戦場
シフィアナが井理を木の上に運んだのを確認すると、わたしの方を睨み続けている者達の方に向き直った。
「井理に何をしたんですか?」
「なにも?わたしはあの子の願いを叶えてあげただけ。それがわたしの仕事だから。」
聞いてきた召喚者に答えると、召喚者はどういうことか理解が出来ていないといった顔をした。
「そもそも、あなた方はどうしてわたしたちに反抗するんです?特に危害も加えていないですし、反抗する理由も無いでしょう。それにあなた方が戦う理由に挙げている話も元々はわたしたちが伝えた話ですし。」
わたしがそういったことで驚いた顔をしたのは召喚者以外の者、つまりこの世界の住人達だ。それもそうだろう。
「どんな改編がされているかは知りませんが、少なくともあなた方が知っている話は正しくはないですね。全くどうして神であるわたしがあなた方の味方をしなけらば行けないんですか。」
遠回しにわたしが話に出てくる味方をする者だと言っているようなものだがどうやらあいつらは気がついていないようだ。その代わり召喚者達は他のことで驚いたようだが。
「・・・まさか、あなたは神だというのですか?」
「あれ?聞いてないの?」
てっきりもう正体はばれていて、そのうえで戦っていると思っていたがどうやら相手が神であることは隠していたようだ。
「なるほどね~。つまりだましてたって事か。」
すると先ほどシフィアナに向けて矢を撃っていた奴らがわたしの方を狙って撃ち始めた。撃たれた矢はすぐに花びらで迎撃、そのまま射手も八つ裂きにして息の根を止めた。これで残っているのはオロチと遊んでいる奴らと召喚者の近くにいて助かった運のいい奴らのみ。
「ほらほら、早くわたしを止めないとどんどん死んでくよ。」
その言葉に動かされたのか召喚者の一人が剣を抜いてわたしに攻撃してきた。剣の機動を遮るように手で空間を切り裂き防ぐ。
「なぜ、あなたは人を殺すんです!?あなたは神なのでしょう!?神は人を助ける存在では無いんですか!?」
召喚者は剣に力を込めながらそう言った。その言葉はわたしには理解が出来ず首をかしげてしまった。
「どうしてわたしが人を助ける必要があるんですか?」
「え・・・」
わたしの言葉に剣に掛けていた力が弱まり、押し返されるようにして距離が空いた。
「何故あなたはわたしが人を助けると思ったのです?そんないてもいなくても特に変わりの無い存在を。」
召喚者は信じられないというような顔をしながら固まっている。
「そもそも、わたしたちは人を助けたことなど一度もありませんよ。わたしたち神が助けるのは世界だけ。それ以外は死のうが生きようが消えようが関係ないです。もしかして、世界を救ったときに偶然近くに人がいて、そいつが自分を助けてくれたと思ったのだとしたらそいつはずいぶんとうぬぼれていたみたいですね。」
そう言って笑うと完全に固まってしまった。
「はは、信じられないっていう感じだね。でも残念。それに自分に反抗する人を助けるなんてあなたたち人もしないでしょ?それと一緒です。」
そう言うとわたしは花びらで渦を作り、逃げられないようにオロチと遊んでいる奴らを含め全員を囲うように広げた。それによりわたしを覆っていた花びらは全てなくなることになる。
「さて、これであなたたちでも攻撃しやすくなったんじゃないですか?まぁ攻撃を当てることが出来るかは別ですが。」
わたしがスッと腕を上げるとわたしの前に立っている奴らは身体をびくりとさせて身構えた。肩と同じ高さになるぐらいまで腕を持ち上げたわたしは指をパチンと鳴らした。すると、わたしの後ろで大木が風を受けたように揺れた。そして再び枝に付けた花びらを空中に放り出す。
「さて始めましょうか。」
空中で漂っていた花びらが一斉に集まり、形を成し始める。完成したのはわたしがここ場での道中使っていた刀よりも少し長い刀身を持った刀だった。今まで使っていた刀はあの時使ってから時空間にしまっている。浮かんでいる刀を掴み、鞘から抜くと刀身には花びらの模様が先の方まで描かれている。
「この神器も久しぶりに使いますね。せいぜい試し切りとして耐えてくださいよ。」
片手で持った刀を横一線になぎ払う。すると、一瞬でわたしの目の前の風景が一変した。先ほどまでオロチが遊んでいた場所には赤い色が広がっていたが、今はそれに加え地面を一文字に切り裂いて、地割れのようになっている。かろうじて生きていた奴らも完全にいなくなった。召喚者達も衝撃で吹き飛ばされ、生き残っているのは数人にまで減っている。
「あらら、たったこれだけしか生き残らないとは。やっぱり弱いですねー。」
「この世界の人はそんなに固くないんですから、しょうがないでしょう。」
いつの間にか人型に戻っていたオロチがわたしの隣で周りを見渡しながらそう言った。生き残っている奴らもなんとか立ち上がり固まって次の攻撃に備えている。召喚者二人を守るように他の生き残った奴が立っている。
「どうしますか?もう決めてしまってもいいのではないです?」
「そうだねー。でも、召喚者はわたしが手を出すともしかしたら面倒くさいことになるかもしれないからね。だからこうする。」
手を下から上に動かすと、それに合わせて氷の壁がせり上がってきた。氷の壁は召喚者とそれ以外の奴を分断するように形成され、一時的た決戦場が出来あがった。
「とりあえず邪魔なあいつらは消すよ。」
刀を構えて地面を蹴った。さすがはこの状況で生き残っているだけはある。しっかりと反応してわたしの振り抜いた刀に自らの剣を当て受け止めた。
「へぇ、よく止めたね。」
「俺はお前を倒すためにここに来たんだ。こんなところで死んで溜まるか。兄上の仇ここで撮らせてもらう。」
「お兄さん?そういえばどこかで似たような奴を見たような・・・。」
男は剣に力を入れ、わたしを押し返した。その力を受け流しながら一回転し、距離を取った。
「おまえがこの世界に来て最初に殺したのが俺の兄上だ。忘れたとは言わせんぞ。」
男の目には怒りで溢れている。そう言ってもわたしはそんな奴いたな、位でしか覚えていないのでどういう奴だったかはほとんど覚えていない。ただ一つ覚えていることがある。
「ああ、覚えてるよ。あの弱い奴のことね。」
軽く考えてから思い出したように言うと、男に目に宿った怒りが溢れた。予想通り怒りを増すことが出来たわたしは顔には出さず喜んだ。
「兄上のことを、弱いと言うな!」
「隊長!」
隊長と呼ばれた男は部下らしい者の制止の声が耳に入っていないのかわたしの方に突撃してくる。怒りにまかせて振られる剣はただ力任せに振られるだけの単純な軌道で簡単に裁ける。このまま切り捨ててもいいが、それだとわたしが楽しめないので振られる剣に合わせて自らの刀を当てる。
「おまえは、絶対に、殺す!」
殺意と怒りに飲み込まれ、目の前しか見ていない。必死に部下らしき男達が読んでいるが明らかに聞こえていない。
「人のその感情、ほんとにいいよ。興奮する。その感情は人に力を与えるけど、破滅に追い込む感情だって気がつかない。怒りで我を忘れた人はただの獣に成り下がる。だから・・・そこにつけ込まれる。」
振られる剣の隙を突いて男の頭に手を当てた。そして感情に飲まれた魂を操る。途端に男は動きを止め、全身の力が抜けた。倒れ込んだ男が再び立ち上がったとき男は完全に操ることが出来ていた。
「さぁ、その感情をぶつけてあげなさい。自らの手で自らの部下を手に掛ける。いいね、面白そうだ。」
男はわたしの言葉に動かされ、すぐに自らの部下を殺戮し始めた。男は必死に自分の身体を止めようとしていたがその抵抗もむなしく全員の部下を手に掛けたところで精神が崩壊、そこで魂を握りつぶし殺した。
「はぁー面白かった。もう少し抵抗してくれてもよかったのに。そしたらもっと面白かったのになー。残念だなー。」
氷の壁を消しし去るとこの線上に残った唯一の人間がわたしの方を睨んでいた。




