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B1 召喚された者

 私たち三人が異世界に呼び出されて約二ヶ月。わたしと華菜は一緒に過ごしていたが、井理だけは呼び出されてすぐに別の部屋に移されてしまいほとんど合うことが出来ていなかった。お城の敷地内を歩いていたときに井理が顔を隠して城から抜け出していくのを見たが、それに着いていこうとすると絶対に途中で止められたしまう。わたしと華菜をお世話してくれる侍女さんに理由を聞いてみてもしっかりとした答えを聞くことが出来なかった。わたしと華菜は飛行船に乗せられどこかに向かっている。今日の朝早く、侍女さんが慌てた様子で部屋に入ってきてすぐに出発するから支度をしてくれと言われた。勿論準備などしているはずもないので、数着着替えをかばんに入れて急いで部屋を出た。侍女さんに連れられ向かった先には飛行船みたいな乗り物があって私たちはそれに乗り込んだ。他の人達も続々と乗り込んできて、私たちは船室の方に案内された。しばらくして飛行船が動き出した。


「いきなりどうしたんだろうね。」


部屋で待っていると華菜がそう聞いてきた。恐らく昨日現れたあの人原因だろう。突然現れ、ためらうことなく三人の人を殺したあの人。井理のことを何故か好いているような態度を見せ、一瞬だけ井理を氷の壁で覆い隠した。何故そのようなことをしたのかは分からないが。


「多分あの人が関係してるよね。」


「やっぱりそうだよね。ほんと何がしたいんだろう、あの人は。」


わたしたちはしばらく考えていたが分からないなと思い外に出てみることにした。わたしたちの船室は甲板の下にあるので、階段を上り甲板に出た。そこにはたくさんの木箱が置いてあり、一緒に訓練をしている騎士さん達が木箱を船倉に運んでいる。わたしたちもそれに加わり、木箱を一緒に運ぶのを手伝った。甲板の端に井理がいるのを見つけ、話しかけようと思ったが木箱を運んでいる途中だったので運んでからにしようと判断した。

 わたしが木箱を運び終わり、井理の方に行こうと思ったが井理は男の人と何か話している様子だった。二人の関係はどうかは知らないがわたしから見るとかなり中の良さそうに感じる。二人を少し離れた位置から見ていると、華菜が声を掛けてきた。どうやら装備に関して確認をしたいとのこと。華菜に応じてチラッと二人を見てから船倉の方に移動した。


「さっき何やってたの?」


装備を確認しているとき華菜がそう聞いてきた。


「井理がいたからね。久しぶりだから話しかけようと思ったんだけど。」


「話せなかったの?」


「うん。他の人と話してるみたいでね。戻ったら話しかけてみるよ。」


わたしは急いで装備の確認を終わらせ、甲板の方に戻った。探してみると井理は一冊の本を読んでいた。さっき見たときは持っていなかったので、どこかから取ってきたのだろう。すると本を閉じた井理が何か呟くように口を動かした。しばらくして井理が腕を上げるとその腕に四羽の鳥が留まった。その鳥たちを見ながらまた口を動かすと、腕を上下させた。留まっていた鳥たちは促されるように飛んでいきやがて見えなくなった。しばらく目を閉じていた井理が目を開けながら小さく笑ったように見えた。そこに先ほど井理と話していた男に人が近づいていく。その時わたしは信じられないものを見た。井理は肩から斜めがけの小さなかばんしか持っていない。なのにその小さなかばんに先ほど読んでいたどう見てもかばんに入らないような本を入れたのだ。あれだけ大きな本を入れたはずのかばんは一切膨らむことなく元の形のままを保っている。驚いていると急に飛行船が揺れた。思わず近くの固定されているものに捕まったが離れた場所にいた井理はバランスを崩したのか男の人に助けられている。その後少し男の人と話していた井理は船室の方に戻っていった。わたしも後を追うようにしてついて行き、井理が入っていった部屋をノックした。部屋から井理の反応があり扉を開くと部屋の中には蝶が数匹飛び回っていた。その光景に驚いていると


「どう?驚いたでしょ。」


そう言いながら指を動かしている井理が目に入った。井理は椅子に座りながらわたしの方を見ている。


「舞良が近づいてきてたのは気がついてたからね。驚かせようと思ってね。」


そう言うと指の動きを止めた。すると飛んでいた蝶も動きを止め、井理の方に帰って行く。


「久しぶり。元気そうでよかったよ。」


井理はそう言いながら笑いかけた。そこにいた井理はわたしの知っている井理とは少し違うように感じた。わたしたちは同級生だったはずなのに今は少し距離があるような感じがする。


「う、うん。井理も元気そうでよかったよ。」


「昨日ぶりだけど、昨日は話さなかったもんね。」


井理は促すように空いている椅子を指さした。わたしはその椅子に座ると井理の方を見つめた。


「なに?なんか付いてる?」


「いや、そうじゃないんだけど・・・いつからあんなこと出来るようになったの?」


井理は少し考えるような仕草をした。その後井理が話し始めたのは驚くべき事だった。


「出来たのはこの世界に来た翌日からだね。その時は自由に出来ていたわけじゃないけど、3日ぐらい経ったらある程度自由に出来るようにはなってたね。あとは舞良達と分かれてから城下で面白い本を見つけてねそれ以降どんどん出来るようになったの。さっきのもその本に書いてあったんだよ。」


わたしは井理がこの世界に来てすぐに才能を開花させていたことに驚いた。


「じゃあ、それでわたしたちとは別の部屋になったって事?」


わたしがそう言うと井理は少し悲しそうなかおをした。その後井理が話し始めたことはわたしにさらなる衝撃を与えた。井理が話すにはこの世界では魔法というものは戦いよりも生活に使われることが多いらしい。今わたしたちが乗っている飛行船も魔法を使って動いているそうだ。魔法よりも純粋な力を重視するため、井理のような魔法特化のような人はあまり重視されない。だから井理はわたしたちとは別の場所に移されたのではとのこと。井理はそれならと言うことで、こっそりと城下に抜け出して色々と遊んでいたらしい。


「まぁ、冒険者とかだと魔法の重要性も理解してるみたいだからね。もし追い出されたら冒険者にでもなるつもり。」


そう言いながら井理はテーブルに置いてあったカップに飲み物を注いで飲んだ。


「舞良はどうしてたの?」


井理はそう聞いてきた。井理と比べればわたしはそんなに苦労もしていない。華菜と一緒に訓練をして一緒に生活をして何不自由なく過ごしていた。わたしは自分のことを言うのが恥ずかしかった。


「わたしは特に何もしてないよ。ずっと訓練ばっか。」


「あはは、それは大変そうだね。」


そう言って笑う井理は元の世界で見た笑顔と同じ笑顔を浮かべていた。その笑顔を見たわたしは今まで抱えていた不安が消えていくのが分かった。


「多分このまま数日は移動になると思うから、時間があるなら遊びに来てよ。わたしも暇だからさ。」


井理はそう言ってくれた。わたしも今度は華菜を連れてくると約束してその日は部屋を出た。


しかし、その約束が果たされることはなかった。



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