表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

三度目の笑顔

「この程度ならばサーディルならば簡単でしょう。」

講師の先生が私を指名する。登板された問いは明らかに習っていない内容だった。

「サーディル?」

「はい、その問いは…」

私が答えれば講師は忌々しそうに私を見てくる。この人はあの噂を信じているんだろうな。なんて漠然と思う。だから、私に劣等生というレッテルを張り付けて追い出したいのだろう。

なんだかもう、疲れたな…。ペンを投げ出して頬杖を付く。

「サーディル様。次の講義の時間、自分に手解きをお願いしたいのですが」

私の前に一人の男性が立ちはだかる。

黒髪。

「申し訳ありませんが、手解きをできるほど優秀ではありませんので。」

「そんな、ご謙遜を。黒髪持ちではありませんか。ぜひともお願いします。」

「ですが、」

「なら、私にもお願いいたしますわ。」

「私も、お願いいたします」

一気に囲まれてしまう。誰一人として髪色がわからない。

「私はっ」

「さ、サーディル様。参りましょう」

有無を言わさない勢いで連れていかれる。逃げようにも、左右を固められてしまえば逃げ出せそうにない。魔術を使えば…。





「最初は自分からお願いします。」

演練場に着けば、中央に押し出され男子生徒と少し離れて向き合う。

何の魔術を使えばいいかなんてわからない。けれど開始の合図は高らかに響く。

彼は合図ととも魔術を放つ。黒い塊が私に向かってくる。

この魔術が水なのか風なのか土なのかわからない。けれど、私にはもう火属性しか使えない。

「『燃え上がる焔よ、焼き尽くせ』」

黒い塊に向かって手をあげる。しかし、反応しない。

まさか…。

迫りくる黒い塊を避けようとするが、追尾魔術も組み込まれていたのか、あっという間に黒い塊に追い付かれ、肌を焦がすような熱さに包まれる。

「『かの呪を無力化せよ』」

光属性の魔術を唱えることで巻き付く炎を無力化する。けれど、火傷を負った身体では立っていることすら難しい。じくじくと刺すような痛みが体中を襲う。

「あら、優秀なサーディル様がどうなされたのですか?」

「黒髪持ちの方はこんなに弱いわけありませんもの、手加減してくださっているのですわ」

「まぁ、優しいお方ですわ」

好き勝手言う女生徒。私を囲むように立つ同級生。

「…リリー様の痛みはこんなものではありませんもの。」

「もっと苦しんで貰わなければ」

その言葉に全て悟る。この人たちは妹の取り巻きの子たち。手解きなんて嘘だったのだと。最初から、仕返しをするつもりだったのだと。

なんてバカバカしい。なんて愚かだろう。

くだらなさすぎる。そんなことのために魔術を使うのか。

それを見抜けなかった私は、なんて、無様なのだろう。自嘲の笑みが零れる。

じくじくと刺すような痛みは愚かな私を責めるようだ。

あぁ、もう、いっそ…。

「『我が身に宿りし…」

「サクラ!?お前たち、何をしている!」

大きな声とともに人垣が払われる。

「酷い…。誰か、先生を…いや、俺自身が行った方が早いな。」

マントにくるまれたかと思えば浮遊感とともに近付く声。

「お前たち、覚悟していろ。」

聞き慣れた声なのに、冷たい。

「すぐ連れていくからな。…俺が光属性の魔術が使えれば…。」

マントに擦れる皮膚が痛い。けれど、それよりも懺悔するような声の方が胸に刺さる。

あなたが謝る必要などないんですよ。

グレン様。


「これは…すぐ手当てする。」

患部に先生の手を当てられて光が私を包み込む。ゆっくりと傷が癒えていく気がする。けれど、刺すような痛みは取れない。

「なんでここだけ…」

「先生、もう構いません。」

足の付け根を見れば爛れた痕。おそらく、最初に魔術が当たった部分。だから魔術の効きも悪いのだろう。なおも治癒魔術をかけようとする先生の手を制止する。

「だが、」

「いいんです。気にしてません。それに、こんなところ見ようとしなければ見えませんから」

まだじくじくと刺すような痛みを放つ痕を撫でる。不快感は残るものの幾分かましだ。

「サクラ。それは誰がやった。言え。」

「……言えません。」

「言え。」

「言えません。」

「言えっていっている。」

「言えません。そんな…今にも人を殺しそうなグレン様の顔を見て言えるわけありません。」

瞳孔の開ききった瞳。私が名前を言えば今すぐにでも殺しに行きそうなグレン様。そんな彼を見るのは、シュラ殿下が毒殺されかけたあのとき以来だ。

「……殺すなんて、そんなことはしない。」

「グレン様。」

「死ぬよりも苦しい…生き地獄を味合わせてやる。サクラにそんな目に合わせた奴だ、当然だろう。」

「よくありません!」

「おい、落ち着け。サクラ、火属性の魔術は使えたんじゃなかったのか」

「えぇ、その筈です。けれど…」

チラリとグレン様の方を見る。

「もしかして…」

「えぇ、先生の考えている通りです。」

また、私の色は失われた。そのせいで、火属性の魔術も使えなくなったのだろう。

「見えている色は?」

「見えない色を言う方が早いですね。」

自嘲をしながら手を翳す。ほとんど真っ黒な世界。

「ちょっと待て、なんの話だ?」

怪訝そうなグレン様の声。

「あ?何って…」

「先生。」

制止の声をあげる。けれどそれは間に合わなくて、

「サクラの病気の話だ。」

「サクラが、病気…?」

「……もしかして、言ってなかったのか?」

「えぇ…」

「どういうことだ!そんなこと、一言も!」

私がけがもしていなければ掴み掛られていただろう。それほどまでの剣幕だった。

「……先生、どうしてくれるんですか。」

「いや、言ってなかったなんて思わないだろ?お前たち、幼馴染み(・・・・)だろ。」

「そうですけど…」

「詳しく話せ。包み隠さず全部だ。」

幼馴染みという言葉に触発されたのか語尾を強めるグレン様。こうなってしまうと隠し通すのは無理で、大人しく全てを話す。




「つまり、色がどんどん消えていってると…」

「えぇ。」

「治る、のか?」

「治療法はわかりません。治る見込みも極めて低いと思います。」

「先生の他に知ってる奴は?」

「ジェイド様が病気なのは知っています。」

「ユージンやシュラには言ってないのか」

「えぇ。二人の…特に殿下の気を揉むようなことしたくありませんもの。それに、殿下は今、」

私が言い淀むと、グレン様は察したのか頭をかいた。

「あのバカは…。サクラ、あいつはな」

「いいのです。あの子が好かれるのは当たり前ですから。」

グレン様の言葉を遮る。言葉の続きを聞いてしまえば、認めなくちゃいけなくなる。他の人から見ても、二人は…。

その事実に、私は堪えられる自信はまだない。もう少しだけ、夢を見させて欲しい。

シュラ殿下は私の婚約者なんだって。

「サクラ。お前は…幸せか?」

一瞬何を言われたのかわからなくなった。

幸せ?

そんなの…。

「さぁ、どうなのでしょうね。グレン様にはどう見えますか?」

そう笑った私をグレン様は刺されたような顔で見ていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ