは偏にプライドゆえだろう。


 男は顔を空へと向けた。

地上へ続く巨大な穴。

その向こう側に、雄大な姿を現す白き竜の姿が見える。


「あれは、古竜か・・・・?」


 古竜。

原初の竜にして、最強の一角。

体長は竜種の中で最大。

知識量はあらゆる種族を超越している。


 古竜から発せられる圧倒的な圧力。

理事長はどうやら、直にあてられたようで身動きができない。


「――――傲慢な人類よ」


 威圧的な声が響き渡る。

大声量ではないが、直接心へ届いてくる。

恐らく、俺へ対してではなく、島民全てに聞こえているだろう。

奇しくもその方法は、目の前で蛇に睨まれた蛙のようになっている理事長が使う魔法と同様であった。


「その欲深き業は万物を腐敗させる。ゆえに我が裁きの鉄槌を下す。今こそ審判の時。業を悔やみ懺悔せよ」


 咆哮と共に宣言された言葉。

意味を理解できない者でも、今日が自身の命日になることは分かる。

誰もが絶望し、誰もが諦める。

古竜の存在とはそういった類のものであった。


 竜はすぐに攻撃してくることはなかった。

人々へできるだけ長く恐怖を与えたかったのだろう。

そして、その行動は成功していた。


「もう、終わりだ・・・・」


 グランの膝が崩れ落ちるように地面へ着く。

表情からは絶望しか見えない。

彼がこの状態であるなら、恐らく島民全てがそうなのだろう。

抗うことは無意味。

抵抗することは無駄。


 そんな絶望的状況の中でも俺の心が折れることは無い。

なぜなら、俺には『英雄の心』があるからだ。


「――――ふざけるな。たかが魔王ランクでいうとA程度の分際で偉そうに。審判の時だと? お前に人を裁く権利があるわけないだろ」





 少女はその光景を絶望的な表情で見ていた。

空へ鎮座する恐怖の対象。

古竜。


 その一撃で島を守る結界を破壊し、街へ甚大な被害をもたらした。

先ほどまで平和で、いつも通りの朝だった。

けれど今は違う。

周りからは悲鳴と泣き声だけが聞こえてくる。


「何しているの? 怪我してるじゃない。こっちへおいで」


 茫然と立ちすくむ少女の手を、一人の女性が握った。

女性は少女の傷口にポーションをかけ、治療を施した。

少女はされるがまま、無気力に従う。


 治療が終わると、女性は少女の手を取って街の広場へ向かう。


「どうして? もう、怪我を治したって意味無いのに」


 道中、少女は女性への疑問を口にした。

なぜなら、こんな絶望的な状況でも、女性から諦念の心が見受けられないからだ。


「きっと大丈夫。だって運がいいことに、この島にはどんな状況でも何とかしてくれる、本当の英雄がいるから」


 女性は少女へ笑いかける。

嘘、偽りの無い微笑み。

それだけで少女の心は幾分か救われた。


「セリア、頼むわよ」


 女性、――――レーアは小さく呟く。

そして、ポーションを持って自分の戦場へと向かう。

彼女もまた、心が折れていない一人であった。





 俺は空から見下ろす古竜を睨む。

頭の中では、古竜を倒す策を練り続けている。


 横穴の入り口に横たわる少女を見る。

僅かに瞼が動いた。

間もなく覚醒するだろう。


「やはり、あれを倒すにはこの方法しかない、か・・・・」


 できるなら使いたくない方法である。

けれどその策は、最善であると同時に、現状唯一状況を打破できるものだ。


「貴様、何を言っている?」


 ようやく俺の存在に気がついたように、グランの視線の先が古竜から俺へと切り替わる。

数分前の怒気を含む表情は鳴りを潜め、怪訝な顔をしている。


「あの無駄に偉そうな竜を倒すと言っている」


「馬鹿な。いや、馬鹿が! 貴様にそんなことができるはずがない」


 こいつ、なぜ言い直した?

俺はグランの誹謗に対し、引きつった笑みを浮かべる。


「は? できるし。つか、本当の俺だとあんなやつはワンパンだよワンパン! なめんなよ?」


 グランがため息を吐く。

くそ、こいつ全然信じていやがらない。


 俺は大きく息を吸い込む。


「ティファニア! リンカ! 来い!!」


 声を張り上げる。

俺には確信があった。

先ほどゴーレムの魔法が見えた。

間違いなくリンカのものだ。

彼女はこの近くにいる。

そうであるなら、ここまで連れてきたティファニアもいるはずだ。


 反応はすぐにあった。

何者かが地上から飛来し、俺の隣へ着地する。


「お久しぶりです。おじい様」


「な、なぜお前がここにいる! それに、この女はエルフか?」


 隣に立つのは、ティファニアとリンカ。

俺が知る中では、この世界最強の魔法使いの二人だ。


「おじい様、今はそれどころではありません。セリアさん、あの竜を倒す方法はあるのですか?」


「ある」


 力強く頷く。


「わかりました。私は何をしたらいいですか?」


 お!? 今日は随分と物分りがいいな。

それだけこいつも焦っているということか?

まぁ、ここってこいつの故郷だしな。


「リンカはここの岩をどけろ。魔法陣を展開するのに邪魔だ。ティファニアはそこの横穴へ行け。数十名少女がいるから、全員連れて来てくれ。頼めるか?」


「もちろんです」


「わかりましたー」


 二人の返事を聞き届けると、俺は俺で準備を開始する。

まずは使用する魔法陣を頭の中で整理するか。


「どういうことだ?」


 動揺するグランが俺へ質問する。


「どうとは?」


「わかるだろ? なぜリンカがここにいて、お前の指示に従う?」


「その話は後で本人に聞け。俺は今忙しいからしゃべりかけるな」


 俺はグランをぞんざいに扱うと、思考の渦へと落ちていく。


 使用する魔法陣は大よそ見当をつけている。

だが、それを描く時間がない。

ゆえに、それさえも魔法陣で補う必要がある。


 古竜を倒すには、当然あいつ以上の出力を誇る攻撃をしなければならない。

転生前の俺であれば、物理攻撃による単独撃破も十分可能だろう。

だが現状、そんなことができるやつはここにいない。

可能性があるとすれば魔法しかない。


 極大魔法を展開し、なおかつ高威力を実現するためにはいくつかの条件が必要になる。

まず、潤沢な魔力である。

これは主に威力に関係する。

あの竜を倒す量を計算すれば、笑えない量が必要になる。

ティファニアやリンカでさえまったく足りない。

ただ、これはどうにかする目処はある。


 次に巨大な魔法陣である。

これは主に魔法の展開に関係する。

大きければ大きいほど、任意の魔法を発動させやすくなる。

現状、空間には限りがあるし、大きい物を描ける時間もない。

代案はあるが、効率がすこぶる悪い。

それを補うためには、やはり魔力が必要になる。


 最後に詠唱である。

通常、詠唱と魔法陣は別に使用される。

これは、魔法体系を混同するとお互いに作用してうまく魔法を発動することができないからだ。

しかし、二つの体系を十分に理解し、補完しあう事でどちらか一つを使って発動した魔法よりも高難易度の魔法を実現することができる。

そして、俺にはそれをするだけの知識がある。


「よし、方針は決まった」


 思考の渦から帰還する。

目の前にあった岩石は、リンカが魔法で払っていたようで既にない。


 横穴の方を見ると、先ほどまで意識のなかった少女が目を覚ましたたずんでいた。

そして彼女の後ろには、31名の()()がいた。


 さて、これでほぼ準備は整った。

残るピースは後一つ。

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