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冒険者

 足を治療したとはいえ一人で歩けるわけもない。取りあえずわたしは女を背負って街道を歩いていた。街道は整備されているので、比較的安全に進むことが出来る。そのうえ所々に休憩の出来るスペースもあり、野営も出来るようになっている。この日出来るだけ目的地に近づくために女を背負ったまま足早に街道を歩いていたが、さすがに徒歩では限界もあり途中で暗くなってしまった。野営の出来る場所でささっと準備をしてこの日はここまでにした。


「あの・・・、あなたはいったい何者なんですか?見知らぬわたしをここまで助けてくれるなんて。」


たき火に火をつけていたわたしに女はそう聞いてきた。女にとっては見ず知らずの奴が偶然助けてくれた程度に思っているだろうが、わたしに取っては同胞に近いものを見捨てるつもりがなかっただけだが、どうやら女自身は自分の持つ力に気がついていない様子。


「どうでしょうね。だけど言えるのはわたしの目の前で死なれるのは困る。それじゃ。」


それだけ言うとわたしは横になった。わたしがそれ以上話す気がないと気がついた女は同じように横になって眠り始めた。わたしも目を閉じているとどこからともなく声が聞こえてきた。その声はこの世界の最高神の声だった。


『お久しぶりです。取りあえずその子を助けてくれてありがとね。』


『別に?偶然だっただけ。』


『じゃあ早速だけど時空神は私たちの街を目指してるって事でいい?』


『今のところはね。そこ以外面白くなさそうだし。』


『それなら話が早い。取りあえずこの紋章だけ渡しておいて、あと名前はどうする?』


『真名を使えるわけないでしょ?一様神なんだから。』


『了解っと。もう時間か。後のことは今から渡す紙に書いておくからそれ読んで。』


そこで声は途切れた。いつに間にかわたしの左手の甲には紋章が刻まれているし、目の前には一枚の紙がおいてある。体を起こしてその紙を読んでみると紙にはこう記してあった。


[取りあえず私たちのところにスムーズに来るためにはこれが一番だと思ったからこの方法をとらせてもらうね。まずその紋章は『導き手の紋』って呼ばれるもので、簡単に言えば神の眷属を証明するもの。身分を伝えるときはその紋を見せて。次に偽名なんだけど名前の後ろにライリィって付けといてそれでも身分を証明できるから。]


導き手について軽く調べてみると、神やそれに近しい存在が下界で住むものを私たちの住む世界に連れて行くための先導者のようなもので、数千年前に一度だけ下界で迷った天使を連れていくのに使われたらしい。その天使も生まれたてで力がなく自分で帰ることができなかったという特殊な状況らしい。つまりわたしにこの天使の力を持つ子を連れてきてと言うことだろう。それだけ理解すると再び横になってこの日は眠ることにした。体があるとここまで不便なんだな。

 次の日の朝、周りが明るくなることには起きていたわたしは、野営のセットを片付けていた。すると街道の方から重いものが転がるようなガタガタと言う音が聞こえてきた。その音の方を視ると大きな馬のような動物二頭に引かれた馬車のようなものが近づいてきているのが見えた。取りあえず野営の道具をかたづけるのに戻るとその音が近くで止まった。


「お連れさん、ケガでもしてるのか?」


そう声をかけてきたのは馬車に乗った一人の男だった。見た目から言うと三、四十代くらいだろう、こちらを覗くようにして視ている。


「軽く足が折れているだけです。」


「いや、軽くないだろう。よかったら街まで乗せていくがどうだ?」


「・・・そうですね。お願いしてもいいです?」


わたしがそう言うと馬車の後ろなら余裕があるだろうとのこと。わたしは荷物をまとめて腰のベルトにつるすと、女を抱き上げて馬車に乗せた。抱き上げたことで女も目が覚めたようで、馬車の上で体を起こしている。


「街まではそんなにかからないと思うが、乗り心地は悪いからな。そこはすまん。」


男はそう言うと馬車を動かして街道を進んだ。わたしは馬車の端に座って足をぶらぶらさせながら外を見ていた。ついでにこの景色と昨夜もらった紙に書かれていた最高神の紋をクリスタルで映しておいた。


「一つだけいいですか?」


目が覚めた女は体を起こしてわたしの方を見ながらそう聞いてきた。体をひねって女の方に顔を向けると女は続けた。


「あなたはどこに向かおうとしているんですか?少なくともわたしよりはずっと強いですし、もしかしたらこの辺りにいる人達よりも強いかもしれません。そんなあなたの目的地があの街であるはずがありません。」


それだけ話すとじっとわたしの方を見つめてきた。


「・・・これは言っても大丈夫か。その通りですよ。わたしが目指しているのは第Ⅲの大陸にある神の里です。」


「神の里だって!?」


意外なことに反応したのは馬車を操る男だった。男は一瞬驚いたような顔でこちらに振り返ったがすぐに視線を前に戻した。さすがに目線を外すのは危ないからだろう。


「すまん、聞くつもりはなかったんだが。」


「いえ、別に聞かれて困るようなものではないですから。」


「そうか。それで神の里って言ったな。そんなところ本当にあるのか?この仕事をしてるとその手の情報も耳にするんだが・・・。」


「そうですね・・・。存在するとだけ言っておきます。」


「そうか。後姉ちゃんは冒険者ランクは持ってるのか?確かあそこに行くには冒険者ランクがⅢ必要だったはずだ。」


 それからしばらく馬車に揺られていると、街道を通る人の数が増えてきた。前方を覗いてみると街の入り口が近づいていた。それを確認したわたしは外していた装備を整えて降りる準備をした。そこでおもいだし、左手の紋を隠すために付けていた手袋をめくってそこに紋があるのを確認した。馬車が止まったのを確認したわたしは女を背負って馬車を降りた。運んでくれた男にはお礼を言っておいて、女の案内でギルドと言う場所に向かった。


「ねぇ、あなたのことはなんて呼べばいいの?それとも名前は聞かない方がいい?」


「ティアとでも呼んでください。勿論偽名ですけどね。」


「そっか・・・。わたしはシフィアナっていうの。今更だけど本当にありがとうね。」


そんな話をしているとギルドの建物の前に到着した。ドアを手で押し開けて中に入るとそこそこの人がいたが、一斉に私たちの方を見た。取りあえずシフィアナを近くの椅子に座らせて、わたしはカウンターにいる制服らしきものを来た人のところに向かった。


「えっと・・・、第Ⅲの大陸に行きたいから冒険者として登録したいんだけど。」


「・・・あ、はい。それは大丈夫ですよ。それよりもあの子は?」


「? あぁ、森の中でケガしてたからこの街まで運んだだけ。偶然馬車にも乗っけてもらったしね。」


それだけ言うとある程度納得したのかカウンターの向こうにいた女は一枚の紙を取り出した。


「じゃあ、この紙に名前だけ書いてもらってもいい?それで登録が出来るから。」


そう言って渡された紙には偽名で書かれたら分かるように細工がされていた。と言ってもそれはわたしに効くようなものではなかったので、気にせず名前を書いた。最高神からの言いつけ通りライリィと付けて。名前を書いた紙を女に手渡した。渡された紙を見た女は驚いたようなかおをして慌ただしく奥に消えていった。しばらくして出てきた女の後ろには一人の男がついてきていた。


「すまんな。一つ確認したいことがあるんだが・・・、このランリィっていうミドルネームの意味は理解してるのか?」


出てきた男がわたしの名前が書かれた紙を見ながらそう言った。その言葉にギルド内にいた全ての人が動きを止めた。あまり目立ちたくなかったが、薄々こうなるだろうなと思っていた。


「導き手が名乗るもの、でしょうか?理解はしていますよ。何なら見せましょうか。」


そう言いながら手袋を付けた状態の左手の甲を見せる。しばらくの静寂があった後、男が諦めたように目を伏せた。


「いや、やめておこう。少なくとも俺じゃ絶対に勝てないな。」


男がそういったことで、ギルド内の空気が明らかに変わった。どうやら目の前の男は相当な強者だったようだ。


「そうですか。それで?問題ないですか?」


「あぁ、問題ないぞ。それにしても珍しいな。こんなところに来るなんて。」


「珍しい?以前導き手が現れたのは数千年前なので珍しいどころではないでしょう。」


わたしの言葉にさらに驚愕と言った感情がギルド内に表れた。わたしには何故そのような感情を持ったのか全く見当がつかなかった。


「数千年前だと?では時々首都で開かれる大会の優勝者が導き手に連れられて旅立ってるんだぞ?じゃああれは何なんだ。」


詳しく聞いてみると不定期的に力を比べる大会が開かれるらしい。それも第Ⅰ、第Ⅱ大陸が共同で開くぐらい大きいらしい。その大会の優勝者は導き手に連れられ神の里に招かれるというものだった。


「・・・あり得ませんね。いくら強いと言っても人間の範疇から超えることはまずないですし、もし超えていたとしてもそんな弱い奴を連れて行く意味がありませんからね。」


「じゃあ、あれは何のために開かれているんだ?」


「さぁ?少なくともわたしには関係のないことですしね。今回連れて行く人も決まってますし。」


そこでシフィアナの方に近づいていき、その肩に手を乗せた。その行動の意味を正しく理解した人は驚きのあまり声を上げてしまった人もいた。まぁ、一番驚いたのはシフィアナ本人だったようだが。

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