闘い
お互いにらみ合うようにゆっくりと構える。すると、妖狼が話しかけてきた。
「久しぶりにお互い本気でやらんか?ここなら邪魔は入らないだろう?」
「そうだね。ここに入ってくる人もいないだろうし、こんな奥地なら外に漏れることもないか。」
「決まりだな。」
妖狼はそう言うと妖気を放出し自らに纏わせていく。すると今まで白だった毛並みが紫に変わっていき、やがて全身が変貌すると額の部分に赤く燃える炎が生まれた。生まれた炎は三つに分かれ額の上部と両耳に延びていき三本の炎の柱を形成した。
「本気には本気で答えないとね。」
わたしも力を解放した。すると隠していた六枚の大型の翼を展開、そして額には青色の宝石のようなものが埋め込まれた装飾具が現れた。これは宝石ではなく、それぞれの神が効率的に力を出すために作り出したものだ。これは、通常時より遙かに強力な力を扱えるようになる代わりに、消耗が早いので力の制御ができない限り使うことはない。
「さて、これでいいかな。さぁ始めようか。」
わたしがそう言って刀を横一線に振り抜く。妖狼は右前足を瞬時に振り上げてから思いっきり振り下ろした。
すると、何もないところでぶつかるような音がして、妖狼の振り下ろした足が空中で止まった。
「さすがにこれは防がれるか。」
わたしがやったのは、時空をゆがめることで本来届かない場所に攻撃を届かせるというものだ。攻撃範囲は時空が届く場所なら無限にある。
「当たり前だ。何度も同じ手が通じると思うな。」
妖狼は恐らくわたしの腕の動きから攻撃を予測し、防いだのだろう。でなければ刀を振り始めた時点で届いている攻撃に反応することはできないだろう。
妖狼は空中に飛び上がると、空を蹴ってわたしに突撃してくる。一瞬防ごうとしたが、危険を察知して六枚の翼を動かし一瞬にして飛び上がった。すると先ほどまで自分の立っていた場所の地面から大きな氷が勢いよく突き出た。
「驚いたな。避けるか。」
「まさか自分を囮にしてくるとは。よく考えたね。褒めてあげよう。わたしには通じなかったみたいだけどね。」
妖狼は地面に着地すると、地面から突き出た氷にかみつくと氷を地面から砕き折り、空中にいるわたしに向かって投げつけた。しかし、そんな単純な攻撃が当たるはずもなくわたしはスッと横に移動して避ける。それも分かった上で攻撃したのだろう。
妖狼は氷を投げつけた瞬間、妖気を集め圧縮。それによって生じたエネルギーを一つの方向に放出した。放出されたエネルギーは氷を纏ってわたしに向かっている。
その攻撃をわたしも氷を出して防ぐ。
「お前の氷のが強いか。これだけは勝っていると思ったんだがな。」
「そりゃそうでしょ。あんたと契約したばかりの時は弱かったけどね。その後わたしが成長しないと思った?」
確かに氷の力も成長はしているが、大きく関わっているのは、妖狼と契約した後に契約した一人の神だろう。
自身の攻撃手段の一つがわたしに及ばないことに気づいた妖狼は、それからは積極的に接近戦に持ち込もうとした。実際わたしの長い刀と鞘は近距離、なおかつ相手が素早い場合かなり不利になる。なので、基本的に近づこうとする相手にはわたしの方から距離を取るようにする。
妖狼もそれを分かっているからこそ近づいてから攻撃をした後すぐにわたしから距離を取るように動く。これによりわたしは動こうにも動けなくなってしまっている。
「動けないようだな。やはり、そういうことだったか。」
妖狼はそう言うとさらに攻撃を激しくし始めた。次第にわたしにも疲労が見え始め時々体勢を崩している。しかし、そこは神を名乗っているだけある。たとえ体勢を崩されても攻撃は確実に防ぐか、反らし続けている。
お互い決め手に欠けているので、闘いは同じ状況が続いていく。すると突然妖狼が体勢を崩した。よく見るとわたしが鞘を上に切り上げるようにしている。恐らく妖狼が攻撃してきたのに合わせて振り上げたのだろう。妖狼もこれには驚いたのか、とっさに顔をずらし回避した。しかし、無理矢理回避したせいで着地が乱れている。
それを見逃すはずもないわたしは瞬時に攻撃に転じた。刀を持ち直し、体制を整えさせる前に妖狼のそばまで移動した。妖狼は体勢を崩しながらも必死に体を動かし少しでも攻撃を避けようとする。しかし、ここではその大きな体が命取りになった。わたしが振った刀は深々と妖狼を切り裂いた。
妖狼は刀を振り抜いた状態のわたしに尻尾をたたきつけると、その反動を利用して一気に距離を取った。妖狼は右前腕から横一線に深々と傷を負っており、そこから血の代わりに妖気が止めどなくあふれ出ている。わたしたち神や妖怪には血が通っていない。なので妖怪は体を構成する妖気が、わたしのような神は体を形成する素材によっては損傷した部位からその素材があふれることもある。
「くそ、避けきれなかったか。」
「その傷ではまともに戦えそうにないですね。また、わたしの勝ちですかね?」
「そうか?お前こそずいぶんと疲れ切っているではないか。そんな状態のお前に負けるわけないだろ。」
確かにわたしも体力が続かなくなったのか動きに無駄が増えている。ほんの少しの無駄が勝敗を分けることになる。例えば今回のように。
妖狼はわたしが一瞬目をそらしたのを見逃さず、一瞬にしてわたしの目の前に移動した。わたしはそれに反応出来ず、振るわれた腕によって体の上半分が吹き飛ぶことになった。残った下半分は一瞬立ったままの状態を維持したが、すぐに膝をつくようにして崩れた。




