序章
白い空間を進んでいると、突然白い空間が途切れ色のある景色に変わった。シフィアナは空間酔いで白い顔をしながらわたしの脇に抱えられている。地面に降り立ったわたしはすぐに顔を隠すために目元まで隠れる布をかぶった。
「行くよ。」
短くオロチにそう言うと地面を蹴り空中を駆けながら移動をし始めた。出来るだけ森の上を移動しながら人目に付かないようにした。少しはならたところに街を見つけたが今は無視して先を急ぐ。
「迎えはいつ来る予定なんですか?この世界の渡り船を使うわけではないのでしょう?」
先ほど見つけた街には第Ⅲ大陸に渡るための船が出ている港町なのだ。最初の目的地だったが、わたしが色々と暴れ回った結果別の方法で渡るしか無くなってしまったのだ。その方法に関しては神の里から出してくれるそうなので問題ないだろう。
「向こうが出してくれるって。だから人目に付かなそうなところに向かってるの。」
そう話していると、突然日を遮った大きな影が現れた。わたしとオロチは空中で立ち止まり空を見上げた。
「なに、あれ・・・」
オロチがわたしの隣でそう漏らした。わたしたちが見上げた先にいたのは空を覆い隠すように飛んでいる船のような物体だった。
「早いな・・・」
わたしはそう呟くと再び移動を開始した。オロチも少し遅れて着いてきている。今わたしが向かっているのは街から離れた場所にある広い砂浜だ。恐らくあの船も同じ場所に向かっているだろう。不幸にもその砂浜は神の里からに使いと合流する場所として指定された場所だったのだ。
「あれは何なんですか?主様の反応から見るに面倒くさそうな相手みたいですが。」
「ふふ、半分正解かな。あれはわたしを楽しませてくれる娯楽みたいなもの。そう思ってて。」
わたしとオロチは砂浜の砂を巻き上げながら着地した。脇に抱えていたシフィアナも下ろして、徐々に高度を下げている船を見上げた。すると、船から数人の人が飛び降りたのが見えた。
「どうしますか?ここで殺し尽くしても問題ないと思うんですが・・・」
オロチはそう言いながらわたしの隣に並んだ。位置的にはシフィアナの前に立つような感じで立っている。
「ここではやらないよ。もっと楽しめる場所じゃ無いと。」
そんな話をしていると、わたしたちと少し離れた位置に数人の人が降り立った。召喚者の三人と男が二人の合計五人が降り立った。
「導き手の方とお見受けする。」
一番背の高い男がそう聞いてきた。
「そうだったらどうする?別に誰を連れて行こうがわたしの勝手でしょ?それにあなた方みたいに弱い人を連れて行く意味が無いですからね。」
見下すように笑顔を浮かべながらそう言うと、男の脇に控えていたもう一人がわたしの方に近づこうとした。しかし、それを男が手を出して止めていた。
「ええ、その通りです。ですが、あなたはわたしたちに敵対すると言っていた。それなら話は別です。ここで、仕留めさせてもらう。」
そう言うと一人を除いて全員が剣を抜いた。
「オロチ、遊んであげて。もちろん殺さないように。」
「承知しました。」
そういうとオロチは少し前に出る。油断なく構えるオロチの袖から見える腕には白い鱗がびっしりと生えていて、手首より上を覆っている。
「さて、大変不愉快ですがあなた方の遊び相手をさせていただきます。遠慮は無用です。」
威圧しながらそう言うと、剣を抜いた四人はその威圧に一瞬ひるむ。これにより四人の意識はオロチにしかむいていなかった。
「シフィアナはここで待ってて。すぐに終わると思うから。」
わたしの背中に隠していたシフィアナにそう言うと、氷の壁でシフィアナを覆い唯一敵対心を出していない召喚者のもとに向かった。
「あの、あれって大丈夫なんでしょうか・・・。」
わたしがすぐ隣に来ると、井理はすぐにそう聞いてきた。恐らくわたしが話しかけに来ると予想していたのだろう。
「大丈夫でしょ。殺さないようには言ってるし。それで、覚悟は出来てる?」
「あなたと会った時から出来ていますよ。わたしは絶対に元の世界に帰ります。茨だろうとバラのとげだろうと踏みしめて進むつもりです。」
井理はそう言うと覚悟を決めた目でわたしを見ながらそう言った。井理の事を抱きしめると、頭を撫でながら易しく話しかける。
「わたしだって茨の道は歩いてほしくないからね。出来るだけ協力するつもりだよ。でも、井理は大切な友達を裏切ることになっちゃうけど大丈夫?」
「それを含めて覚悟は出来ています。わたしは元の世界に戻ったら絶対に後悔するでしょう。でもそこで立ち止まるつもりはありません。生きる道は人それぞれですから。」
井理はしっかりと分かっているんだ。こういう覚悟をもっている人は大体目の前の覚悟しかもっていない。その後に訪れる後悔を見据えていないのだ。井理はそれを分かった上で覚悟を持っている。こういう人には様々な力が共鳴しやすいため、力を持てば信じられないような力を出すことが出来る。
「そっか。じゃあわたしが言うことは無いね。ここから少し行ったところに街があるから、そこの港に白い帽子をかぶった奴がいると思うからそいつにこの前渡した手紙を渡して。そうすればわたしたちのところに連れて行ってくれるから。」
井理にそう言うとわたしはシフィアナの元に戻った。オロチは四人からの攻撃を鱗で全てはじき返しながら遊んでいる。
「もういいよ。」
わたしがそう言うとオロチは地面を殴り攻撃してくる四人の体勢を崩した。それを確認すると後ろに飛んでわたしの近くに移動してきた。
「お話は?」
「終わった。それに迎えも来たみたいだし。」
シフィアナをもう一度抱えてから一言わたしたちの方を見る四つに目線に向かって話しかけた。
「わたしたちと戦うなら神の里まで来なさい。そこで遊んであげる。だからわたしのこと楽しませてよ。」
それだけ言うとわたしとオロチは地面を蹴って跳び上がった。下には砂浜に降りた船と先ほどまで遊んでいた四人と井理が小さく見える。上昇するのが止まった辺りでわたしたちの足は灰色の鱗で覆われたものの上に降り立った。
「丁度だね。」
「合わせてくれたからですよ~。じゃあ、約束通り例の場所まで運びますよー。いけー。」
少し気の抜けるような声でそう言った。わたしたちは今灰色の竜の上に立っている。それを操るのは眠そうな目をしている一人の男天使で、色々と運ぶのを手伝ってもらっているのだ。
「相変わらず気の抜ける声だな。まぁお前らしいが。」
「主ってキャラぶれまくりですよね。」
「・・・いうな。」
若干自覚しているんだからやめてほしいものだ。どうしても仲のいい神や世界だと六神としての威厳を出しても、すぐに戻ってしまう。
「そうだ。シフィアナ、向こうに着いたら一つだけ仕事を頼まれてくれない?」
しばらく進んだときわたしは思い出したようにシフィアナにそう話しかけた。竜の上ではすることも無いので、オロチは小さな蛇の状態でわたしの膝の上で眠っている。
「仕事ですか・・・。」
「大丈夫簡単なことだから。向こうに着いてしばらくしたらある人が遅れてくるの。その人をわたしたちのところに連れてきてくれるだけ。簡単でしょ?」
「それはいいですけど・・・誰なんですか?来るのは。」
シフィアナはわたしの目をじっと見つめながらそう聞いてきた。わたしはシフィアナを見つめ返しながら話した。
「・・・召喚者のうちの一人だよ。」




