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流れない涙は

加筆修正を行いました(5/28)。

活気のある街。道行く多くの人たち。

「んー…いい天気。」

馬車から降りれば、小さく伸びをする。今日は、洋紙が切れてしまい、気晴らしに街へ繰り出している。

「まずは洋紙を買いに行って…ついでに足りなくなった備品も揃えておかないと…。そう言えば、魔法構築論の新刊が出ていたはず。本屋にも行かないと」

そんなことを言いながら街を歩き出す。洋紙やペン、本を買い込めば、お店を冷やかしながら街を歩く。建物の多くはモノクロでも、輪郭がハッキリしているため困ることはない。

「あ、新しいシリーズ出てる!」

大好きだった絵本の新刊。ペラペラと紙を捲るが、色が消えたからか黒が目立つ。それでも大好きだった絵本に惹かれて購入を決定。ほくほくとした気持ちでまた歩き出す。

「サクラ!」

「あ、ユージン様。」

少し息を切らせたユージン様が目の前に立つ。いつもの飄々とした雰囲気はなくどこか焦った様子に驚きが隠せない。

「サクラ、一人?シュラの奴、見てない?」

「シュラ殿下ですか?本日は見ていませんが…」

「サクラの元に行ったのかと思ったんだけどなぁ。ほんと、どこ行ったんだか…」

建物に背を預けるように立つユージン様。何時もなら服が汚れるからとそんな姿を見せたこともない。気にならないほど走り回ったのだろうか。ハンカチを差し出せは「ありがとう」と汗をぬぐうユージン様。

「お力になれず申し訳ありません。」

「サクラのせいじゃないよ。シュラの奴が抜け出すのが悪いんだしさ。最近よく抜け出すのが増えたんだよなぁ…。」

ガックリと肩を落とすユージン様。シュラ殿下の逃亡癖は昔からあったらしくてこんな風に会うのも珍しくなかった。けれど、段々その逃亡癖はなりを潜めていたのに、なにか切っ掛けでも…。

「サクラに逢いに行ってるのかと思ってたんだけど、違うみたいだしね。」

「えぇ、ここ最近は学院でしかお見かけしません。」

それも妹の近くで。と心の中で付け足す。直接話が出来たのはいつだったかな。

「そっかぁ…。もし見つけたら教えてくれない?」

「え?」

「昔、俺達で創ったじゃん。連絡魔術」

連絡魔術。

こどもながらユージン様やジェイド様は博識で、私たちだけで魔術を創った。私たちの秘密の魔術だ。けれど、あの魔術は…

「お願いな、サクラ。ハンカチ、新しくして返すから」

そう言ってユージン様はまたシュラ殿下を探しに言った。

「困ったな。あの魔術は風属性が必要なんだけど」

風属性と土属性が上手く発動しない今の私には連絡魔術は厳しい。でも、シュラ殿下に会うとは限らない。なんとかなる。そう楽観的に事態を見ていた。








「ただいま戻りました。」

ユージン様と出会って1時間後。私は屋敷へと帰ってきた。

本や文具等を馬車から下ろす。結構な量となってしまった荷物を抱えながら自室へ向かう。

結局シュラ殿下とは会わなかった。ユージン様に少し罪悪感を覚えながらも、連絡魔術を使わなくてすんだのは少しホッとした。

それなのに…

妹の部屋から楽しそうな声が漏れている。妹の部屋の前を通らないと部屋には戻らない。

嫌だな…。

魔術学校では知識として黒髪について学ぶため嫌悪の眼差しはない。それでも、お嬢様なんかは嫌悪の眼差しを向ける。それは慣れることはない。

………。よし、走っていこう。そう荷物を抱え直し一歩踏み出せば、

「お姉様?」

妹に見つかった。あぁ、なんてタイミングの悪さ…。

「ただいま、リリー」

「おかえりなさい。お姉様も一緒にお茶はいかがですか?シュラ様が来てくださっていますの」

「え?」

「リリー?」

その声に中を見る。そこには2つのカップと隣り合った椅子。そして、シュラ殿下。シュラ殿下はお城を抜け出してリリーに逢いに来ていた。そう思うだけで心がスーッと冷たくなる。

「サクラか。」

「は、はい。お邪魔してしまい申し訳ありません。」

「いや…」

気まずそうなシュラ殿下。まるで浮気がばれた殿方のよう。いえ、実際にそうなのかもしれない。男女が二人でお茶会なんて、まるで、 。

「シュラ様、お姉様もご一緒にお茶をしてもいいですか?」

「あ、あぁ…構わない。」

なんだか乗り気ではない声に、気持ちが沈む。シュラ殿下は妹とふたりっきりが良かったんだろうか。シュラ殿下は、

「…さま…お姉様!」

「え?」

楽しそうだった顔が心配そうな顔に変わっている妹と後ろから私を見るシュラ殿下。

「サクラ、体調でも悪いのか?」

「そんな…紅茶のご用意をしてお待ちしておりますから、早く来てくださいね?シュラ様とお待ちしておりますから」

「え、あ…はい。後で…」

なんにも悪いことはしてないはずなのに、なんだか居たたまれなくなる。荷物を抱え直して逃げるように歩き出す。

「まぁ、シュラ様!」

妹の声に思わず振り返ってしまい、振り返ったことにすごく後悔した。妹の赤くなってはにかむ姿と耳に唇を寄せるシュラ殿下の姿。恋人同士のような甘い雰囲気と、それが似合う二人の姿。

どうして…。なんで…。シュラ殿下は、妹のことが…。

「あんな顔見たことないよ…。」


―――――――――パチン。


どこかでスイッチの消える音がした。






あのあと、体調が悪いとお茶会は辞退した。それに、あの場所に行ってしまったら何を口走ってしまうか分からない。そんな気持ちで二人を見ることなどできなかった。

コンコン。

「サクラ様。朝でございます。」

扉がノックされる音とともに声が聞こえる。何処と無く身体が重い。シュラ殿下や妹に、会いたくない。

「サクラ様? お加減でも悪いのでしょうか?失礼致します。」

その声と共に部屋にメイドさんが入ってくる。

「サクラ様?」

「すみません、大丈夫です。」

「そうでしたか。ようございました。本日はとてもよい天気でございます。」

カーテンが開けられ、窓から空が見える。

「雲ひとつない青空ですね。」

雲ひとつない、青空・・

青空。

なのに、私の目には真っ暗な空が見える。まるで、夜空のように深い闇。

あぁ、また消えた。

その動揺を隠すように身支度を始める。私の動揺は気付かれなかったのか、誰も私のことを気に止めなかった。

青色まで消えてしまった。少しずつ少しずつ黒に侵食される世界に震えが止まらなかった。一人が怖い。誰かに傍にいてもらいたい。

保健室…。

だめだ、これ以上先生は頼れない。教室の自分の机で読書でもして1日をやり過ごせばいい。問題は…。




魔術応用実習。

私は一人で魔術の練習をしていた。

火属性以外反応のしない私を見かねて、担当教員が自習を言い渡したのだ。昨日までは水属性…それも上級魔術が普通に使えていたのに、突然使えなくなってしまった。

「『凍てつく氷よ 貫け!』」

左手を前に差し出し、詠唱する。けれど、なんにも反応がない。

「どうして…」

ぎゅっと拳を握る。

「『凍てつく氷よ 貫け!』『命の水よ 集まれ!』」

身体を悪寒が駆け回る。

「『大気に満ちる水よ 凍れ!』」

そう口にした途端、言い知れない寒気とともに爆発音が包み込む。

「っ!?」

「きゃ!」

「うわっ!」

近くで悲鳴があがる。

「サーディル!?」

煙が晴れると、数人のクラスメートが擦り傷を受けていた。そのなかには妹の姿も。

「サーディル!あなたって人は…。怪我をした人は早く保健室へ!」

担当教員が走り回る姿が見える。

私は…。身体じゅうの傷と出血。そして立っていられないほどの脱力感。私はそのまま意識を手放した。









事の顛末を聞いたのは保健室のベッドの中。

激怒した顔の担当教員と怒った顔をした先生。

無理して魔術を使おうとして、魔力が暴走したらしい。私の魔力のわりに被害が少なかったのは、理由はわからないが、それでも近くにいた人は多少の傷を負った。

私は担当教員に滾々と注意をされていた。

なぜ使えない魔術を使おうとしたのか、使えないなら申告しなかったのか。私が無理をしたせいでどれだけの人が怪我を負ったか。

そして反省文と1週間の謹慎を言い渡し担当教員は保健室を出ていった。

「サクラ・サーディル」

出ていった担当教員を見送る私に冷たい声が振りかかる。先生の方を見れば、眉間に皺を寄せてこちらを睨み付けていた。

嫌われた…?

「お前は…っ」

そう言って手をこちらに伸ばされる。身を竦ませれば、そのままきつく抱き締められる。

「死ぬとこだったんだぞ!ここの運ばれてきたとき、お前の魔力は枯渇寸前だった!」

魔力の枯渇。それはある意味死を意味する。身体を廻る魔力は謂わば生命力とも言える。それが枯渇寸前だったってことは…。

私は死にかけた。

その事実に身体が震える。

「なんで、俺を頼らなかったっ…俺はそんなに、頼り無いか…?」

「違います!」

頼りないなんて、そんなこと思ってない。ただ、頼ってばっかりじゃいけないって。なのに…

「…私が意地になってたんです。これ以上、先生に迷惑かけちゃだめだって…」

「アホか。それで死にかけたら意味ないだろ!」

「すみません…」

「前にも言ったが、俺はお前のことを気に入っている。だから、頼られるのは嫌じゃない。むしろ、俺の知らないところで倒れられる方がよっぽど迷惑だ。」

ぐちゃぐちゃと頭を撫でられる。撫でる手は乱暴だけど、さっきまでの怒ってる雰囲気はなかった。

「すみません…」

「ったく…で、俺に言ってないことは?」

「…茶色と青色が消えました。」

「…そうか。」

「あと、風、土、水属性の魔術が発動しません。」

「発動しない?」

先生の言葉に見せた方が早いだろうと、手を掲げながら「『風よ 吹け』」そう呟く。いつもならこれだけでもカーテンを巻き上げるような風が吹き抜ける。なのに、風は吹き抜けるどころか紙一枚も動かない。

「……いつからだ。」

「色が消え始めてからだんだんと。」

身体を廻る魔力が少しずつ感じられなくなってきた。

「ロストカラーシンドロームは魔力を奪うのか…?」

「わかりません。ただ、無理して魔術を使おうとすれば身体が凍るように冷たくなって…」

「魔力の暴走か。」

先生の言葉に頷く。魔力の枯渇は魔力の暴走からくるものだろう。

「とにかく、魔術を使うのを止めろ。ロストカラーシンドロームが魔力とどう関与しているのかわからないが、無理して魔術を使って危険に陥ることは避けるべきだ。」

「でもっ、…」

「事情を話して他の分野で補えばいい。」

「けれど、認められなかったら…私、この学院にいられなくなります!」

「だがな、お前の安全面を考えたらこうするのが最善だ。一年くらい…」

「ダメなんです。もし成績が落ちたらここにはいられなくなる。そういう約束なんです。」

「約束って、身の安全より大事なものかよ。」

「それは………大事なものです。」

ぎゅっと服の端を握る。

「あー…ったく、頑固だよな、お前は。」

先生を見れば、頭を掻きながら苦笑いを浮かべていた。

「仕方ねぇ。使うなとは言わねぇ。そのかわり、何かあったら直ぐに言え。」

「はい…すみません。先生」

「サクラ、お前はなんにも悪いことしてないだろ?こういう時はありがとうって言うんだよ。」

「ありがとうございます、先生。」

色も消えて、魔力も失われていく。ほんとは恐怖でどうにかなりそうだった。でも、今だけはなんとかなる。そんな気持ちになれた。





そんな気持ちはまやかしでしかなかったけれど。








ドカッ!!

身体が倒れるとともに頬が熱を持つ。

「この、出来損ないが!お前ごときがリリーに怪我をさせただと!?」

激しい罵倒が降ってくる。

「申し訳ありません…」

「お前など…」

ごめんなさい。お父様…。

「なぜ、お前が…」

私が悪いことしたから…ごめんなさい、ごめんなさい…

だんだん声が遠く聞こえる。

「早く、」

おねがい、お父様。いい子にするから…。

「王家がお前を必要としなければ、」

私、を…

「お前など、早く消えてしまえばいい。」

私を、

アイシテ


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