ふたつめの魔法
人を試してみたい。
今の人にはない、持ち得ることのない力を上げよう。
それで彼らはどう動き、どう感じるのか。
私はそれがみたくなった。
ある日、全人類が魔法に目覚めた。
いや、全人類は言い過ぎたかもしれない。一定の年齢以上という条件の下だ。それ以外にはこれといった条件はない。
それを教えてくれたのは神様だった。
「君に魔法をあげるよ」
黒髪に白いワンピースを着た少女がそう言った。
夢かと思った。実際夢だろう。僕は寝巻きに着替えてベッドに横になったのだから。
「魔法……ですか」
とりあえずそう返事をした。
「そう。それも君だけじゃない。一定の年齢よりも上の人類みんなにだ。犯罪者も寝たきりの病人も、例外はない」
「なんでそんなことを?」
夢かどうかは置いといて、ただ単純に気になった。
「私が神様だからだよ」
当然のように彼女はそう言った。
「なに、ちょっとしたプレゼントみたいなものさ。私は君たちに特別な力を上げる。それを使って、世界を良い方向へ導いてくれ」
良い方向。
ぱっとしないが、ようは世界平和とか、そういうものだろうか。
「誰にどんな魔法を与えるのかは私が決める。正しい使い方も教える。まあ、その通りに使うかどうかは君たち次第だ」
さて、と彼女は言う。
「君に上げる魔法は2つだ」
「2つ、ですか」
「言っておくが、これは例外だ。2つも魔法を与える人間は君だけだからね」
「……じゃあどうして」
どうして僕だけなのか。
僕が周りよりもどこか秀でているものでもあるのだろうか。あまりぱっとしない方だと自覚しているが。
「君には世界をみて回ってほしい。魔法によって世界が、本当に良い方向へと向かっているのかを、君の目で確かめてほしい」
僕が?
「そう、君が」
彼女は言った。
「だから、君に上げるのは瞬間移動の魔法だ。ここに行きたいと思えば一瞬でどこへでも行ける。交通費なし、パスポート不要。不法侵入みたいなことにはなるが、変な悪さはしないだろうと、私は見込んだ」
確かにそんなことをする勇気はないし、したいとも思わない。仮にやったとしても、ばれてしまえば僕の人生は終わってしまう。
「まあ、わかりましたけど、どうやって良い方向へ向かってると、あなたに伝えればいいんですか?」
「それが2つ目の魔法だ」
じゃあ、彼女といつでも話せる的な、そんな魔法だろうか。
「言っておくけど、この2つ目の魔法は、私が与える魔法の中で最も強力な魔法だ」
いつでも話せる的な魔法が、最も強力?
「2つ目の魔法は」
目が覚めた。
夢の内容ははっきりと覚えている。
2つ目の魔法が何なのかも。確かに強力な魔法だ。どうしたものか……。
それから魔法に関する法律が世界各地で急遽定められた。
しかしこれは、各国のお偉いさんはお偉いさんで、法律等に関してはこうした方がいい、と夢で言われたようで、思ったよりも面倒ではなかったらしい。
僕も新しく加えられたその法律の下で、彼女が言っていたことをする。
言ってしまえば世界旅行だ。お腹が空いたら家に帰ってご飯を食べればいい。
盗まれる心配のないように、これといった貴重品は何も身につけない。必要なものがでてきたら取りに帰ればいいのだ。便利な魔法をもらったものだ。
ここからは少し、僕が世界各地で見てきた『魔法と人間の関係性』を連ねていく。
ある貧民街に行った。
そこでは、食料を作り出す魔法を持っている人が食料を配っていた。おそらくこの人がいれば世界の食糧問題は解決するだろう。
ある紛争地域に行った。
そこでは、武器を無力化する魔法を持った人が、お互いの武器を無力化させていた。ほんの少しだけならば武力的な紛争は起こらないだろうが、無力化と武器生産のイタチごっこになるのではと思った。
病院に行けないような人たちが多い地域に行った。
そこにはあらゆる病気を治す魔法を持った人が、治療に専念していた。次はどこへ行くのだろうか。
さて、事例は3つしか挙げていないが、挙げられ過ぎても飽きるだろう。ここでやめておく。
というか、もうこんなものを見るために世界を回るのをやめる。
2つ目の魔法を使おう。
魔法に目覚めて1ヶ月。そこそこ落ち着いてきたところで申し訳ないが、しかし僕は使うと決めた。
「……その前に、行かなきゃ」
そう、行かなければいけないところがあった。
目を開けば、彼女が、そう、神様がいた。
「君なら、そのうち来ると思ったよ」
「どうも、お久しぶりです」
なぜ神様のところに僕がいるのか。そんなもの、考える必要なんてない。
僕の魔法は行きたいところへ行く魔法だ。神様のいるところにだって行ける。そもそも、この魔法をくれたのは神様自身なのだから。
まあ、来たのは初めてだけど。
「なんとなくわかるよ。2つ目の魔法がを使う前に、わざわざあいさつしにきてくれたんでしょう?」
僕は頷く。
「世界は良い方向には向かわなかったの?」
良い方向へ向かわなかったのか。
その質問に答えるために、僕は神様から魔法をもらった。
そして、
「わかりません」
これが僕の答えだ。
「うんうん、そうかそうか」
神様は満足気に頷く。
「今はきっと、良い方向へ向かってると思います。でも、別の方へ行くかもしれない。それが怖いから、2つ目の魔法を使うわけじゃありません。ただ、今の僕たちにはいらないと、そう思ったんです」
僕は続け、神様は黙って僕の言うことを聞いている。
「人から……神様からもらった力でどうにかするんじゃなくて、自分たちの力でどうにかしないといけないって、世界を見て思いました。
「僕が今見てきた世界は、きっと将来、こうなるべきだという世界です。今僕たちが歩むべき世界は、ここじゃない」
しばらく沈黙が流れたあと、そうかそうかと、神様は言った。
「まったく、君は生意気に偉そうなことを言うなあ。中二病かよ、やれやれ」
そう言われると、そうとられてもいい内容だったと思い、恥ずかしくなった。
「とにかくわかったよ。わざわざありがとうね、ここまで来てくれて。さあ、君は戻って、やるべきことをやってきなさい」
わかりました、頷く。
「君が作る世界、楽しみにしてるね」
「任せてください」
目を開けると、見慣れた自分の部屋だった。
さて、2つ目の魔法、全人類の魔法を消す魔法を使おう。
世界よ、1ヶ月間の休暇は終わりだ。
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