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気づいて、お願い、気づかないで

加筆修正を行いました(5/28)。

保健室で倒れた次の日。私は魔術応用実習に参加していた。授業で学んだことを実践する授業。二人一組になって魔術を防ぎあう。私は上手く髪色の消えていない女の子とペアを組むことができた。

「では、始め!」

先生の合図とともに実習が始まる。

相手の女の子は水属性の魔法が得意なのか、初級水魔術を連発してくる。私は対抗するために風属性魔術を発動させようとする。水属性には風属性が相性がいいから。

左手に集中して魔素を集めようとする。だけど、上手く魔素が集まってこない。

昨日まで風属性は上手く発動していたのに、どうしてっ。

そんな風にモタついている間に身体は水で濡れていく。仕方なく水属性で威力を相殺させていく。けれど、攻撃に転じられなくて私はビショビショのまま実習を終えた。

「どうして急に…」

実習後、私は練習場に居残っていた。

ビショビショになった服は火属性魔術で乾かしてある。

急に使えなくなった風属性魔術。そしてこの間から使えなくなった土属性魔術。

「『風よ 吹き渡れ!』」

「『大地よ 震えろ!』」

左手を前に差し出し詠唱する。基礎魔法なのに全く反応がない。

「『凍てつく氷よ 貫け!』」

「『燃え上がる焔よ 全てを焼き尽くせ!』」

再度左手を掲げて詠唱する。すると今度は威力の高い魔術が発動する。

「どうしてっ…なんで風属性と土属性の魔法だけ…」

ぎゅっと拳を握る。基礎魔術は詠唱破棄でも発動していたのに、今では詠唱しても発動するのが稀だ。

「くそっ…」

思わず悪態をついてしまう。

「女の子がくそなんて感心しないよ。サクラちゃん。」

誰もいないと思っていたのに声が聞こえてきて慌てて口を押さえる。

「ジェイド様。」

「もう大丈夫?」

「はい、大丈夫です。昨日はありがとうございます。」

「少し話さない?」

「はい。」

ジェイド様に連れられて中庭までくる。ベンチに誘導されるが、形取られた黒い場所に座るのに戸惑う。

「サクラちゃん、座らないの?」

「あ…その…」

ジェイド様とベンチに視線をさ迷わせる。たぶん、普通に座ればベンチに座れるだろう。ただ、色のない…黒の中にいればきっと可笑しくなってしまう。そう考えるとベンチの前で足が止まってしまう。

「サクラちゃん。僕たちに隠していることあるんじゃない?」

私の行動を見ていたジェイド様は私の顔をじっと覗き込む。その瞳は真っ黒。そうだ、ジェイド様の紫は消えてしまった。黒い瞳の中に私が映る。その瞳が見ていれなくてそっと目をそらす。

「………ありません。」

「嘘だね。」

「嘘なんかじゃ…」

「なら、どうして僕の目を見ないの。君は話をするとき相手の目を見て話すよ。」

「それは…」

「それに、今の君から風属性と土属性の精霊が遠ざかってる。」

「え…。」

精霊が?見回してもわからない。私の周りに広がるのは黒だけ。

「君の周りにはいつも沢山の精霊が集まっていた。なのに今はいつもの半数以下だ。」

その言葉に観念して口を開く。

「……失色症候群ロストカラーシンドロームはご存じですか?」

「ロストカラーシンドローム?いや…」

「少しずつ色が失われる病気です。」

「初めて聞く病気だね。」

「えぇ、先生も本当に存在するか眉唾物だと言った程の病気ですから」

「そんな病気がどうしたの…。え、まさか…」

私の言わんとする言葉が分かったのか顔をしかめて、厳しい表情を浮かべる。そんなジェイド様に声が震える。言いたくない。言ってしまえば、この人は…。

「えぇ、そのまさかです。私はロストカラーシンドロームを発病しました。」

「冗談、でしょ?」

「いいえ。冗談ではありません。現に、黄色、オレンジ色、紫、緑の4色が消えてしまいました。」

「でも、治療すれば!」

めったに声を荒げることのないジェイド様。でも、彼が声を荒げるのはいつも私たちのためだった。

「無理なんです。治療法がありません。光魔法でも症状は改善されませんでした。見えない色はモノクロのままです」

「そんな…」

眉を寄せ悔しそうに唇を固く噛み締めるジェイド様。そんな顔が見たくなくて彼らに言えなかった。

「そんな顔しないでください。私なら大丈夫です。」

「サクラちゃんがそんなことになっていたのに気付かなくてごめんっ。僕たちはずっと傍にいたのに」

「謝らないでください。色が失われることも、少しずつ受け入れられるようになってきましたから」

自分の発した言葉がとても薄っぺらく聞こえる。受け入れられるようになったなんて嘘だ。色が失われるごとに不安や恐怖に押し潰されてしまいそうになる。今だって、真っ黒な中に立っている。彼らに気付いて欲しくないなんて思いながら、ほんとは気付いて欲しかった。

「僕も力になるから。なんでも相談して?」

「ありがとうございます。」

「そろそろ戻ろうか。ココアでも飲もう」

手を引かれながら、中庭を後にする。


「はい、サクラちゃん。」

ジェイド様はそう言ってコップを渡す。コップには黒い液体。ジェイド様、自分のコーヒーと間違われたのかな。

「ジェイド様。私、コーヒーは飲めなくて…」

「え?サクラちゃんのはココアだよ」

慌ててコップを覗き込む。けれど、そこには黒い液体(・・・・)

「まさか…」

また色は消えてしまった。


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