神力
シフィアナが驚いて固まった状態なので話を進めようにも進めることが出来ず困っていると、一人の男が話しかけてきた。
「一つだけ質問いいか?そいつを選んだ理由は何なんだ。強さ以外が選ぶ要素らしいが・・・。」
確かに、強さで言えばわたしが少し力を入れてデコピンすればシフィアナの頭ははじけ飛ぶだろう。もっとひどい場合は跡形もなく吹き飛ぶだろうが、それはシフィアナが天使の力を使いこなせなかった場合だ。
「まず前提として導き手が選ぶ対象として絶対条件があるんですがそれを知っている人はいますか?」
腕を組んでギルドの中を見回すと、その中の男が「言われてみれば強い奴としか知らないな・・・。」と呟いた。その声に頷いている人も数人いる。
「正直人間がどう聞いているかは興味がないですが、前提として神や天使に近い力を持つことが条件になってます。この世界の最高神曰くシフィアナさんは天使長の直径の孫に当たるらしいです。わたし自身も彼女の中にある力には気づいてますからね。」
そこでようやくシフィアナが復活したが、さすがに理解が追いついている訳ではないようで必死に理解しようと考えているみたいです。
「わかった。じゃあ、最後に一つだけいいか?いくら導き手とは言え前例がないからな。形式的にランクを証明するためのテストだけ受けてもらってもいいか?恐らく問題なくクリアできると思うが・・・、シフィアナについては今回だけ特例として一緒にランクを上げるがシフィアナの事は頼んでもいいか?」
左手を挙げ、了承の意を伝えると男はカウンターの奥に消えていった。恐らくそのテストの準備をしに言ったのだろう。シフィアナの方を見るとようやく理解できたようでわたしの方を見つめてきていた。
「あの、ほんとにわたしなんですか?何かの間違いじゃなくて・・・。」
「間違いじゃないよ。だって、最高神から直接頼まれたんだから。それに今はまだまだ力を使えていないけど、神の里に着く頃には完璧に使いこなせるようにさせてあげるから。それをやるのも導き手の仕事だから。」
そう言いながらシフィアナの前に座った。シフィアナの手を包み込むようにして自らの手で覆うと軽くわたしの力を流した。
「分かる?これが神や天使が持つ力なの。この力を感じることが出来れば後は簡単だからね。取りあえず自分の中にあるこの力の流れを見つけてみて。人によってはかなり時間がかかるけど焦らずにやればいいから。」
そう言って手を離すと、シフィアナの手にはわたしが流した力とそれに反応して出てきたシフィアナ自身の力が混じり合っているようになっている。それを感じているのだろうシフィアナは自身の手をじっと見つめている。
「待たせたな。」
振り返ると先ほどの男が紙を持っていた。しかし、その服装は先ほどとは違い鎧などを着けて武装していた。
「今回は特例だからな。普段は試験官との決闘でランクを与えるかどうか決めるが、それ以上にお前の力を知っておきたいからな。嘘を言っているとは思えんが、うちの大切な冒険者を預けるに値するかだけな、確認しておこうと思ってな。」
そう言う男の体を観察してみると、驚いたことに普通の人よりも何倍も強いように感じた。それこそこの世界で最初に殺したあの男よりも強いだろう。少し物足りないがこの世界の人間の力を試すには丁度良い相手だろう。
「分かりました。あなたなら少しは楽しめそうです。と言っても勝てるとは思っていないようですが。」
「当たり前だろう?その辺りはわきまえている。」
「残念ながらまだそうとは決まったわけではありません。あくまで純粋な力だけならわたしのが上でしょうが、それでも勝てるとは限りませんしね。」
男に向かってそう言うと、男もやれるだけやってみると気合いを入れた。男について建物の裏に周ると、そこは広場のようになっていた。その広場を見下ろすようにギルドの建物の二階部分から先ほど建物の中にいた人達が見下ろしている。その人達の目は娯楽を楽しむような目ではなく、どちらかというと専門家が興味を持ったような目をしている。
「さて、決闘のルールだが勿論殺しはなしだ。どちらかが気絶か降参をするまで続く。」
「簡単ですね。分かりやすいです。」
わたしは背負っていた剣を鞘ごと外すと剣に力を込めた。すると、剣の長さが三分の一程短くなり、わたしの胸辺りまでの長さになった。さらに剣の形も刀のような片刃の剣に変化している。この刀はわたしが最初に創った刀剣で、かなり長いこと愛用している。剣が変わると同時に変装していた服装も髪も元に戻っていた。
「それではわたしも軽く本気で行きましょう。」
鞘から刀剣を抜くとそのまま地面に突き刺した。刀身の半分ほどが水にでも沈むように突き刺さり、そこで停止した。てっきり刀を使うかと思っていたのか、男が少し警戒していたがその行動で理解が追いつかず固まってしまった。
「さすがにこいつは使えませんよ。殺しはなしなのでしょう?でしたらわたしはこっちを使うしか有りません。」
そう言うとわたしは左手で持っていた長い鞘を指さした。この鞘はわたしの戦い方だと重要な武器になるので、相当固く創ってある。その固さは始祖が本気で創った硬く重い玉をいともたやすく砕くことが出来た。ちなみにその玉は終末が神の力で消滅させようとしても傷一つつかず、試しに時空間で創った惑星に落としてみると、惑星の方が破裂した。そんな玉を壊したときにはあの始祖が三百年ほど自分の空間に閉じこもってしまうくらい衝撃的なことだったそう。
「まぁ、それでいいなら・・・。じゃあ、始めるか。」
男がそう言うと、空中から大きい斧が現れた。どうやらそれが男の装備のようだ。斧は見るからに重そうだがそれを軽々持ち上げているのを見ると相当力があるようだ。見かけ以上の力を持っている。
「それでは、ランク獲得戦開始します。」
いつに間にか鐘のようなものを持った女が広場の端に立っていて、そう宣言した。女の持つ鐘が音を発した瞬間、わたしも男も一瞬で動き出した。それでも速さはわたしの方が遙かに上だったようだ。
わたしは左足で足を払い、その反動を利用して背中から倒れる男の首筋めがけて鞘を振り下ろした。首に触れるか触れないかぐらいのところで鞘を止めるとそこで男の顔を見る。
「どうしますか?このまま圧迫されて気絶するかここで降参するか。」
「・・・ここから反撃することはまず無理だろうな。なら答えは決まっている。降参だ。」
男は満足げにそう言った。その言葉を聞いて鞘を離すと地面に突き刺さったままの刀剣を勢いよく抜いた。刀剣はスポッと抜けたので、そのまま鞘に収めるとそこで鐘の音が再び鳴り響き決闘の終了を告げた。鐘の音に少し遅れてから歓声が上がった。男は立ち上がるとわたしの方に近づいてきた。
「まさか、ここまで強いとはな。お前に勝てそうな奴は俺は知らんな。」
「本当ならもう少し楽しみたかったんですけどね。今回はそういうわけにはいかないのでね。恐らくわたしを放っておくような国ではないでしょうしね。今頃首都にもわたしの存在が伝わってるんじゃないでしょうか。」
「そうか、確かにお前もシフィアナも手放すには惜しい存在だからな。強さに関しては問題ないだろうし、すぐにでもランクを渡したいから少しだけ待っていてくれるか。」
男について建物の中に戻ったわたしはシフィアナに荷物をまとめておくようにいったがシフィアナは今見に着けているもので全てだそう。驚いたことにシフィアナ自身も第Ⅲ大陸を目指していたらしい。どうやら母が死ぬ前に託されたものを第Ⅲ大陸にいる人に渡すためだそう。それも母からの願いらしい。そんな話をしていると男が五角形の形をしたコインほどの大きさのアクセサリーを持ってきた。
「待たせたな。取りあえずランクの方は問題なく与えられそうだ。これがその証になるからすぐに取り出せて無くさないところに身につけておいてくれ。」
それぞれ手に取るとわたしはアクセサリーについている鎖を腕に巻いて身につけた。シフィアナは鎖を首に掛けてネックレスのようにした。
「一様見ていたものには言わないように指示しておくが、姿が見えない奴がいるから恐らくもう知れ渡っているだろう。出るなら早くしたほうがいいぞ。」
男が言うにはこの国は神を信仰しているがその信仰の方向が他の大陸とは違うらしい。その上他の国も影響を受けていて、もし導き手が洗われたとなればすぐにでも確保しに動くだろうとのこと。それを聞いたわたしはすぐに街を出ることにし、その日の夜シファナと一緒に出発した。