旅路2
空が明るくなり始めた頃私たちは森の中にあった開けた場所で休憩をしていた。疲労とは無縁のわたしやオロチとは違人の体を持っているシフィアナは夜通し歩き続けたこともありかなり疲労がたまっていたようで、休憩に入った途端眠ってしまった。オロチも人の姿になっている。
「主様はどうしてこの世界にいるんですか?見たところそこまで主様が出てくるような状況にはなっていないように見えるんですが。」
「そりゃそうでしょ。わたしが自分の意思で来たわけじゃないんだから。元々この世界ともう一つ別の世界が繋がってて、それをはずそうとしたときにこの世界で無理矢理もう一つの世界から召喚まがいのことをしたから、その通り道にいたわたしが巻き込まれるような形でこの世界に来ちゃったんだから。」
わたしがそう言いながら仰向けで空中にフワッと浮かぶと目を閉じた。思い出すのは巻き込まれたとき意識を失っていた三人の中に他の二人と比べて明らかに力の弱い子が混じっていたことだ。それも少し弱いなら誤差の範囲と割り切ることが出来ただろうが、その差はこの世界で普通に育った子供にも勝てないぐらい弱いだろう。一様力の種類が前線の強化という直接的な力が必要ない力なので問題ないだろうが、さすがに気になる。
「ねぇ、オロチ。いつだったか忘れたけどさ。召喚した奴が以上に弱いって言う報告があったのって覚えてる?」
「そうですね・・・、覚えてますよ。確か天界四千年前でしたっけ。」
「多分それ。その時の原因って具体的に解明されてなかったよね。」
「いえ、確かその後召喚対象者が召喚に否定的な感情を持っていたからではって言う結論だったような気がします。わたしもあれを読んだのはずいぶん前なので記憶が曖昧ですが。」
オロチに管理してもらっているわたしの屋敷にはこれまでメイドが記録をしておいたこれまでのことが全て本として納められている。オロチはそれを守るという役目を任しているが基本的に攻めてこられることもないので暇な時は大体本を読んでいるらしい。それでも足りないらしいので、今は三週目に入っているらしい。正直三週目に入ったと聞いたときは信じられなかった。と言うのも屋敷の書庫は時空間という特殊な空間なることを利用して存在する様々な世界から全ての本を取りそろえているので、わたしやメイド、オロチ以外が来た時に迷ってしまうくらいなのだ。前に契約が遊びに来たときには契約が書庫の中で迷い私たち三人で百年間探し続けたという思い出もある。
「あれ?そんな結論出てたっけ?まぁ仮説としては十分説得力有るか。」
「何の話?」
「いや、巻き込まれたとき召喚されたであろう人が三人いたんだけど、その三人の中で一人だけ力に差があったから気になってさ。」
「でも、三人なんですか?じゃあ、一人だけ差があるっていうのも疑問に感じるんですが。」
「そこはわたしにも分からないな。昔から気になってはいたけどギリギリわたしの間管轄外だから調べにくいんだよね。」
そんな話をしているとオロチが黙って何かを考えている気配を感じた。顔を横に向けてオロチの方を見てみると目を閉じて微動だにしないオロチの姿が目に入った。この状態だと何を言っても聞こえないので顔を戻して少し休むことにした。
誰かがわたしの体を揺すっているのに気がついて目を開けると、すぐ前にオロチの顔があった。
「起きましたか?シフィアナさんも目が覚めたみたいですよ。」
オロチの言葉に誘われるように顔を上げると、シフィアナが地面に座って何かを食べている。
「お腹もすいているだろうと思いまして、簡単にですが食事をつくっておきました。」
空を見てみると日が沈みかけている。どうやらかなり長い間休んでしまっていたようだ。地面に足を下ろしたわたしはシフィアナの近くに座ると話しかけた。
「さすがにきつかったかな?もう少し休んでく?」
シフィアナはご飯を食べながら首を横に振った。
「十分休憩できたので大丈夫です。それに森で長く留まるのは安全じゃないと思いますし。」
「そっか。じゃあ、森を抜けるまでにやってほしいこと教えるから食べ終わった言って。」
そう言うとシフィアナにあげた剣を手に取って少し離れた位置に移動した。それについてきたオロチと話しているとご飯を食べ終わったシフィアナが近づいてきた。
「えっと・・ご飯ありがとうございました。おいしかったです。」
「どういたしまして。オロチでいいよ。」
二人の仲が良くなったのを見ながらシフィアナに話しかけた。
「シフィアナにやってもらいたいのは一つだけ。オロチこれお願い。」
そう言って渡したのはそこら辺のお店で買ってきた何の変哲もない一枚の紙だ。それを受け取ったオロチはすぐにわたしのしようとしていることが分かったのだろう、少し離れた位置に移動した。シフィアナもわたしから離れさせるとオロチは手に持った紙を空中に放り投げた。投げられた紙は勢いよく空中に上がるとヒラヒラと舞いながら落ちてくる。落ちてきた紙をじっと見つめながら居合い切りのように剣を持つと右手で剣を握って神の力を込めた。ある程度力を込めると剣を抜き放った。抜き放たれた剣は落ちてきた紙を捉え、真っ二つに切り裂いた。
「・・・ふぅ。さて、シフィアナにはこれをやってもらいたいの。取りあえず試しにやってみたら分かるかな。」
そう言いながらシフィアナに剣を渡した。剣を受け取ったシフィアナはわたしと変わるように前に出た。オロチに合図するとオロチが先ほどと同じように紙を放り投げた。剣を自分の体の正面に構えたシフィアナは落ちてきた紙に合わせて剣を振った。振られた剣は落ちてくる紙を捉えることには成功した。しかし、紙は切れることなく剣に纏わり付くように同じ動きをした。そして剣の動きが止まったときそこには剣によって二つに折れた紙が剣に引っかかっていた。
「ど、どうして・・・。」
「まぁ、当たり前だよね。その剣はね特定の力を込めないとただの鉄くずと同じなの。」
「え!?」
わたしがそう言うとオロチが驚いたように声を上げた。シフィアナにあげた剣にそんな力などないし、先ほどわたしが紙を切れたのは紙に当たる方の刃に力を加えてそちらだけ切れ味を極限まで高めたのだ。ただ、わたしの場合は力を最高で流すと確実に剣の方が耐えられないので出力は調整したが、シフィアナの力なら最大でも耐えられる位の強度は余裕である。そこはわたしが創った剣なのだから問題ないだろう。オロチはそれに気づいているからこそ声を出したのだろう。わたしは人差し指を口の前に持ってきて静かにと言う仕草をするとオロチは頷いた。
「だからまずその剣でわたしがやったように紙を切れるようになるまではそれ以上のことは教えられないな。危なすぎる。」
それを聞いたシフィアナは見るからに落ち込んでしまった。恐らく自分でも頑張っていたのだろう。けれど、その努力も意味がなかったとか思ってしまっているのでしょうね。シフィアナの近くに行くとシフィアナの目を見ていった。
「まず前提としてあなたの中には天使長の力が流れているんです。過去を思い出してみなさい?自分では理解できなかったことが何回かあったのではありませんか?それはあなた自身の中にある力をあなた自身が行使した結果です。つまりあなたは力を使えないのではなく使っていることを知らないのです。そう考えれば後は簡単でしょう。その時の力を思い出してもう一度やってご覧なさい?」
わたしがシフィアナにそう話していると、シフィアナの目にだんだん光が集まってきた。剣を握る手に力が入ったのを確認するとわたしはシフィアナから離れた。オロチもそれを見届けてからシフィアナの方に向き直った。先ほどと同じように剣を構えるシフィアナだが、今のシフィアナは先ほどとは違う。オロチが紙を投げるとじっと紙の行方を見つめ紙の動きに合わせるように剣を振るった。