序章
初投稿です。
まだまだ、勝手がわからないため、前書きや後書きも今後工夫していきます。
よろしくお願いします。
ここへ来るのは何度目になろうか。
一人の青年が琥珀色の地面を歩む。
その足取りは確かで、自信に満ちあふれていた。
それもそのはず。
青年の髪は美しい金髪で、瞳は透き通るような碧眼、顔は万人が万人息を呑むほど見目麗しい。
背もすらりと伸び、長い足を見せ付けるかのようにゆっくりと歩を進める。
非の打ち所のない容姿である。
青年は歩みを止めることなく、辺りを見渡す。
この光景を見るのは実に5度目であった。
壁は一面クリスタルで形作られ、上を見上げればどこまでも伸び、神々しいほどに輝きを放っている。
天井を見つけることは不可能で、空からは無限の光が粉雪のように降り注ぐ。
神域。
およそ人がたどり着くことなど不可能とさえ思われるそこへ、青年は五度もたどり着いてみせた。
それだけで、青年が“特別”であるということがわかるだろう。
「セリア・レオドール。よく戻りました。此度の魔王討伐、ご苦労様でした」
美しい声が静寂の中、響き渡った。
気がつけば青年の正面、やや離れた位置に女神の姿があった。
青年はその場で膝をつき、頭を垂れる。
「女神、アスラムリス。私は成すべきことを成したまでです」
その青年の態度に、女神は満足そうに微笑んだ。
「ここへ来るのが遅かったので、もう戻ってこないのではと思いました」
「申し訳ありません。妻を、看取っておりました」
「そうですか・・・」
女神は短く声を発した。
青年の言葉の意味は痛いほどわかるのだ。
すでに半ば神の領域に足を入れている青年の寿命では、愛した者と共に死ぬことは叶わない。
そのことは青年も理解していたのだろう。
すでに憂いを断ち切り、その瞳は未来を見ていた。
「セリア、それでもここへ戻って来たということは、また新たな世界へ旅立つということでよろしいですか?」
女神の問いかけに、青年は顔を上げ女神を見つめる。
その表情はすでに決意を映し出していた。
「はい」
青年は短く応えた。
「次に転生する世界はSSランクの世界になります。先の世界がSランクでしたので、あなたなら何の問題もないと思います」
世界にはランクが存在する。Gランクから始まり、F、E、D、C、B、A、S、SSと続き、最後はSSSランクとされている。
GランクよりSSSランクのほうが高位に存在する世界というわけではなく、むしろ逆である。
Gランクの世界はすでに魔王が存在せず、平和であり、安心安全に暮らせる住み良い世界である。
逆にSSSランクは高難易度の世界で、魔王の強さも異次元といわれている。
「一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
青年はこれまで幾度と無く女神に質問してきた。
転生について、世界のランクについてなど、勇者が知っているべき事柄を尋ねてきたのだ。
「以前お聞きしましたが、SSSランクの魔王は別格としても、SランクとSSランクの魔王の強さの違いはほとんど無いと伺いました。では、SランクとSSランクの世界の差異はなんでしょうか?」
「あなたが言うように、SランクとSSランクの世界の魔王の強さにそれほどの差はありません。ですが、その他の魔物の強さがまったく違うのです。当然魔王もそれらの魔物を統べているのですから、たどり着くまでが格段に困難となるでしょう」
「わかりました。私はSSランクの世界へ行きます。どれだけ魔物が立ちふさがろうと、今の私であれば何の恐れもありません」
逡巡など必要としない。
青年は胸を張る。
当然だ。
青年はこれまでに5度、魔王を打ち滅ぼしていた。
「ありがとうございます。では、此度の魔王討伐の褒美となる祝福をあなたに与えます。あなたの望みを聞かせてください」
「はい。今回は身体能力の限界突破をお願いしたいと思います」
青年の望みは質素と思われるかもしれない。
巨万の富も、無限の名声も、祝福の前では容易に手に入る。
ゆえにもっと高尚な願いを叶えるべきだと思う。
しかし、青年はすでに4度女神の祝福を受けている。
1度目は世界の救済を。
2度目は不老を。
3度目は魔力及び魔法適性の限界突破を。
4度目は「俺、イケメンになりたい!」を。
そして今回が5度目である。
転生しても能力は引き継がれる。
3度目の魔王討伐に参加した際、青年は自身の魔法に関する能力の限界を知った。
身体能力及び、知力などは未だに経験値を積めば強化され続けている。
しかし、魔力の伸びは極端に先細り、おそらく自分自身に備わるもって生まれた限界値に到達しそうな感覚があった。
また、魔法適性といった努力ではどうにもできない“才能”の壁にもぶち当たった。
ゆえに3度目の祝福では望んだのだ。
自分の魔力を、魔法適性を、限界という名で縛る強靭な楔を取り払いたいと。
結果、限界が無いため未だに魔力は上昇し、魔法適性など死語になり、あらゆる属性、古今東西の魔法が使用可能になった。
そして今回、青年はそろそろ訪れる予感がする身体能力の限界という名の楔を取り払いたいと望んだ。
この望みが叶うことで、青年はあらゆる面で完璧になれる。
その確信があった。
青年は理解していた。
もし、自分がただ「身体能力を限界以上に上昇してほしい」という望みを言えば叶うことを。
しかし、望んだ上昇さえもそこが限界となる。
ゆえに、限界なしの成長こそが正しい選択であると。
「わかりました。では、女神アスラムリスの名において、セリア・レオドールに祝福を与えます」
女神が祈りをささげると、辺りに降り注ぐ粉雪のような光が青年の方へ集まる。
そして一層輝きを放つと、青年の5度目の望みが叶った。
「ありがとうございます。俺、…私はこれまでより更に精進し、全ての人々を救う希望になりたいと思います」
女神は微笑を浮かべ、青年へ頷いた。
「それでは、これより彼の世界への転生を行います」
女神が目を閉じ宣言すると、女神の目の前に書類が一山出現した。
さらに女神の手には、印部分が彼女の顔面くらいある印鑑が握られている。
「あなたに神のご加護があらんことを。そして、世界を救う道しるべとならんことを」
女神は目を閉じたまま、青年の未来が素晴らしいものになるよう祈り、一番上の書類へ押印を行った。
いつもの流れである。
この押印が終わると、青年は新たな世界へ旅立つのである。
女神はゆっくりと目を開けて書類への押印を確かめた。
そして、これでもかと飛び出るくらいに目を見開いた。
「げ、ちょっ、やば。まちが」
青年が最後に見たのは、今まで神聖な雰囲気を醸し出していた女神の顔が、これでもかと眼球を飛び出させ、顔色を蒼白にした見てはいけない顔であり、最後に聞いたのは先ほどの意味不明な言葉であった。
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