15万円の使い道
ふと気づくと、机にうつ伏せになっていて、肩には温かい毛布が掛かっていた。どうやら誌絵里こと、メノの同人誌の原稿作業も終わり、寝落ちしてしまったようだ。
昨晩、隣で一緒に作業をしていたメノの方を見ると、そこは誰も居なかった。ただあるのは、美味しそうな匂いだけだった。
「おはよう、駿我くん。昨日はお疲れ様。はい、朝ごはん」
なるほど、美味しそうな匂いの正体はこれだったのか。寝ぼけた眼に映ったのは、ホクホクの白米にコーンスープ、海苔の佃煮という、THE・日本の朝食だった。ちゃんと自炊してるの偉いな......。
「それでは、いただきまぁす。ほら駿我くん、食べて食べて」
「どれどれ......健康的で昨日の作業の後にはもってこいだな。とっても美味しいよ」
「えへへ、嬉しいよ駿我くん。今日はとうとうパーティ開設だねぇ」
そういえばそうだった。同人誌作業をしてたもんだから、そんな事すっかり忘れていた。......メノの職業は同人作家ってことになるのかな?
そういえば、まだパソコンを買ってなかった。15万円手にあるから、10万円のパソコンを買っても5万円お釣りが出るぞ......でも、本当にこのお金は俺の物としていていいのだろうか? 七海にも渡すべきじゃ......いや、あいつは手伝うって言っていただけだし、別に大丈夫か。
ともかく、メノだ。スケッチで罠を作ってなかったら、この15万円だってなかったに等しい。やっぱりここは......。
「......なあメノ、ハイヤーレッドドラゴンの15万円の件だけど......」
「それがどうしたの?」
「やっぱり俺が受け取ることは出来ない。七海やメノのお陰で手に入ったこの15万円を、俺一人だけで使うなんて、出来るわけない」
「......逆に私だって受け取れないよ。自分の趣味の為に仕掛けた罠に、たまたまドラゴンが引っかかっただけだし。だから、駿我くんのもので問題ないよ」
「だからって! ......痛っ!」
突如おでこに感じた痛みは、メノのデコピンから伝わったものだった。優しく怒ったようなメノの顔が、俺の顔面に接近してきた。
「朝から良くないよ、こんな話。決断はナナミさんに決めてもらうでいいでしょ?」
「そ、そうだな......」
メノの言う通りだ、朝から金の話なんてするもんじゃない。爽やかな朝を送れないだろう、と自分で言い聞かせながら、また白米を口に入れたのだった。
※
「おはよう二人とも、ゆうべははお楽しみ」
「してねーよ!? てかなんで不機嫌なの!?」
集合場所のギルド集会所に行くと、不貞腐れた七海が椅子に座っていた。
「ナナミさん、私も入ることにしたよ!」
「ホント!? こんなスガルとかいう奴と二人きりとか耐えられないもん!」
どういう意味だそれ。......やっぱり昨日のが原因だったかな?
「あ、あのナナミ、昨日の15万円はどうするの?」
「......みんなのお金でいいじゃない? もう私達はパーティなんだから、誰のお金でもないわよ。だから、パソコンだってペンタブだって何だって買っていいんじゃないの? メノちゃん、ずっと欲しい欲しい言っていたじゃない?」
「わわわわわ!!! ナナミさんそれは言っちゃだめぇ!」
......やっぱりためらっていたいたんだな。同人誌活動だけじゃあそんなお金はいる訳ないもんな。
「よし、パーティ結成記念として、みんなそれぞれ好きな物買おうよ。俺はパソコン、メノはペンタブ、七海は......」
「私はいらないわ。なんせ、町長だから」
何だこいつ。もう町長やめる癖にマウント取ってきて。七海には買ってやんないしよ。
「......あの~、スガル様一行でしょうか? 会員証が出来ましたので、受け取ってください」
「ありがとうございます!」
こうして、パーティが結成したのであった。