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課外授業 3

 二人は召喚体を湖に召喚した。ヒァリンの召喚体はモササウルスとか呼ばれている生き物に近い。ただ、前足は陸上でも行動できるような爪が三本生えていて、後ろ足は身体を支えるためなので少し小さい。尻尾は身体よりも少し長いくらいで、太さもある。そこはさすが水中で生きている種類だ。


「イルの方はサイカにお願いすれば良い?」


わたしはそう言いながらオロチの後ろに控えていた赤髪の女に視線を送った。するとそいつもわたしの方を見て頷いた。


「良さそうだね。じゃあ、お願い。」


「承りました。」


サイカはそう言うとスッと歩み出てきてイルの召喚体をジッと見上げた。すると、サイカの身体を覆うように赤い炎が発生した。膨らむように大きくなっていく炎がはじけたとき、そこには赤と黄色の炎を全身に纏った大きな鳥が現れた。


「じゃあ、イルはサイカの指示聞いて動いて。ヒァリンは・・・」


わたしはそう言いながら内側から妖狼を解放した。飛び出してきた妖狼は身体を思いっきり伸ばしてからわたしの方に向き直った。


「何用だ。」


「そいつに人化のやり方教えてやって欲しい。」


わたしはヒァリンの召喚体を指さしながら妖狼にそう言うと、わたしと召喚体を交互に見てから仕方ないといった感じで息を吐くと身体を光らせて人の形になった。


「今回だけだぞ。まったく。」


呆れたような表情をする妖狼。人の状態になた妖狼の腰にわたしは抱きつくように飛びついた。


「んふー、そう言って手伝ってくれるんだから。」


「抱きつくな!嫌みか!?」


妖狼は抱きついているわたしを剥がそうとしている。パッとわたしが手を離すとガルルと睨みながらわたしの方を睨んできた。妖狼は口調も仕草も完全に男だが、中身はちゃんとした女なのでわたしみたいな完璧なプロポーションを持っていると睨まれる。


「まったく・・・。邪魔するなよ?」


妖狼はそう言うと召喚体に近付いていった。尻尾の一本を召喚体に伸ばすと召喚体の方も腕を尻尾の方に伸ばして先端がふれあった。


「じゃ、お願いね~。」


そう言うとわたしは寝転がった。今は妖狼が内側から完全に出てしまっている影響で今は時空神としての本来の姿に戻っている。この姿はあまり人前で見せていないのでここで働いている子達でも初めて見る子が多いのだろう。


「改めて見ると壮大ですね。」


「ん?何が?」


わたしは身体を起こすとそう呟いたオロチの方を見た。


「その格好です。それが本来でしょ?」


オロチに言われてわたしは改めて自分の自分の姿を見た。背中を見れば六枚の大きな翼と腰より少し下まで伸びた薄い空色の髪の毛、時空神の証になる黒い球が頭の上をまわっている。服装も先ほど着ていた物は常に纏っている力で消えてしまっているので身体のラインが比較的分かりやすい足首下ぐらいの長さがあるスラッとしたドレスになっている。


「ああ、そういうこと。たしかにそうかもね。」


自分の腕を見ながらそう言うと妖狼の方で光が発生した。それと同時にサイカの方でも光っている。


「終わったみたいだね。」


身体を起こしてそちらに近付いていくと妖狼の前にはスラッとした濃い紫色のスーツを着た男性が、サイカの前には栗色の髪をした小柄の男が立っていた。


「おぁーすげぇ。」


サイカの前にいた男は自分の身体を触りながら驚いたように色々見ていた。同じように人になったスーツを着ていた男は同じように身体を見ていたが、あまり表情が変わっていなかった。


「うんうん。問題なく力も増幅できてるね。」


ここで出来ることは大体出来たと思う。それにこれ以上は人間の範囲では難しいだろう。


「イル、ヒァリン、帰るよ。」


わたしがそう言うと二人はそれぞれの召喚体を帰すとわたしのそばに近寄ってきた。妖狼をわたしの中に戻そうとしたが、サイカとオロチ、妖狼の三人が久しぶりの再会を喜んで話していたのでそこから妖狼だけを抜くのは気が引けたので仕方ないと思いながらそのまま元の部屋に戻った。視界が一瞬だけ暗転するとすぐに元の部屋に戻ってきた。


「たっだいま~。」


部屋には出て行くときと同じ態勢で机に向うランリの姿があった。わたしにくっついていた二人を離すとわたしは置いてある本棚の整頓を始めた。一様整頓して入れて置いたが、改めて見ると大きさが揃っていなかったのでその整頓だ。ついでに本棚の上に溜まったホコリを固めながら掃除していたとき、部屋の扉が叩かれた。その音に気がついた全員が目を見合わせる。


「誰だろ。」


「またランリ先生みたいな人かも知れないね。」


「それならわたしは隠れておいた方が良さそうか。」


わたしはそう言うと身体を結晶化させて、その結晶を部屋のあちこちに振りまいた。


「いいよ。開けても。」


わたしがそう言うと近くにいたランリが扉を開けた。


「すまないね、急に。この部屋にリーネル家の子がいると聞いたんだが、少し話がしたい。隣の部屋に来てもらえるか?」


扉を開けた先にいたのは隣に部屋を借りている王子だった。困ったランリはイルの方を見たが、見られたイルも仕方ないと言った表情で頷いて反応していた。手元にあった本を取るとイルが王子について隣の部屋に移動した。顔の部分だけを実体化させてヒァリンの方を見るとお願いしますと言った表情をした。ヒァリンに向って軽く微笑んだわたしは再び身体を結晶化させると扉の隙間から移動して隣の部屋に潜り込んだ。


「すまなかったね。どうしても君と話がしたいって聞かなくてね。」


王子の隣には確か五大貴族の中に新しく入った家の子が座っている。


「ラダールさん。わたしはあの時禁忌の術なんて使っていません。」


そいつは真っ直ぐイルの方を見ながらそう言った。それに対してイルは足を組んでそいつの方を見た後口を開いた。


「知ってますよ、それぐらい。」


「え・・・?」


「当たり前でしょう。たしかに人が空を飛ぶことは難しいです。故にそれが出来るのは禁忌を操る事が出来る者のみと言う考えがあるからこそあの時はそう言ったのです。別に飛べないわけではないですよ。それと、あの時わたしがあなたに近付いたのはわたしの婚約者に対する態度を見直してもらいたかったという意味が大きかったですからね。」


「なんだそういうことだったんですね。」


「ええ。参考までにどのように飛んだかだけ聞いても?」


「勿論!」


そいつはイルの質問に嬉しそうに頷くと席を立って少し広いところに移動した。その隙にイルの後ろにスッと移動して耳打ちした。


「イル、何か聞きたかったら近くにいるから頭の中で念じて。」


『了解です』


そいつのことを観察していると背中に力を集め始め、その力を体外に翼として実体化させた。


「この翼を使って飛んだんです。長い距離を飛ぶことは出来ないんですが・・・。」


「なるほど・・・。神の力は色々使い方もあるようですね。」


イルのその言葉に王子とそいつは得意げなかおをしている。


「そういえばあなたの力には人を癒やす力があるそうですね。」


「はい!この力があれば役に立てると思います。」


「そうですか。・・・その力はどのくらいのケガを治せるんでしょうか。」


イルは少し考えるような仕草をしながらチラッとわたしの方を見た。その実験をわたしにやって欲しいと言うことだろう。仕方ないと思いながらも人の力の限界を知るには丁度良いと考え、イルの後ろに侍女の格好で姿を表した。


「丁度良い機会です。どれくらいの傷を治せるか試してみましょう。ナイフをお願いします。」


わたしが太ももにつけているベルトからナイフを一本イルに渡すと受け取ったナイフをそのままわたしのお腹に突き刺した。


「ゴッホォ!」


今のわたしは普通の肉体を持つ少し強いだけの人間だ。たとえナイフ一本でも致命傷になる。


「ちょ!いったい何を!?」


血を吐きながら崩れ落ちたわたしにそいつは駆け寄ってきてナイフを刺されドンドンと血が出ている傷口に手を当てた。しびれるような痛みがあり段々と傷が塞がっていくのが分かる。


「よかった・・・。」


「・・・ふふ、ありがとね。」


傷口に触れていたそいつの手にわたしの手をのせるとそう言って笑った。そいつも返すようにわたしに笑いかけたが、そのまま横に倒れてしまった。


「おい!どうした!大丈夫か!」


王子はそいつに駆けよって身体を起こしたが、そいつは青白い顔をして今にも死にそうなほどぐったりとしている。


「ゲホッ、ゴッホ・・・さすがにこの肉体を再生するのには力が足りなかったみたいね。ゴッホ、オェ。」


胃の中に残った血を吐き出して口の周りに付いた血を拭いながら立ち上がった。イルもわたしを刺したナイフに付いた血を拭ってからわたしに返してきた。


「でも、これで分かりましたね。やっぱり神の力は人間が持つには早すぎたって。」


「そうだね。せいぜい瀕死の人を十人直すのが限界かな?」


わたしとイルがそんな話をしていると王子がどういうことか理解出来ないといった顔でこちらを見ていた。


「あぁ、理解が出来ていないみたいですね。気になるんでしたらわたしたちが以前からあげている報告書を読んでください。そこに全部書いてありますから。」


イルはそれだけ言うと部屋を出て行った。残されたわたしは王子の方を見ると一言だけ言い放って部屋を出た。


「弱いね。」


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