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A3 召喚された者 

 城を出てから数日、初日以降わたしはご飯の時以外はずっと船室に籠もっていた。途中初日に話しかけてきた男が呼びに来たが、他にやることがあるといって断ったのだ。


「そろそろ着くかな・・・」


船と同じ速度で飛んでいる鳥に探知の魔法をかけて外の様子を見ている。今は山脈の山頂に近づいてきた頃で、気温もかなり低くなってきた。天井からは身体を温めるために動き回っている人達の足音が響いてくる。わたしの部屋は魔法で生み出した炎を部屋中に浮かべているのでかなり快適に過ごすことが出来ている。ついでにこたつに近いものを作ることにして、余っている毛布をもらってきた。


「さて、取りあえず机の天板を外してと。」


部屋に置いてある机は木を組み合わせて作られたもので、足も長い。なのでまず足をささっと切り落とし、天板を止めてある木を取り外すと天板と足の基板との間に毛布を挟んで持ってきていたふかふか絨毯の上に置く。さすがにこたつの中に火を入れるわけにはいかないので、どうしたものかと考えていると扉をノックする音が聞こえた。


「入ってもいい?」


「いいよ。」


入ってきたのは舞良だった。ふと窓の外を見ると日が沈みかけていることに気がつく。どうやらご飯の時間が近づいてきたため呼びに来てくれたようだ。


「ご飯だから呼びに来たんだけど・・・なにそれ。」


「これ?見ての通りこたつ。まぁ中を暖める方法が思いつかないんだけどね。」


舞良はふーんと言いながら部屋の中を見回した。


「便利だねー、相変わらず」


呆れたような声を出しながらも何かを考えている様子の舞良。ふと思い出したように顔を上げた。


「そういえば風を起こす魔道具があったかもしれない。それがあればこたつの中暖められるんじゃない?」


舞良にその魔道具について詳しく聞いてみると、元々は推進力として開発されたものらしいのだがどう頑張っても出力が小さすぎて微風を生み出すことしか出来ないらしい。しかも魔力が無いと動かないので、全く意味のない物だそう。何故そんなものが船に乗ってるのか気になったが、今はその魔道具があれば目の前の問題が解決できる。


「なるほど・・・それって誰に言えば貸してくれるか分かる?」


「多分わたしでも取ってこれるからご飯食べたら取ってきてあげるよ。」


「ほんとに?助かるよ。」


わたしは舞良にお礼を言うと部屋に浮かべた炎を消して部屋を出た。食堂に向かうとそこには多くに人が集まっていた。集まっているほとんどの人がかなりの厚着をしている。それに比べて今のわたしの格好は長袖の服に一枚フワッとした素材のものを羽織っているだけ。下に関してはすね当たりまでの丈があるスカートとかなり軽装なのだ。舞良にも寒くないのかと聞かれたが、日常生活で使える魔法の中に濡れた服を暖めて乾かすというものがあり、その魔法を全ての服に掛けているうえ、一番上に羽織っている物の素材は保温性能が高いので快適な温度で過ごすことが出来ている。


「やっぱり便利だねー。」


舞良にそう言うとどこか遠くを見るような目をしながらそう言われた。ささっと食堂で食事を終えたわたしはほどよい睡魔に襲われながらボーッとしていた。すると、一人の男が大きな声で話し始めた。


「恐らく明日、我らは強大な敵と戦うことになる。だが奴をこの大陸から出すわけにはいかない。なんとしても足止めをする。」


男の声に食堂にいた全員が緊張したような空気を纏った。あの人はここにいる全員が束になっても勝てないことを知っているわたしはその話を聞きながらボーッとしていた。すると、いつの間にか話も終わっていたので、部屋に戻って完成しきっていないこたつの中に入った。


「お待たせー。」


そう言いながら入ってきた舞良の手には一つの魔道具が握られていた。魔道具を受け取ったわたしはそれに魔力を流し、用意しておいた筒に魔道具と炎を一緒に入れてこたつに突き刺した。


「おー、成功成功。暖かーい。」


こたつに刺した筒からは暖かい風が出てきており、こたつの中を温めることに成功している。わたしはこたつの上に顎を乗せてとろけきっていた。いつの間にか舞良もこたつの中に入り同じ体勢でとろけている。その日はそのままこたつの中で寝てしまい、翌朝華菜が呼びに来るまでずっと寝ていた。朝早くわたしたちを起こしに来た華菜は完全装備で武装していた。


「起きてください二人とも。対象が現れました。」


まだ寝ぼけている目をこすりながらかばんの中から杖を引っ張り出す。この杖も城下町で偶然見つけた工房で手に入れた物だ。


「・・・そのかばんについてはあとで聞きますが、行けますか?」


「いいよー。ふぁ」


華菜についていくと甲板の端まで進んで行った。そこには先日わたしに話しかけてきた男がいた。わたしたちが来たのに気がついたのか、男はわたしたちに一つずつ石を渡してきた。


「船を下ろすには時間がかかる。だからこの石で支えながら飛び降りる。」


石をよく見ると石には風の魔力が纏わせてあり、使用者の意思で力を解放することで落下速度を落とすことが出来る様だ。華菜と舞良は石を受け取ったがわたしは男に石を帰して自分に風の魔法を纏わせた。


「これがあれば自由に空を飛べるのでいらないです。」


わたしがそう言うと男は石を受け取りながらそうか、と言った。船の端に立つとわたしはおもむろに手を持ち上げる。すると持ち上げた手を止まり木のようにして一羽の鳥が止まった。わたしの手に止まった鳥に視覚共有という魔法をかけた。この魔法も元々は親が子供の場所を把握するときに使う魔法で、わたしのような使い方は普通はしないだろう。


「頼んだよ。」


小さくそう呟くと鳥はわたしの手から飛び立っていった。片目を閉じるとそこには鳥が見ている景色が見える。空から見下ろすと人を一人抱えた状態のあの人ともう一人女の人が空中を駆けている姿が見えた。


「行くぞ。」


男がそう言うと迷い無く船から飛び降りた。それに続いたのは舞良達で、わたしは少し遅れて飛び降りた。四人の少し後ろに降りたわたしは手に持った杖の先端を地面に刺し腕を組んで前を向いた。男があの人に話しかけると笑顔を浮かべながら話し始める。その後もう一人いた女の人が構えた。その人が放つ威圧に圧倒され、わたし以外の意識がその人に集中したのが分かった。すると、わたしのすぐ隣に気配が増えた。


「あの、あれって大丈夫何でしょうか・・・。」


その人曰く殺すことはないし大丈夫だろうとのこと。それからわたしの覚悟について聞いてきたが今更変えるほど薄い覚悟をしていない。それから彼女たちの場所に行くための方法を教えてきた。その話が終わるとすぐに彼女たちはどこから飛んできた竜に乗って飛び去っていった。それを確認したわたしは地面に刺した杖を抜き取り視界共有を解除した。わたしは未だに立ち上がれていない四人を置いて着地した船に向かった。船から降ろされた橋からは何人もの人が慌ただしく降りてきている。その人達とすれ違いながらわたしは着ていた服のフードを目元近くまで深くかぶった。そのままどこにも寄らず自分の部屋に入ると内側から鍵を閉めた。


「この部屋も短い間だったけど快適だったな・・・。」


呟くようにそう言うとわたしは部屋にあった自分の持ち物を全てかばんの中にしまい、そのかばんを燃やした。必要な物は全て身につけている。本はかさばるので腰にひもで吊っている。それから日が沈むまでの間静かに待っていたわたしは辺りが完全に闇に沈んだことを確認し、部屋に一通の手紙を残し船を抜け出した。それからはトントン拍子に事が進んでいき、街では言われたとおりの人に手紙を渡しわたしのことを運んでくれた。向こうに着いてからも案内だと名乗るあの人に抱えられていた人がわたしのことを連れて行ってくれた。案内された先でわたしが見たのは遙か高くまでそびえ立つ信じられないぐらい大きな桜の大木だった。

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