始まり
わたしの言葉を理解するのにしばらく時間を有した。すぐに復活したのは最高神の方だった。
「もらうってどう言うこと?守護神も守護天使もすでにいるからそれを変えるというわけではないのでしょ?じゃあもらってどうするの?」
確かに今わたしにはメイという守護神もいるし、最近会っていないが守護天使として仕えている子もいる。さらに言えば守護神に仕える天使達もいるので、人員に関しては充実している。
「もらうと言っても一時的にわたしが預かるという形のが近いかな。この世界で天使として動くのは難しいでしょうし、新しい場所が見つかるまではわたしたちが育てればよりいいところが見つかるでしょう?」
「なるほど。それなら問題なさそうですね。ただ、天使長は許してくれるか。いくらあなたでも親の意見を無視はしないでしょうし。」
「まぁね。ただし、あの子は絶対連れてくよ。だって彼岸の花園を綺麗って言った数少ないものの一人だからね。天使長がだめって言ったら天使長ごとつれてくから。」
わたしがそう言うと天使長も最高神も驚いたような顔をした。
「それで?天使長には答えを聞いておこうかな?」
わたしは天使長の方に視線を向かわせると天使長は諦めたように息を吐き出して分かりました。と答えた。それから続けるように孫のことをよろしくお願いしますと頭を下げた。
「別に会えなくなるわけでもないしね。時期を見てまた連れてくるからさ。」
「そうしてくださるとありがたいです。」
わたしはその言葉に頷くと最高神に帰るねと伝え天界をあとにした。天界の門から外に出ると日が見え始めていた。わたしは翼を折りたたみ、大地に導かれるように落ちていく。あと少しと言うところで翼を最大まで展開し、速度を落とした。ゆっくりとオウストリントの屋敷にある中庭に降り立った。
「お疲れ様です。どうでしたか?」
見上げるとオウストリントが窓枠に手を置いてわたしの方を見ていた。恐らくわたしが帰ってくるのを待っていたのだろう。オウストリントの手には乾燥させた果物が入った袋を持っている。
「知ってたよ。と言うより本当に天使長の血が入ってるみたい。」
「つまり、天使長自らが授かっていたと言うことですか。わたしたちにも気がつかれないとはよほど上手く隠していたのですね。」
「それか、わたしたちが他で忙しかったときに上手く重なったか。」
わたしはトンッと地面を蹴りオウストリントのいた部屋に窓から入った。オウストリントも身体を邪魔にならない場所に動かし、わたしを迎え入れた。
「一様あの子はわたしがもらっていくから、人と世界の問題は解決できると思うよ。まぁ何かしてくるなら責任もってやるよ。そのためにあの神話を流しておいたんだから。」
この世界で最高神と調整をしているとき、わたしは一つの話を神話として広めておいたのだ。それはいつかわたしたち世界や神に反旗を翻したとき、反旗を翻す理由にもなる話だ。その話の内容を簡単に言うと人や神が争うとき真の神が正しき方に味方するという話で、どうやらこの話は改編されて伝わった結果人の都合のよい形で落ち着いたそうだ。
「あの神話ですか・・・。もう正しく伝えている場所なんてないですよ。」
オウストリントは諦めたようにそう言った。確かにこの大陸でも伝わっているのは改編されたものばかりで正しく伝わっている場所はなかった。だが、そんな中でも正しく伝わっていた場所も存在している。
「そうだね。でもほとんど変わらず伝わっている場所もあるみたいだよ。」
わたしがそう言うとオウストリントは驚いたようなかおをした。オウストリント自身もこの世界の人に感心を無くし始めていたのだろう。それでも世界を信じ続けている人がいたと言うことは驚きと共に嬉しいという感情もあるだろう。
「それは・・・驚きましたね。本当ですか?」
「多分ね。少なくともわたしたちが向かってる第Ⅲ大陸とかろうじて残っている教会に秘密に保管されてるみたい。」
「残っているならよかったです。そういえばあの話に出てくる宝石の瞳を持った神ってあなたのことですよね。」
「そうだよ。」
オウストリントは自身の執務用におかれた机と椅子に近づき、椅子を引いて腰かけながらそう聞いてきた。わたしは机の天板にこしかけると思い出すようにしながら答えた。
「でも宝石の瞳なんて持っていないですよね。それとも持ってるんですか?」
オウストリントはわたし背中をじっと見つめてきた。フッと軽く笑うとわたしはおもむろに手を自分の目に持っていき、自分の眼球をえぐり出した。
「持ってるか持っていないかでいったら、持ってるよ。」
机から降りるとえぐり出した目を机においた。わたしが置いた目は水色の光をほのかに放つ綺麗にカットされた宝石だった。
「これは・・・」
「特に意味は無いけどね。その宝石は時空の力で偶然出来た奴だからどこを探してもこれ一つしか無いよ。」
机においた目とわたしの顔を見比べていたオウストリントは気がついたように声を出した。
「あれ?目はあるんだ・・・」
「口調が乱れてるぞー。まぁいいや。所謂見た目の変化って奴。だから特に意味は無いって言ったの。」
「なるほど。この目があれば問題はなさそうですね。何か起きたときにはよろしくお願いします。」
わたしは机においた宝石を目の中に戻しながら返答した。それから3日間わたし達はシフィアナの練習に付き合って、シフィアナは紙を三枚まで浮かべられるようになった。
「シフィアナ準備は出来た?もうそろそろ出発するけど。」
「はい大丈夫です。」
シフィアナはわたしがあげた剣を未だに大切にもっていてくれた。以前新しい剣をあげようか?ときいたときにシフィアナはこの剣で練習をすると言って断った。その言葉通りシフィアナは夜中に練習していたようで、朝ぐっすり眠っている姿も見た。
「じゃあ行こうか。オロチは先に門のところに向かって準備してもらってるから。」
屋敷を出て門の方に向かう。その道すがら町の人からはチラチラと見られたが話しかけられることは無かった。
「ティアさん、わたしたちって変わってるんですかね。なんだか目線がやけに多いような気がするんですが。」
「そりゃ変わってるでしょう。それでも話しかけてこないのはこの街で神に接触するのは抑えられてるからだね。この前のあれでわたしがオウストリントより上であることは理解したと思うからそれもありそう。」
「えっと・・・どうして抑えているんです?別に禁止はされてないんですよね?」
「そうだね、禁止はされてないけど多分神と近づきすぎるのを避けているのが大きいかな。神って何もしなくても影響を与えることがあるからもし近づきすぎるとこの街の存在が外にバレる可能性があるの。だからこそ何事も無い普通の1日として過ごしてるんじゃ無いかな。」
「・・・よく分かりません。」
「あはは、わたしも説明するのは苦手でね。いつか理解できるよ。」
そんな話をしていると門の前に着いていた。オロチも荷物を持って待っていた。
「おつかれ、準備はどう?」
「出来てますよ。荷物の方はお願いしますね。」
「はいはい。」
オロチの荷物を時空間の中に入れるとわたしは門に手を触れた。すると、最初に触れたときと同じように紋が浮かび上がった。さらに力を入れ続けると、紋がさらに刻み込まれ音を立てながらゆっくりと門が開いていく。人が並んで通れる位開いた門はそこで動きを止めた。
「さて、この門を抜けたら時間との勝負だからしっかり準備しておいてね。」
そう言うとわたしは隣にいたシフィアナの手を取って門の中に飛び込んだ。オロチもわたしに続くように飛び込む。後ろでは再び門が音を立てて閉まり始めている。全てが白い空間をわたしたちは進んで行った。




