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B2 召喚された者

 わたしたちの目の前で現れた氷の壁。その氷は薄く、氷を通しても向こう側の景色がはっきりと見える。氷の壁の向こうでは騎士団長が井理を連れ去ったあの人と戦っていたが、騎士団長の頭をその人が触れたとき突然騎士団長の力が抜けたように倒れ込んだ。起き上がった騎士団長はなぜか自分と一緒の騎士達を攻撃し始めた。苦悶の表情を浮かべながら騎士さん達を殺し尽くした騎士団長は自分の頭を抱えたところで倒れ、一切動かなくなった。氷の壁はいつの間にか消えてなくなっている。わたしたちが見る先には映画を見終わったあとの子供のような顔を浮かべているその人がいる。


「さてと、残ってるのはお前達だけだけどやるか?それなら一切容赦はしないぞ。どうやらお前達の世界の神はお前達のことを見捨てたみたいだしな。」


先ほどまで浮かべていた無害そうな微笑みとは真逆の片側の口角を上げその目からはあふれ出るような敵意と威圧に身体が動かない。震える手を抑えながら剣を持ち上げる。


「すみません、ここはわたしにやらせてもらえませんか?」


不意に上の方からそう声が聞こえてきた。そちらの方を見ると井理がふわりと木の上から降りてきていた。その隣には先ほどの女性もいる。


「別にいいけどどうして?」


降りてくる井理達にその人はそう聞いた。降り立った井理はわたしたちの方をじっと見ながら口を開いた。


「わたしの覚悟は弱いものではありません。でも、どうやっても拭いきれないものはあります。だからこそここでそれを捨てたいので。」


「・・・ふーん。いいよ、やってみな。シフィアナは井理のこと手伝ってあげて。もちろんこれもシフィアナ自身の力を上昇させるいい機会だから頑張って。」


その人はそう言うと隣に立っていたもう一人を抱えて木の上に飛んでいった。その姿を目で追っていると、あふれ出るような力と緊張感がわたしを包んだ。その発生源らしき方を見ると井理が今まで見たことのない力を放っている。


「わたしは舞良や華菜とは仲良くやれていたと思う。でも、ほんとうのわたしはそうじゃなかったみたい。わたしはこの世界に来ることに反対だった。それを言う前にこの世界に連れてこられちゃったんだけどね。もちろんこの世界でも楽しかったんだけどね。向こうでは使えなかった魔法って言う力に、城下で食べたおいしい料理。でもわたしの中にはずっと同じ気持ちが残っていた。あの人はその気持ちを叶えてくれると言った。だから、舞良達も一緒に帰ろ。」


井理がそういったときの顔は向こうでよく見た微笑みだった。でもその微笑みはわたしたちから見ても明らかに前とは違う。その顔には強い覚悟が浮かんでいる。


「井理はそれでいいの?もしかしたらだまされてるかもしれないのよ?」


華菜は井理に向かってそう言った。でもその言葉に井理を止めるほどの説得力はない。


「ええ、わたしは騙されているとは思っていませんから。」


井理は変わらず微笑みを浮かべた状態でわたしたちの方に手を向けた。直感的にわたしたちは左右に分かれるように跳ぶと、先ほどまで立っていた場所が吹き飛んだ。


「避けないでくださいよ。じゃないと・・・殺せないじゃないですか。」


井理は何でもないことのようにそう言った。


「井理、本当にどうしちゃったの!?そんなんじゃなかったでしょ!?」


わたしは思わずそう聞いていた。井理はわたしの方を真っ直ぐ見ながら口を開いた。


「これがわたしですよ。自分の邪魔になる人は誰であろうと追い落とす。向こうでもそうやって生きてきたんだから。思い当たることはあるでしょ?教えてあげる。昔学校でいじめがあったとき、直接わたしには関係なかったから完全に無視を決めていたらわたしに太助を求めてきたせいでわたしまでいじめられそうになった。だから、いじめの主犯を追い落としたの。どう?これが本当のわたしなの。」


井理が言っているのは高二の時にあったいじめのことだと思う。その時はわたしと井理が同じクラスだったが、そのクラスの中で一人の女子が男子二人にいじめられていたのだ。一ヶ月ほど経ったときそのいじめをしていた二人は突然学校を退学し、いじめは消えた。


「まさか・・・あの時何かしたって言うの・・・?」


「ええ、と言ってもあの二人に見せかけて少し過激なことをしてあげただけだけどね。まず、いじめられてた子の制服をはさみで切っておいて、男子二人には適当に呼び出しの紙を机に入れておく。それだけで、簡単に退学にさせられたね。だって、制服を切るなんて言うのはいじめをしてる人しかしないだろうって言うふうに考えるのが普通だからね。その結果男子二人は無事退学。勿論自分じゃないって最後まで否定してたけどね。」


井理の言うとおり、あの子の制服が切られたときさすがに度が過ぎていると言うことでわたしたちを含め学校全体で噂になったのは覚えている。先生達も把握はしており、注意は行っていたがやり方が陰湿でバレていないことが多かった。だけど、あのことがあってからは学校の評判を気にしたのか校長までが退学するように言ったという。


「あれを・・・井理が・・・。」


「そう。面白いでしょ?ほんとにあの時は楽しかったよ。」


わたしは信じられないと言う気持ちが渦巻いていた。すると、華菜が勢いを付けて井理に斬りかかった。


「舞良!もう前まで知っていた井理はいない!わたしたちも覚悟を決めるしかない。」


井理に剣が届きそうになったとき華菜の剣は何者かによって防がれた。それは先ほどまで井理の隣でじっとしていた人だった。


「話が終わったのなら早くしてください。」


「はいはい。じゃあ力借りますね。」


井理がそう言うとわたしと華菜の周りを風が纏いはじめ、その風は瞬く間に竜巻のように激しい風となりわたしたちを空に放りだした。空に打ち上げられたわたしは重力には逆らえず、途中で意識を手放した。



「・・・。」


何かが聞こえてきた。それは言葉のようで、わたしは重たい目を開いた。最初に目に入ったのは白い景色目を動かしても何処を見ても白しかない。


「起きたみたいだね。」


すると、わたしのことをのぞき込む顔があった。その顔はあの時井理を連れ去った自らを神と名乗る女の顔だった。思わず身体を動かそうとしたが何故か全く動けない。と言うよりも動かすものがなくて、からぶっているような感覚だ。


「動けないでしょ。そりゃそうだ、だってあなたは死んでるんだから。」


そう言ってわたしに一枚の鏡を見せた。そこには・・・なにも映っていなかった。自分の顔も身体も、姿形は一切ない。


「もう一人の方はすぐに魂が還っちゃったからね。あなただけは捕まえられたの。もう一回みしてあげる、あんたの死に様をさ。」


そういうと、わたしの目の前にある鏡に映像が映し出された。そこには竜巻によって空中に打ち上げられたわたしと華菜が地面にたたきつけられ、赤い血をまき散らしている画だった。


「綺麗に咲いたね。井理もつかえていたものがとれたみたいですっきりしてたよ。でも安心して、井理はあなたたちのことを忘れたりはしないと思うから。井理の記憶の中にあるあなたたちとの思い出は全部綺麗な花を咲かせられていた。ただ、その咲いた花びらの裏には無数のとげが生えてるのに気が付かなかったみたいだけどね。」


鏡に映し出される画は向こうの世界での思い出ばかり。わたしの中でも楽しいと言う思い出が残っている者ばかりだった。


「井理は元の世界に戻したし、あなたたちのことは行方不明として処理されたみたいだからそれだけは伝えておくね。それじゃあ、無垢な魂としていつかまた会うことになると思うけどさようなら。」


その言葉を最後にわたしの記憶は終わりを告げ、これまで紡いだ記憶の花は枯れ落ちた。

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