神話 Ⅱ 愛すべき人の元へ
メイが時空間を繋げている間わたしは昔のことを思い出していた。今から遙か昔、わたしが生まれたときわたしの目の前に姉様がいたのだ。わたしは生まれたとき背丈は姉様の腰辺りだった。姉様の他には他の神達がいて、わたしは思わず姉様の後ろに隠れてしまったのだ。
「ほら、怖がらせちゃったじゃん。あんたらただでさえ小さい子の扱いに慣れてないんだからあっちいって。」
たしか契約がすぐにそう言って女の姿をした神だけの空間にしてくれたのだ。その頃はわたしの身体も形成しきっておらず、まだ靄のような姿だった。私に目線を合わせるように膝を曲げた姉様は優しく笑いかけてくれた。
「大丈夫かな。いきなりあんなのがいてびっくりしたよね。」
姉様がそう言うと遠くから「あんなのって何だよ-」と言う声が聞こえてきたが、契約が睨むとすぐに静かになった。
「取りあえず名前を決めないとね。残ってるのは???だから上は決まってるけど・・・。」
「問題は下か。どうする?わたしも???も名付けは初めてだよね。」
そう言って姉様に話しかけた契約は少しだけ考えるような仕草をした。その後思いついたように顔を上げる。
「そうだ。???ってこの子とほとんど同じ時に生れたじゃん。それなら姉妹として同じような名前を付けてあげたら?」
この時契約は何気なく言ったのだと思うが、これ以降わたしは姉様の元で一緒に生活をし姉様もわたしのことを大切にしてくれた。自分の世界を持ったときそれが家族というものと気づかされたぐらいだ。
「姉様、どうしてわたしは姉様の妹とされたんですか。」
まえに姉様にそう聞いたことがある。その頃はわたしも姉様も世界を持っていて久しぶりに会えたときのことだった。
「どうしたの?急にそんなこと聞いて。」
姉様はメイが入れた飲み物をゆっくり飲み、笑顔で聞いてきた。それから少し考えると姉様は一言何でも無いように言った。
「あなたがわたしの妹で、わたしがあなたのお姉さんだったから。かな。」
そう言うとわたしの頭を優しく撫でてくれた。姉様はわたしのことを妹と言った下界で言う本当の家族では無いがわたしも姉様もお互いを家族と思っている。それなら誰がなんと言おうとわたしたちは姉妹で家族だ。まぁわたしたちの関係に何か口を出す様な奴がいないのだが。
「繋がりました。いつでも行けます。」
昔を思い出しているとメイがそう言った。身体を起こすとメイの前には時空間をつなぐ扉が形成されていた。
「恐らく問題ないと思われますが、主と比べても技術的に難しいので思い通りの場所には繋げませんでした。申し訳ありません。」
メイは悔しそうな顔をしながら頭を下げた。確かに今開いている扉は姉様が作るものと比べてながれも不安定で規則性がない。それでも繋がりはしっかりとしているようで安定している。
「いや、繋がってさえいればいい。それに姉様はずっと時空神としてやってきていたのだ。それと同じようにやるのは難しいだろう。」
メイを励ましながら扉の近くに立った。扉からは世界の流れがにじみ出てきており、その流れはわたしが知っているものの一つだった。
「大丈夫だろう。この流れならわたしも覚えている。まず間違いなく世界とは繋がっているだろう。」
わたしの隣に立ったメイはのぞき込むようにして扉の奥を見た。その後わたしの顔を見ると
「では、行きますか?」
と聞いてきた。わたしの応えもわかりきっているのにそう聞いたのはメイが一人で行ったとしても姉様を見つけることは出来ないからだろう。なにせ姉様は気配を隠したり変装したりするのが大得意だからだ。以前わたしが見たときは変装してしれっと終末を誘惑していたのだ。勿論その場にいたわたしと始祖はそれが変装した姉様だと気づいていたので、思わず吹き出しそうになるのを必死に我慢していたが、終末がほんとに惚れ込んでるのを見て我慢できず笑ったのを思い出す。思えば感情を一切持っていない始祖が笑ったのはあの時くらいだろう。それにつられて姉様も笑い出して理解が出来ていないという顔をした終末の姿でさらに笑ったのもいい思い出だ。その変装した女神が姉様だと気がついたときの終末はしばらく落ち込んだって言う話も聞いた。
「決まっているだろう。」
そう言ってメイの手を取り扉の中に入った。扉の中は不思議な空間でどこを向いても真っ白の世界で先ほど入ってきた扉も見えない。わたしの手をメイがギュッと握る。この空間はわたしたちですら不安になるような異質な空間だが、わたしはメイの手を離さないようにしてその空間を進む。すると、わたしたちはいつの間にか空の上に浮かんでいた。下には白い雲が流れている。
「ここは・・・。」
「来られたようだな。」
メイを横向きに抱えるようにして抱き上げるとゆっくりと雲の中を降りていく。雲を抜けた先は蒼い水を張った広大な場所だった。
「海ですか・・・」
「姉様の世界で言うならそうだな。この世界だと蒼の大地と呼ばれていたはずだ。」
「大地ですか?そんなものはないような・・・」
「認識の違いだろう。この世界では水の上でも人は暮らせる、つまりそこは大地であるという考えらしい。まぁこれも伝え聞いただけで本当かは知らないがな。」
わたしたちは蒼の大地を進みやがて陸地が見えてきた。現在位置が分からないので、取りあえず少しだけ力を押さえながら隠れて動き、姉様が気がつくのを待つことにした。陸地に降り立つとメイを下ろした。
「しばらくはここから動かずにいよう。もしかしたら姉様も気がついてこっちに来るかもしれないし、何かしら反応はあるだろう。」
「分かりました。では、簡単にですが生活が出来る様に屋敷でも創りましょう。」
そう言うとメイは手を横に振った。するとどこからともなく光が集まり、その光がどんどん形を作っていく。その光が収まったときそこには一つの家が建っていた。
「さすがだな。創造の力か?」
完成した家を見ながらメイに聞くと、メイは首を横に振って
「違います。創造では無く再現です。いくらわたしでもこれを無から創造するのは無理です。出来て食料などを創り出す位です。」
扉を開けて家に入ると、内装は生活できる最低限のものがそろっている。と言ってもその揃っているものは、メイが選び抜いたありとあらゆる世界の最高品質のものを集めているので問題なく生活することが出来る。
「メイの予想だとどれぐらい過ごすつもりだ?」
家に入るとわたしはメイにそう聞いてみた。恐らくメイはある程度過ごすであろう期間を予測して家具などを再現している。そうしなければ無駄に力を使うことになり、いざというときに最大限力を使えないという事態が起こるかもしれないからだ。なので、わたしたちは基本無駄なことに力をさこうとはしない。そこに力を入れるものもいるが、わたしたちがやるとその微妙な力加減を操るのが難しいため大体は得意な奴に任せている。
「そうですね、そこまで長くは見ていないですよ。大体4日か5日ぐらいではないかと。」
「それは天界での日数?それともこの世界での日数?」
「この世界でです。」
メイはそう言うと棚からカップを二つ取り出した。
「紅茶ですか?それともリアウィですか?」
「今日は紅茶にしようかな。」
そう言いながらわたしは近くにあった椅子に座る。メイが言ったリアウィとは姉様の世界で親しまれている飲み物で、姉様が住む世界に多く存在する木の葉から採ったものだ。木が生える場所と、周囲に住む種族により大きく味を変えるとても面白い飲み物だ。
「分かりました。少々お待ちください。」
メイはそう言うと戸棚から紅茶の入った缶を取り出しゆっくりと紅茶を入れ始めた。ふと窓の外を見ると蒼の大地に日が沈もうとしているところだった。
「姉様・・・」
わたしの口からはわたしの唯一の家族、姉様を思う声が漏れ出ていた。




