接触
体から引き抜いた剣を投げ捨てたわたしは男に向き直った。
「それで?わたしを倒せなかった場合はどうするつもりだったんです?わたしには制約が通用しないので容赦なく殺せますよ?」
男はわたしの体が再生していく様子に驚いていたようだ。
「まさか、生き残るとはな。かなりの強者のはずなんだがな。」
「その強者もだまして作った存在でしょ?」
「そこまでばれているのか。」
男は大きく息を吐いてわたしの方を見た。恐らく今はこれ以上わたしに何かすると言うことはないだろう。すると、召喚者の三人が恐る恐るといった感じで話しかけてきた。
「あ、あの。」
「ん?どうしました?」
易しく微笑むように召喚者の方を見た。召喚者のうちの二人はそれで緊張が緩んだようだ。しかし、残りの一人はわたしが現れてからと変わらず出来るだけバレないように警戒を続けているが、この子は二人の一歩下がった場所に立っていて、誰が見ても警戒していることが分かる。
「あなたは召喚に巻き込まれたって言ってましたが、どこにいたんですか?」
その問にわたしはすっと目を閉じた後少し考えた。ここで本当のことを話しても理解できるわけない。だけで、濁すのも嫌。つまりある程度は真実を話しても問題なさそう。
「先ほど言った通りわたしは人ではないのでね。たまたま召喚される通り道にいて、その水流に巻き込まれるような形で来ちゃったって訳。」
わたしが目を閉じたままそう言うと、わたしのことを警戒していた召喚者が呟くように言った。
「嘘つき・・・」
本当に小さな声だった。わたしの耳ですら聞き逃しそうなくらい。恐らく呟いた本人も声が出ていると気づかないぐらいの大きさだろう。閉じていた目を半分ほど開け、呟いた召喚者の目の前に移動した。
「良く気づいたね。わたしが嘘言ってるって。」
そう言いながらその子の顎下を指二本で優しく触りながら目線を合わせるように顔を上げさせた。わたしの目を見ているこの子は自分がいったいどうなっているのか理解できていないようで、体を固めている。わたしが消えたと思ったら自分の真横にいるという理解の出来ない者を目にした他二人も驚いたようにこちらを見ている。
「いい目してる。」
そう言いながら半分開けていた目を開いた。そのままじっと目を見つめていると、絞り出すように声を出した。
「な、なんで、う、嘘を言ったんです、か。」
「ふふ、この状態でも声が出せるなんてほんとに面白い子。」
珍しく思ったわたしは顎下を触っていた手を額に移動させ髪をかき上げ、隠れていた額を出した。そこにわたしの額を当てながら目の前にいるこの子だけに聞こえるような声でささやいた。
「あなた、わたしのところに来ない?」
その言葉を聞いたその子は驚いたようなかおをして目の前にあるわたしの顔をじっと見つめてきた。
「おい!その子からすぐに離れろ!」
後ろからその声と共に人が近寄ってくる気配がした。折角面白い子を見つけたんだ。もう少し調べてみたいという思いがわたしの中にはあった。
「それは出来ませんね。」
周りに近づいてきた奴らに聞こえるように言うと空いている手で指をパチンッとならした。するとそれに反応するように私たちの周りを氷の壁が囲んだ。
「さて、これで邪魔は入らないしゆっくり話そうか。」
そう言いながら額を離したわたしは額に当てていた手をこんどは頬に移動させた。
「さっきのことは今決めなくてもいいよ。今はあなたのことが知りたいだけだから。」
そう言いながら笑いかけるとその子は軽く頷いた。それから恐る恐ると言った様子で話し始めた。
「わたしは知っての通りこの世界に召喚された者です。ただ、他の子と違って力も技術もない出来損ないですが。」
そう話したこの子は言葉の最後に行くにつれて声が小さくなってしまった。その子を優しく抱きしめると頭を撫でながら耳元でささやいた。
「出来損ないなんかじゃないよ。だって元々力を持っていたわけではなくて、こちらに来た時に加えられただけですもの。少なくともわたしは出来損ないなんて思いませんよ。」
優しく優しくそうささやくと身を委ねるように今まで入っていた力が抜けた。
「わ、わたしの名前は井理、野内井理です。」
「ありがとう井理ちゃん。」
そう言うと、井理と名乗った女の子の方からギュッと抱きしめてきた。井理は今まで溜まっていた感情が溢れてきたのかわたしに抱きつきながら泣き始めた。それを井理の頭を撫でながら泣き止むのをまっていた。
「それで、あなたのところに行くって、どういうことですか?」
しばらくした後貯まっていた感情を全て吐き出して、目が真っ赤の状態の井理がそう聞いてきた。
「もう少し具体的に言うとあなたの願い、わたしならかなえてあげられるよって事。ただ、今すぐは申し訳ないけど出来ないの。だから、準備が出来たらわたしが伝えるからそしたらわたしのところに来てくれるかな?」
わたしから離れた井理の肩に手を乗せ、目を見ながらそう言った。井理は何度も頷きながら話し始めた。
「分かりました。分かりました。いつでも行きます。」
「ふふ、ありがとね。」
それからもう一度井理を抱きしめたわたしは氷の壁を解除すると同時に体を結晶化させ部屋を出た。
「さて、久しぶりにかわいい子がいたからついはしゃいじゃったな。まぁ、いずれは連れてくるつもりだったし、いい印象は与えられたかな?」
そう考えながらわたしは城をあとにした。この時わたしが城に行ったことで、状況が急転することになるがそれにわたしが気がつくのはほんの少し先の話になる。
帰路についたわたしはこれからの動き方を考えながらオロチ達が待つ街に向かっていた。
「これであいつらは今までみたいに行動しなくなるだろうし、わたしのことを完全に敵とみてくれたかな。まぁさすがにあれで敵対してこないわけないだろうけど、最高神にはどう伝えておこうかな。」
独り言のように呟いた。奴らが神に対して行動を起こしたのは一回もない。だからこそ神が手を出すことが出来ないのだ。奴らがしたのは神の存在を認めていながら今存在する神はかつて存在した神とは違うと言う意見だ。それだけだとただの反神的な意見と片付けられるが、それだけだ。それだけしかしていないのだ。奴らはそれを主張しただけでそれ以降何もしていない。勝手にその意見を尊重するという人が現れ、その人物に付き従う人が増えそれにより神を信じる人は追われるようにして第Ⅲ大陸に集まってくる。神を信仰している人に対して手を出したのはほんの数十年前だ。それにより間接的にだが神に手を出したことになる。それ以降最高神はそれまで行っていた調整を全て止めている。その結果押さえ込まれていた力が溢れ出し初期の頃はひどかったそう。それでも世界が順応することで最近は落ち着いた状態が長く続いている。それは世界を監理するわたしが一番感じ取れている。
「最高神にはあとで伝えておこうかな。それにわたしが片付けた方が世界のためになりそうだし。」
そう呟いたわたしは結晶化させていた体を完全に捨てた。そしてわたしは神としての身体を纏った。
「さてさて、わたしも存分に楽しみましょうか。」
そう呟いたわたしは自らの身体に生える六枚大きな翼を動かし飛んだ。これから起こる未来に笑顔を浮かべながら。




