表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

足音が近付く

加筆修正を行いました(5/28)。

失色症ロストカラーシンドロームについての記述を少し変更しました(6/15)

「おかしい。なんで…」

廊下を歩きながら小さく呟く。

さっきまで見えていた筈なのに黒くなっていく。

黄色に続いてオレンジまで消えて…違う、黒くなってしまった。

落ち着かなきゃ。きっと疲れているだけ。そうじゃなきゃ、色がなくなるなんてあり得ない。少しずつ大きくなる不安から逃げるように言い聞かせる。保健室で少し休ませてもらおう。そうすればきっと…。そうと決まれば、顔をあげて保健室に向かう。

けれど、神様は残酷だ。

ガラスに写り混んだ私の胸元に輝くはずの紫のアメジスト。そこには…。

慌てて保健室に逃げ込めば、立ち竦む。そのまま自然と視線は足元へ。

「サーディル?」

俯く私に怪訝そうな声がかかる。

「先生…。」

白衣を着た先生。けれど、また髪は淡灰色見えてしまっていた。

「先生、髪が…」

「髪?」

跳ねてるか?なんて髪を弄る先生。

その姿に、「先生の髪が、ホットサンドのタマゴが、シュラ殿下のネクタイがモノクロに見えるんです。私、可笑しくなったんです!」そう声をあげてしまった。

突然、声を荒げた私に驚いたように見る先生。しかし、先生は落ち着いて私を椅子まで誘導した。

「ちょっと待ってろ。」

先生はそれだけ言うと、保健室に備え付けられているキッチンで何かを作り始めた。

「ほら、ココア。少し落ち着け。」

差し出されたコップをおずおずと受け取る。中身は黒くなくて、よく見るココアの色。

それだけなのに、すごく安心した。湯気のたつココアに口をつければ、ココアの甘さが身体に行き渡る。


「落ち着いたか?」

「はい…先程は失礼しました。」

「いや、気にするな。それで、さっきの話だけどな。もう少し詳しく話してもらえるか?」

「はい。初めて黒く見えたのはホットサンドのたまごです。それから、月が灰色に見えて…今日、話しかけて下さったクラスメイトの髪が黒髪に見えていました。それから、先生の髪も…」

何度見ても先生の髪は淡灰色。確か、先生は淡い紫色の髪色だったはず。

私の話を聞いて、先生の顔は少し恐くなった。

失色症候群ロストカラーシンドロームって知ってるか?」

失色症候群ロストカラーシンドローム? 初めて聞く言葉だ。症候群っていうから、病気なんだろうけど…。

「医術師のなかでも一握りしか知らない。本当にあるのか眉唾物だったんだがな。」

「その、ロストカラーシンドロームって、なんなのでしょうか?」

「ちょっと待ってろ。」

そう言って、本棚の本を一冊取り出した。そして、ある一ページを指差しながら話し出す。

失色症ロストカラーシンドロームってのは、その名の通り病気の1種だ。伝承に近い病気で、情報も少ない。原因不明の病気で、いつ誰が発症したか詳細がほとんど残っていない。それ故に治療法も全くわからない。ここにあるように、光魔術でも効果はない。ただひとつ、色が失われるということだけが明らかになっている。早さはわからないが、ひとつずつ色が失われ…最後に残った一色が消えれば、」

そこで先生は口を閉ざす。その先は本にも書かれていなかった。

「色が失われる…」

「失われるというのは語弊があるかもしれないな。モノクロに見えると言うのが正しいかもしれない。淡い色ほど白に、濃い色ほど黒に見える。サーディルの話を聞くと、ロストカラーシンドロームを発症した可能性が高い。」

「私が、」

嘘だ。そう信じたかった。たまたま調子が良くなくて、目がおかしいだけだって。治癒魔術で元通りになる。そう…信じたかった。でも、何処かで納得している私がいる。

黄色、オレンジ色、紫色。もう3色も消えていった。これは調子が悪いでは片付けられないことは明白だ。

― 色彩は救いだ。

昔読んだ本にそう書いてあった。なら、色彩が欠けていく私には、救いはないのかもしれない。

「サーディル、サーディル!」

「え、あ…」

はっとすると、心配そうに見ている先生がいる。何も言わず反応もしなければ困るだろうに、私は何をやっているのだろうか。

「すみません…」

「いや、俺も悪かった。突然言われても不安になるだけだったのに。配慮が足りなかった。」

頭を下げる先生に慌ててしまう。私なんかに頭を下げる必要なんてないのに。

「そんな、先生、頭を上げてくださいっ…。私、頭が可笑しくなったんじゃないかって不安になったんです。でも、違った。それだけでも良かったです。」

そう言って笑えば、先生は痛々しそうに眉を寄せた。上手く、笑えなかったのかな。先生、と声をかけようとすれば、頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。

「なにかあったら相談しに来い。何にも出来ないが、話だけでも聞いてやる。」

そう言って、先生は笑った。

話を聞いてもらえる人がいるだけでも心の持ちようが変わる。何にも出来ないなんてことないんですよ。言いたいことは沢山あったけど、声にならなくて頷くしか出来なかった。





「さて、当面の問題は魔術実習か。髪色が見えないのは痛手だな。」

「そうですね。」

王立魔術学院。私が通う魔法学校。

ファルディア王国の国民は創造主と精霊王、魔王の加護により魔術が使える。

創造主とはこの世界を造り出したと崇められている神様で、王家の血筋はこの創造主から産まれたと言われている。精霊王と魔王は名の通り精霊とマモノを纏める王様。人に友好的な精霊を精霊。非友好的な精霊をマモノと呼んでいる。ただ、人が分けた呼び方であって、精霊は精霊だと私は思っている。

その加護の下で私たちヒトは魔術が使え、その魔力の源は生命であると考えられている。

そして不思議なことに髪の色が属性を司っている。

属性は、風、火、水、土、光、闇の6属性から成る。

風を司る緑髪。火を司る赤髪。水を司る青髪。土を司る黄髪。光を司る銀髪。闇を司る黒髪。属性の強い色が表れるが、拮抗していると属性の色が混ざった髪色が表れることが多い。

風属性はファルディア王国の国民は誰もが使える。一方、光と闇属性は扱えるものが少ないし、闇属性は国内に片手ほどだという。だからファルディア王国では風を司る緑髪を持つものが多く、黒髪はとても珍しい上に恐れられている。

それから、使える属性の多さも生まれによって変わる。平民は1~2属性。下級貴族だと2~3属性。上級貴族だと3~4属性。王族は4~5属性扱える。例えば、シュラ殿下は闇を除く全ての属性を操ることができる。

そして、魔力の属性は受け継がれると言われる。サーディル家は代々、火と土の属性が多い。妹もストロベリーブロンドだ。だけど、私の髪は黒髪。家系を遡っても黒髪は出ていない。先祖返りとは考えにくい。じゃあ、母の不義の子かと言われても、妹と双子であるため違うと言える。突然変異というものなのだろう。

髪色とは魔術の強さがわかる指標であり、見えないのは致命的となる。

「事情を話して実習を免除してもらうか?」

「それはできません。」

大きく頭を振る。

「大丈夫です。こう見えて、私も上級貴族ですから。それなりに魔力はあります。」

「けど、お前は黒髪・・だろ?」

「えぇ、黒髪ですね。」

伸ばした黒髪に触れる。私の属性は闇。

闇属性は魔王に愛されし者と呼ばれる。魔王は精霊王よりも魔力が高く全属性を網羅する。総じて、闇属性も魔力が高く、多くの属性の高位魔術も使えるため脅威とされてきた。

しかし、いくら魔力が高くとも、視覚に頼っていた分見えない魔法に対しての反応も遅れてしまう。それは大けがにもつながるのだ。そう、先生は言いたいのだと思う。

視えない。それがどれだけ危険な事かわからないわけではない。

けれど、実習を免除されるわけにはいかなかった。

「………はぁ。頑固なヤツだ。」

「すみません。」

「無理はするな。俺はお前の味方だってこと忘れるなよ」

先生の言葉に頭を下げれば、頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。その行為を甘んじて受け入れながら、私は全てが変わってしまう。そんな予感をがしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ