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S1 ある男の眠る記憶


 「ここは・・・」


自分の体に何かが当たったことを認識した瞬間、意識が暗転して次に目覚めたとき目に飛び込んできたのは白銀の天井だった。

最初は病院の中のように思ったが、それにしては天井が高く明るいのに電気や窓から入る日の光も見えない。俺はどこに連れてこられたのか。そして俺の体に何が起こったのか。

そんなことを考えていると「そんなところで寝転がってないでそろそろ起きたら?」と声をかけられた。

その声で自分が床に寝ていることに気づいた。どうやら今の状況に思ったより困惑していたようだ。

俺は体を起こしながら声をかけられた方を目をやった。そこには物語に出てくる王様が座っていそうな少し高くなった場所にある椅子に足を組んで座り、こちらを見る一人の女性の姿だった。

「まだ頭が追いついていないようですね」俺が黙ったままなのを見てまだ理解できていないと思ったのだろう。正直理解できているかできていないかで言うと、全くできていない。だが自分に何かがあったことは理解できた。


「いや、大丈夫だ。」


「あら、以外。もっと混乱すると思ったのに。」


「ここはいったいど――――」


「ここがどこかよりどうしてここにいるのか聞くべきじゃなくて?」


女は俺が言おうとした言葉を遮るようにしてそういった。確かにここにいる理由を聞けばこの場所も大体想像できるだろう。


「そうだな。じゃあどうして俺はここにいるんだ?」

 

俺がそう聞きなおすと女は小さく笑ってから、俺がここにいる理由を話し始めた。


「そうですね、まず何から話そうかしら。逆にどこまで理解しています?」


「ほとんど理解できてねぇな。」


「分かりましたわ。その前に、一つお伝えしなければなりませんね。まぁ薄々気づいていらっしゃるようですが。」


恐らく、いや確実に分かった。俺の中にある認めたくないことを、今目の前の女の口から聞かされるんだ。そうでなければ気づいているなんて言わないだろう。確かに気づいていた、だが俺の頭が認めようとしなかった。


「あぁ、気づいてるよ。というより今の言葉で確信に変わった。」


「それでは言わなくてもよろしいですね。」


「いや、言ってくれないか。」


俺の言葉に疑問を持ったのか女は軽く首をひねった。分かっているのにどうして聞きたいの?と言う顔だ。人によっては現実逃避として聞きたくないという人もいるだろうが、いずれは受け入れないといけない。それなら無理矢理にでも言われた方が気が楽だ。俺がそう言うと女は納得したように話し始めた。


「では改めて、あなたは交通事故で飛んできたバイクが頭部に直撃、その結果頭とからだが二つに分かれて即死でした。」


女は普通なら少しはいやな顔をしそうな言葉を表情一つ変えることなく言い切った。それにまるで見てきたように話すので、もしかしたら近くにいたのかもしれない。


「そうか・・・。」


「まぁ珍しくもない死因だね。ついでに言うとこの場所は死後の世界の間に位置するところで、全員が来られる場所じゃないの。」


女は今いる場所について話し始めた。この場所はある条件を満たしたものが連れてこられる場所で、ここでは死後、魂をどこに向かわせるか選ぶことが出来るらしい。一つは他の魂と同様記憶を消され魂は輪廻に戻る。もう一つは魂も記憶も保持したまま、生きていた世界とは別の世界で生きるかの二つがあるらしい。


「それで?どっちにする?」


「・・・少し考えさせてくれ。」


「いいよ。じっくり考えな。ここでは時間という概念が存在しないからね。」


女はそう言うと目を閉じた。俺の中では選択する方は決めている。だが、気になるのは妹のことだ。俺は小さい頃に両親は事故で死亡している。俺が大学に入る頃には預かってくれていた祖父母が亡くなって、それからは妹との二人暮らしだ。大学卒業後は妹のために必死で働いて大学進学に必要なお金を稼いでいた。その稼いだお金は家のタンスに入れてあり、今度の誕生日にプレゼントしようと考えていた。俺がその事で悩んでいると女が目を閉じたまま話しかけてきた。


「余計なお世話かもしれないけど、それぐらいならわたしがなんとか出来るよ。」


「それってなんのことだ?」


「一様言うとこの空間で考えてることは全部わたしには筒抜けだからね。だから、あなたの考えてることも分かるの。そこで提案。」


そう言うと女は目を開けて俺の方をじっと見た。女が言っていたことが本当なら先ほど俺が考えていたことがすべて分かっていると言うことだろう。


「普通は死者が生きている人と会うのは問題になるんだけど、実は夢の中なら死者と会っても特に問題にはならないの。まぁ、正確に言うと危ないけどね。今回は目をつむってあげる。」


要するに夢の中でなら会わせてやってもいい。と言うことだろう。俺はすぐにその話に飛びついた。これで悩みの種がなくなった俺は決めていた魂を維持して別の世界で生きる方を選択した。これで妹のことを忘れることなく生きていけるだろう。俺が選んだ方を伝えると女が何かをしたのか女の周りに数個の結晶のようなものが現れた。それを手に取って選別するように見ていると一つの結晶を残して他が消えた。


「夢の中で会えるとは言っても一回だけだからね。それにすぐに会えるとは限らないからそれまでに整理しとくといいよ。」


女が結晶を握りつぶすようにすると音を立てて砕け散った。砕けた破片は女の手元に集まって何かを形成しているようだ。すると破片がすべて女の手に吸い込まれ消えた。


「夢の中で会う条件は生きている人が死者に会いたいと思うこと。だから会えないかのせいもあるからね。」


女がそう言いながら腕を振ると俺の体が浮き上がり始め、今まで立っていた地面に穴が空いた。俺の体は吸い込まれるようにして穴の中に入っていく。


「ここでの記憶は曖昧になると思うけどその妹を思う気持ちは忘れないと思うよ。」


それが俺の最後に聞いた言葉だった。






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