始まり
時空間をでると一つの部屋に出た。そこは広い部屋ではないが、どうやらこの部屋はイルが寝ている部屋のようで赤子用のベットが一つ、他にはクッションが数個置いてある。今は実体のない神体の状態なので空中に浮かんだ状態で部屋の中を探ってみた。
「ふむ、この部屋の窓は開かないようになってるし、床も柔らかい絨毯がひいてある。本当に大切にされてるね。」
独り言のようにそう呟くと、わたしは扉をすり抜けて隣の部屋に移動した。通り抜けた先の部屋には一人の女性がいた。その女性の腕には時空間から見ていたイルが、大事そうに抱えられていた。わたしはイルに気づかれないように部屋の隅まで移動すると、イルの脳内に直接語りかけた。
『イル、聞こえてる?』
『はい。聞こえてますよ。』
イルはすぐに返答してきた。しかも、感情を覗いても驚きが一つもない。
『以外と落ち着いてるね。てっきり驚いてるかと思ったのに。』
『いえ、さっき偶然視界に入ったのであなたがいることは知ってました。さらにあなたが神なら、脳内に直接語りかけるくらいできるのではと思ったからです。』
『なんだ、つまんないの。まぁいいや。取り合えず、わたしはこの屋敷の中にいるから。また夜になったら少し話そ。』
『了解です。』
そこで話を終えると、わたしは部屋を出て廊下に出た。廊下を飛びながら移動すると、途中で一人の女性とすれ違った。わたしが見えていないとはいえ一様警戒をして天井近くに上昇して通り抜けた。女性の上を通り抜けた段階で高度を戻した。この日わたしは夜になるまで屋敷の中を探索し続け、この屋敷のことはほとんど把握することに成功している。さらにリーネル家にはイルの他にも兄と姉が一人ずついることも分かった。その二人とも力を持たない非適正者だが。その日の夜、最初に降り立った部屋で待っていると、イルが女性に抱えられて部屋に入ってきた。女性はイルをベッドに寝かせると、すぐに部屋を出て行った。それを確認したわたしはイルに近づいて話しかけた。
「やっぱり、この家にはイル以外力を持ってる人はいなかったよ。」
『そうですか。やっぱりそうなんですね。あと一つ聞きたかったんですが、俺はあんたをなんて呼べばいいんだ?』
「わたしの呼び方ね・・・。正直わたしの名前は教えられないからね。自由に決めてもいいよ。」
『それが、一番困るんですが・・・。じゃあ、面倒くさいのでミカさんって呼びますね。』
「神って言う言葉を反対にしただけか。まぁいいんじゃない?」
適当に返事をしながらそう言うとイルはこれからどうするんかを聞いてきた。
「取りあえずイルが学園ていう施設に入るまでは特にやることはないよ。」
『その学園は何歳から入れるんです?向こうと同じでしょうか?』
「向こうの学園って言ったって、わたしとあなたの知ってる学園は少し違うと思うよ?」
『そうなんですか?』
「ええ、あなたの世界はわたしが直接管理してる世界だし、わたしの別荘もあるから。そういえばどこ出身か聞いてなかったね。」
『俺の出身ですか?えーっと・・・、静寂の海って分かります?』
イルは前の世界の出身地を話し始めた。イルが言った静寂の海はわたしの下界での家がある場所からかなり離れた海にある。静寂の海は海なのに波一つない水面が広がっている。
「あの、波がない海のことだよね。」
『そうです。そこから龍の住む大陸の方に進んでいく途中に島がたくさん点在してる場所があるんですが、その中の人族が住む島の出身です。』
イルが言ったのは、静寂の海の中にある島のことだろう。
「あれ?あそこって人魚達の住む島じゃなかった?」
『最初はそうだったらしいんですが、人族が人魚族と交渉して居住権を許可してもらったらしいです。』
「へー、そんなことがあったんだ。」
数百年に一度、しかも家の周りしか出ないのであまり世界について把握していない。なのでそんなことがあったのは全く知らなかった。
『ミカさんはどこに住んでたんですか?』
「わたしが住んでたわけじゃないけどね。一様外からは妖怪の里って呼ばれるところに別荘的なものはあるね。」
『妖怪の里って、あの妖怪の生息地に囲まれた里のことですか?ほんとにあったんだ。』
「ん?それってどういうこと?」
イルの話を聞いてみると、妖怪の里はおとぎ話みたいなもので実際に存在してるものだとは思っていなかったらしい。イルが知っている話だと、妖怪の里には人族の他にも妖怪が住んでいて、その地に住む人族は普通より強力な力を持っているということらしい。わたしも下界に下りたとき、そこにいる人達の力なんて知ろうとしなかったし、他の下界の人と会ったこともないので比べることができない。ただ、確かにあそこには人族の他に鬼族や人型の妖怪が暮らしている。
「なるほど、そんな風に伝わってるのね。確かに人族以外も住んではいるけど、人族が普通より力を持っているとは思わないけどなー。」
『やっぱり、おとぎ話程度に考えておいて良さそうですね。』
「それでいいと思うよ。」
わたしは、イルにそう返答しておきながらも少し気になったので帰ったら検証してみることにした。しかし、ここでよく考えてみるとわたしの世界に住んでいたイルは身近に龍族や人魚族という人間よりも遙かに強い存在がいたので、少なからず影響を受けていたはず。なので他の世界に住んでいる者達と比べても力は強いと思う。まぁそこも含めて確かめてみることにする。




