悪魔との旅路 5
チニィが作りだしたなんとも言えない空気をどうしようか考えていると、チニィが何か言おうと口を開く。しかし、これ以上場の空気を悪くされては困ると思い靴のかかとにある尖った部分をチニィの頭に思いっきり押しつける。
「んっ!っっっっっっっっっっっっっっ!」
チニィは声にならない叫びを上げながら一際大きく身体をビクビクさせている。というか魚が陸の上ではねるように動いている。
「取りあえず先に話を進めようか。えっと・・・お願いできるかな?」
わたしが呆然としている女性に話しかけると女性はハッとしたようにわたしの顔を見てから頷いた。そして天使達に向かって話し始める。
「まずはわたしの願いを聞いてくれてありがとうございます。説明するのが苦手なので簡単にまとめますと、早ければ今日中にもここを取り壊しに来る人達が来ると思います。それも、そういったことを専門にやっている人ではないです。ただ壊すことだけが目的になるので何でも使ってくるでしょう。」
女性はそう言うと悲しそうな顔をした。
「そのやってくる奴らをそうにかすればいいと言うことか。その後はどうするんだ?いくらそいつらを倒したとてそれで諦めるとは思えないが。」
天使は女性に向かってそう言った。その言葉に代わりに応えるようにわたしは口を開いた。
「そこも含めてチニィを呼んだの。今回追い払った後チニィにはこの神殿をしばらくの間守らせることにするから。さすがにチニィが守る神殿に手を出すような頭の悪い奴らでもないでしょう。」
わたしがそう言うと天使達は驚いたようなかおをした。神が自分の守護天使を自分から離すというのは極めて危険なことで、普通はすることがまず無いことだと知っているからだろう。天使はすぐに断ろうとしたがわたしが心配は無いと伝えるとなんとか納得してくれた。
「これからは交代で神殿を見張るようにお願いね。さすがにわたしが出るわけにも行かないから大丈夫だとは思うけど、絶対にケガしないように。それと数人はその子を守ってあげてね。」
わたしがそう言うと天使達は全員膝をついて頭を下げた。そして全員が口をそろえて答えた。天使達はすぐに神殿に残る組と見張り組、偵察組に分かれ動き出した。
「・・・チニィはもう少しかかりそうかな。」
チニィの頭から足を離してもチニィは床に寝転がったままだ。チニィの身体を抱えて創りだしたこ於呂の台に寝かせる。その時わたしを見つめるチニィの顔は蕩けきっており、その目には物理的にハートが浮かんでいる。さらにチニィの股を手でさすると何故か液体でぐっしょりと濡れており、わたしの手までもがその液体で濡れてしまっている。
「なぁ、天使の身体って生殖出来ないはずだよな。なんでこいつ股濡らしてんだ?」
リアルがそう言いながらわたしの濡れた手を見ている。
「たしか、肉体があった方が興奮するし気持ちいいからだって言ってた。わたしにはよく分かんないけど。」
液体で濡れた手を乾かし、未だに身体から熱を放っているチニィを見る。その後リアルの方を向くと試しに聞いてみた。
「・・・ヤる?」
「・・・直球過ぎるだろ。やめとくよ。」
「そっか。」
再びチニィの方を見ていると天使の子が近づいてきた。そのままわたしの隣に来た天使は真剣な顔と真剣な目をしていることに気がつく。
「お師匠様にひとつだけ質問です。・・・わたしたち天使は子供を授かることは出来るのでしょうか?」
天使は真面目な顔でそう聞いてきた。
「そうですね・・・肉体さえあれば大丈夫だと思いますよ。実際わたしも創造との子供を産んだときは肉体を創りましたしね。」
わたしがそう言うと天使は驚いたような顔をした。その驚いた理由が分からず首をかしげているとわたしが創造との間に子供を産んでいることに驚いたらしい。といっても創造が子供の誕生を見てみたいとのことでわたしが協力したと言うだけだ。だから、その時のことも特に印象に残ったこともないのでほとんど覚えていない。
「まぁ、子供を産みたいなら肉体を持ってからするといいよとだけ言っておくね。」
わたしがそういうと天使はお礼を言って自分の仕事の戻っていった。丁度その時に身体の熱が冷めたのかチニィが起き上がった。未だに目の中にはハートが浮かんでいるが。
「お待たせしまいした。」
「もう満足した?」
「はい。今は満たされた気持ちでいっぱいです。」
そう言うとわたしの目を見てくる。
「じゃあ、さっき話していたとおりここに来る奴らをチニィの力で撃退しちゃって。その後はこの神殿を守りなさい。この神殿はわたしが建てた大切な場所だから傷一つ付けないようにね。」
わたしの目を見るチニィの目を見つめ返しながらそう言った。するとチニィは片膝をついて頭を下げる。
「必ずやその使命果たさせていただきます。」
そう言って顔を上げたチニィの目からはハートは消え失せ、覚悟の炎が灯っている。それからチニィは神殿に残る組の天使達の元に跳んでいき指示を飛ばす。
「俺達はどうするんだ?良くも悪くも俺達は有名だからな。」
わたしとリアルは神殿の屋根に腰掛け準備を進める天使達を見下ろしている。わたしはこの世界を調整するのに走り回っていたのでわたしの姿は昔から語り継がれている。今は変装しているとは言えもしかしたら気がつく奴もいると思い手出しをしない。リアルの場合は最悪の悪魔としてこの世界で有名らしい。
どんどんと準備が進み、いつに間にか沈んでいた日が昇ってくる前には準備が完了していた。そして日が昇り始めたとき偵察組から連絡が入った。どうやら奴らがやってきたようだ。すぐにその姿は見え始める。やってきたのは天使達よりも断然多い男達だった。そのどれもが大きな道具を担いでいる。神殿の前には女性が立ち塞がるように立っている。
「この場所は絶対に渡しません!」
男達が女性に気がつき立ち止まったとき、女性はそう叫んだ。
「ふん、知らんな。それにお前だけで何が出来るってんだ?お前はおとなしく消えてな。」
男は見下すようにそう言った。しかし、女性はそれに負けることなく睨み付ける。その女性を囲うように天使達が降り立つ。突然現れた天使達に驚いたのか男達は少し警戒している。
「用心棒でもやとったか?無駄なことを。」
男がそう吐き捨てるように言った。天使の中からチニィが出ていく。チニィの姿を見た男達は驚愕といった表情が浮かんでいる。
「この場所は絶対に渡しません。ここはご主人様の地、ご主人様が大切にしていた場所。その場所を渡しはしません。」
そう言って何処からか槍が現れチニィの手に収まる。チニィから溢れる力は普通の人なら恐怖で動けなくなるような圧倒的な威圧を含んでいる。この世界ではチニリエルという存在は昔から英雄として語り継がれている。表舞台からわたしとティリアがいなくなってからもわたしの指示で世界に残り続け小さな調整を繰り返し行ってきた。その中で意図せず人を救ったことも数え切れないほどある。だからこそチニリエルという存在はこの世界で生まれ育った人達には敬うべき存在になっている。
「その姿・・・まさかチにリエル様か?どうしてこのような場に。」
「先ほども言ったよ。この場所はわたしが愛するご主人様の大切にする場所。もし、この場を攻撃するなら容赦はしません。」
男に向かってそういう。男達はじっとチニリエル見つめている。男達は手に持つ道具を地面に置きいつでも飛びかかれるような体勢で止まっている。すると、そのうちの一人の男がその体勢を解いた。
「やめだ。帰るぞ。」
男はそう言って地面に下ろした道具を拾い真っ先に帰って行った。他の男達も迷い無くそれに続いていき、男達はすぐに消えていった。
「おー、効果てきめんだな。」
「でしょうね。」
神殿の上から見下ろしていたリアルにわたしは寝転がりながらそう答えた。そのこたえにリアルはじーっとわたしを見つめてくる
「・・・知ってたのか。」
「当たり前でしょ?この世界の未来くらい視られるもの。」
そう言いながら立ち上がったわたしは神殿の屋根から飛び降りる。リアルもそれに続くようにして飛び降りる。女性の前に音もなく降り立つと女性はすぐにわたしたちに向かって頭を下げた。
「ありがとうございます。おかげで壊されずにすみました。」
「今回はね。チニリエルは置いていくからまた来たとしても問題ないと思うから、あなたは婚約者を連れ戻しなさい。これからも守っていくんでしょ?」
わたしがそう聞くと女性は力強く頷いた。




