島 イル 12
しばらくすると食事が運ばれてきて、俺達はその食事を全員で食べ始めた。料理のおいしさは家で出される食事よりもおいしいとは言えないが、こういう場で食べることも少ないのでとてもおいしく感じる。人によってはこういう庶民向けに作られた料理を食べることに抵抗がある貴族もいるが、俺達のような色々な物を食べてきた人からすると、時々俺達が食べているものよりもおいしい物を見つけることがありなかなか面白いのだ。
「どうかな?この街だとここが一番おいしいと思うんだけど。」
ランリ先生がそう聞いてきた。俺がおいしいですよと言うとホッとしたようなかおをした。
「よかった。おいしくないって言われたらどうしようかと思ったよ。」
さすがに外で食べる時に正面からおいしくないという人は少なくとも家紋持ちにはいないだろう。俺達の一言でどれだけ影響が出るかを分からない人達ではない。勿論今回は普通においしいと思っていっている。料理を食べ終えた俺達は店を出て再び島を目指して移動を始める。ここからはメリト達とは分かれての移動になる。メリト達はそのまま街道沿いを移動し、俺達は森の上を飛び超して島に向かう。
「おおーもう見えてきたー。」
しばらく経った頃、俺達は海の上を風に乗ってゆっくりと飛んでいた。ランリ先生が言ったように前の方には大きな島が見え始めている。よく見るとその砂浜には大きな影が何個も動いていることからクラスのこが何人か到着しているのが分かる。その砂浜に向かって降りていくと海を走ってきたメリト達も到着していた。
「おっ、これで全員揃ったな。」
俺達に気がついたメリトがそう言った。ほかの気づいていなかった子達もその声で気がついた様子。ランリ先生がガリバルドの背中から降りると砂浜に集まっていた生徒の数を数え始めた。
「うん、全員いるね。多分他の子達がくるのにもう少しかかると思うから、来るまでは自由にしていていいよ。丁度綺麗な海もあるしね。」
そう言って周りを見渡した。この世界の海は俺が住んでいた静寂の海とは違い静かな波が小さく音を立てている。俺はガリバルドに俺を囲うようにして隠してもらい、持ってきていた泳ぐための服に着替えた。他の子達も隠してもらったり、砂浜にある小屋に着替えに行っている。身体を伸ばしながら準備をしていると隣に一人の女の子が来た。
「ふむふむ、なるほど。」
俺のことをじっと見つめながらそう呟いた。それから俺の顔を見て笑うと
「いい体ですね。メリトくんとは違った良さですね。眼福眼福。」
といった。俺の身体をそう言ったのはヒァリンという子で、俺達を抜いてうちのクラスだと貴族としての位が一番高い家の子だ。
「別にそう珍しい身体ではないでしょう。運動しているわけでもないですし、筋肉もメリトと比べても全然無いしさ。」
「それでも、わたしから見たらいい体です。好きですよ。」
そう言ってくるヒァリンの頭をワシワシと撫でる。するとヒァリンははふーっと言って嬉しそうにしている。ヒァリンの格好は膝上ぐらいのフリルドレスの形をした水着を着ていて、女性的な綺麗な肉体美を主張している。
「ヒァリンもよく似合ってるよ。可愛いね。」
俺がそう言いながらヒァリンの頭に手を置いていると後ろから声が掛けられた。
「相変わらず仲いいねぇ。」
そう言ったのは他のクラスの子達だった。メリトもその中にいて呆れたような顔で俺達を見ている。
「別にいいだろ?婚約者を愛でても。」
「まぁね。時間もあるし遊びますか。」
そう言ったのはクラスの代表を任している女の子だった。その声にみんなは一目散に海の方に走り出した。俺もゆっくりと海に入っていったがヒァリンは海辺の砂浜に座った。
「入らないの?」
「はい、泳げないので。」
「そっか・・・じゃあ、後で教えてあげるよ。」
俺がそう言うとヒァリンは何故か驚いたようなかおをした。俺は後で教えてあげると残し海の中に入っていった。海では思い思いにみんなが遊んでいる。泳いでいる人や水を掛け合っている人などだ。俺は深いところまで来ると息を大きく吸って潜った。その状態で目を開けるとなにも付けていないのに透き通った視界が確保できている。
(驚いたな。ここまで完璧に加護を引き継げているのか。)
俺はそのままさらに深いところに向かった。砂地から生える岩を使って身体を進ませていると突然視界に色とりどりの珊瑚が入ってきた。珊瑚の間を縫うようにして移動していた俺は、珊瑚の隙間に一つの貝をみつけた。
(これはたしか・・・)
その貝をじっと見ながら思い出す。この貝は前の世界だと静寂の海にしか生息しない貝でそれを捕るには人魚族の加護が必須で俺はその加護を持っていた。加護によって得られる力は水中での活動時間の大幅な延長と水中でも視界を確保することが出来る様になること、水中での移動速度が上昇するなど水中での活動がしやすくなると言う大きな利点がある。現に俺は今もその加護のおかげで抗して活動できているのだ。
(多分あの貝だよな・・・。でも少し大きいな。世界が違うからかな。)
俺は捕った貝を手に持ってもとの砂浜に戻っていく。途中メリトが浮かんでいたので背中を撫でるようにして触ってやると面白い反応をした。
「お待たせ。」
そう言いながら座っているヒァリンの隣に座る。
「お帰りなさい。それなんですか?」
ヒァリンはそう言いながら俺の持っている貝を指さした。俺は貝をいったん置いてガリバルドのところに行き足に付けた荷物から小さな剣を取り出した。それを持って戻ると貝の隙間に剣を突き刺した。
「前に本で読んだことがあるんだけど、この貝の中に時々綺麗な宝石みたいなのが入ってるんだって。偶然見つけたから本当かどうか見てみたくてね。」
グリグリ貝を開けながらそう言うとヒァリンも俺の背中に覆い被さって顔の横からのぞき込んでいる。この体勢だと色々当たっているが特に気にせず貝を開けることに集中する。すると、何かを切る感覚があって貝が開いた。
「どう?入ってる?」
「ちょっと待ってて・・・えーっと、これか!」
貝の身の下から白っぽい綺麗な球を取り出す。それをヒァリンにも見やすいように持ち上げるとじーっと見てみる。
「綺麗だな・・・。まさか、ここまでとは。」
「ほんとに。綺麗・・・。」
二人で見入っているとあることを思いついた。それは前の世界でもやっていた首飾りにして送るという物だ。この世界では男が首飾りを送るのは婚約が決まったときのみやることだが、俺とヒァリンはまだ公表していないがすでに婚約が決まったような物だ。ならば問題ないだろう。
「ヒァリン、もしよかったらこれを首飾りにしてわたしからの贈り物にしたいんだが受け取ってくれるか?」
すぐ横にある顔に向かってそう言うと嬉しそうな顔で頷いてくれた。その目には涙が溜まっている。それから俺は浅い場所でヒァリンに泳ぎを教えていた。
「イル様、五大貴族家に新しく入った家ってどういう家なんですか?」
俺がヒァリンの手を取りながら教えていると急にそう聞いてきた。
「どういう家か、ねぇ。正直言うとよく分からないって言うのが本当かな。一部の王族が気に入ってるってことは確かだと思うけど。何で急に?」
「実は・・・。」
ヒァリンが続けた言葉は本当に驚く無いようだった。なんと五大貴族家に新しく入った家の子がヒァリンに俺の婚約者にふさわしくないと言い放ったそう。ヒァリンの家とリーネル家は昔からとても仲がよく、母様も御爺様もヒァリンの家出身だ。俺達が生れたことでお互いの家が俺達を婚約させるために動いていたらしい。その結果俺もヒァリンもお互いのことを気に入って無事婚約が成立という経緯がある。だが、ヒァリンは自分には向かないのではないかと少しだけ思っていたらしく、その言葉で再認識させられてしまったそう。
「そっか・・・ごめんな?気づいてあげられなくて。」
「謝らないでくださいまし。先ほどの首飾りの件でその迷いも吹き飛びました。わたしはイル様にふさわしい者になるって決めたんですから。」
そう言って笑ったが口に海の水が入りむせてしまった。その身体を持ち上げてやると少し恥ずかしかったのか顔が赤くなっている。
「それにしても、まさかヒァリンにそんなこと言うなんて。この国からいなくなりたいのかな?」
「でも、それとは少し違うように感じます。なんて言うか半分は言われて動いているように感じました。」
再び砂浜に座って俺達は話を続けた。
「言われているね・・・反王族派の動きもないしな。」
俺がそう言うとヒァリンは少し首をひねった。
「反王族派って何ですか?」
そういえばヒァリンにはこのことについて話していなかった。




