秘密
私たちはその日、日付が変わるまで話し込んでいた。この世界でわたしがやりたいことは、イルがある程度の期間をこの世界でどう過ごすかを観察することが一番の目的だが、他にももう一つ重要な目的がある。この世界はわたしの弟子に当たる神が管理している世界なのだが、その神から少し問題が発生したと連絡があった。その問題は前世の記憶を持った状態で生まれてきたらしい存在が出てきたとのこと。極めてまれなことだが、わたしたち神が干渉せずに記憶が保持されることがある。その場合大きな問題や、世界を変えかねないことを起こさない限り不干渉というのが私たちの約束なので、わたしも弟子の神も取りあえずは放置していた。しかし、この世界に来る前にもう一度連絡があり、どうやら対象が大きく動き始めたらしい。それを確かめるためにこの世界に来た。
『ミカさん、さっき言っていた学園ってなんですか?』
「あぁ、この世界の学園は、違うか。この国の学園は適正者しか行くことができないところで、そこを卒業したってだけで実力が保証されるの。だけど、ここだけの話基礎を学ぶにはいいところだと思うけどそれ以上を学ぶには少し物足りないかな。」
『なるほど・・・。ちなみに何歳から入れるんですか?』
「だいたい十二歳ぐらいかな。それまではわたしもイルも自由に過ごすことになると思うよ。」
『分かりました。じゃあ、それまでは俺も自由に過ごしてます。』
そこで話を終わると、イルは目を閉じてすぐに寝始めた。それを確認するとわたしは壁をすり抜け夜の空に繰り出した。高度を上げると眼下には街灯に映し出された街の姿が目に入る。それを見ながらわたしはある場所に向かって飛んでいった。その場所はかつてわたしがこの世界を作ったときに、少し自分の力を見るために神力を放った地だ。その地は溶けることのない氷で閉ざされた生物が一切住まない。今回は時間に追われているわけでもないのでゆっくり飛んでいた。そんなこんなで目的地に着いたのは出発から2日後だった。わたしは氷で閉ざされた地の奥地に向かって飛び続けた。奥に近づくにつれ、雪が降り出し、それも進むにつれて吹雪に変わっていく。吹雪の中を進んでいくと、突然吹雪が止んでいる場所に出た。
「ここも何年ぶりかな。」
そう言いながら不自然に平らになっている氷の大地に降り立った。広さで言うとイルの住んでいる屋敷が余裕で入るぐらいだ。そんな広場にわたしが来たわけは、わたしの中にいるある妖怪を出すためだ。
「出ておいで、久しぶりの外だよ。」
そう言うと、わたしの中から強い妖気が生み出され外に放出した。放出された妖気は次第に形を取り始め、妖気の動きが収まるとそこには見上げるほど大きい狼が座っていた。狼といっても普通の狼ではなく、妖狼と呼ばれる種類で尻尾も四本あり狼の目は片目が真っ赤に染まっている。
「ようやくか。この前すこし暴れただけだったから不満だったのだが、今回は楽しめるんだろうな?」
「まぁ、楽しめるかどうかはあなた次第かな。それじゃあ始めるよ。」
そう言うとわたしは神器の刀を手元に出す。すると、妖狼もわたしの行動で意味を理解したのか立ち上がって姿勢を低くした。
「今日こそお前に勝つ。お前の連勝も今日で終わりだ。」
「さて、それはどうかな?わたしに一回も攻撃当てられてないのに勝てるのかな?」
わたしと妖狼が出会ったのはわたしが管理している世界ができて百五十年ほど経った頃だ。その頃は世界が安定し始めてすぐの頃なので、わたしも世界に降り立って積極的に干渉していた。そんな中わたしに戦いを挑んできたのがこの妖狼だった。当時のわたしはその戦いよりも世界のことを優先していたので、戦いも一瞬で終わらせた。それ以降度々わたしに戦いを挑んできてその度に一瞬で終わるというのが続いた。世界も完全に安定してきた頃、妖狼が一つのお願いをしに来た。そのお願いとは自分の力を貸すからわたしについて行かせろ、というものだった。最初はそのうえから目線にいらついて、鞘で思いっきり頭をひっぱたいたが、話を聞くと今の自分ではわたしに勝てないので自分を強くするためについて行きたいとのこと。力が増すのはわたしも大歓迎なので、それを了承した。その結果わたしは妖狼の持つ氷の力と幻を見せる妖眼を手に入れた。
「前と同じと侮るな!」
妖狼はそう叫ぶと飛かかかってきた。わたしに振り下ろされた腕を鞘から抜いた刀で防ぐ。妖狼の爪と刀がぶつかり、甲高い金属音が響く。
「やはり、理解できんな。どうして片手で止められるんだ?」
「さぁ?あなたの攻撃が弱いんじゃない?」
わたしの刀は普通の刀よりも遙かに長い。なので普通の人が持った場合両手で持つことになる。まぁ妖刀なので普通の人が持った瞬間命を落とすだろうけど。わたしは片手に刀、もう一方に長い鞘を持っている。この鞘は優秀な打撃武器として使っている。
「純粋な力でお前に勝てるとは思ってない。だからこそ技で勝つ!」
妖狼は交わっていた爪に力を入れて、その反動で後ろに飛んだ。わたしも刀を振り抜いたがギリギリ届かなかった。




