変わらない人、変わるモノ
加筆修正を行いました(5/28)。
「リリー様、こちらをどうぞ」
「まぁ!素敵なお花。いただいてもいいの?」
「はい、リリー様に差し上げたくてお持ちしました。」
嬉しそうに花束を受け取る妹はとても愛らしい。花束を渡した彼もそう思ったのか妹を見る目が愛おしいものを見るような目に変わった。
「リリー様。こちらの問題なのですが…」
「この問題は、こうして…」
「なるほど。そうなのですね。さすが、リリー様。」
妹が転入して1週間が経つ。
儚げな雰囲気と反して人懐っこい性格の妹はすぐに人気者になった。
妹の周りにはいつも人垣が出来ている。
私はその様子を見てるだけ。それはそれで構わなかった。
でも、
「リリーちゃん。」
「ユージン様、シュラ様!どうなさったんですか?」
「たまたま近くを通ったから顔を見にね。」
そう言ってユージン様はウィンクを決める。教室の中は色めき立った。
ユージン様やシュラ殿下、ジェイド様はよく妹の顔を見に来る。
サーディル卿によろしくと言われたから。と皆様はおっしゃられるけれど、私の心は曇っていた。本当は皆様…。
「リリー嬢、何か困ったことはないか?」
「大丈夫です。クラスの皆さんも親切にしてくださいますから。」
「そうか。何か困ったことがあったらすぐに相談しろ」
そう言ってリリーの髪にシュラ殿下の手が乗る。
やめて、そんな風に妹に触らないで。
―――――――――パチン。
どこかでスイッチの消える音がした。
ガタンっ!
思わず大きな音を立てて立ち上がる。
「お姉様?」
「え、あ…」
「どうかなさいましたか?サーディル様。」
近くにいたクラスメートが私に声をかけてくる。
「いえ、寝惚けていたみたいです。失礼しました。」
そのまま笑みを浮かべて座る。
突き刺さるような視線に目をやると、厳しい瞳のシュラ殿下。
慌てて視線を逸らすけれど、急にどこか違和感を感じる。
バレないようにそっとシュラ殿下とユージン様を見る。
いつもとお変わりない様子。なのに、私の脳は違和感を伝えてくる。
「サーディル様?大丈夫ですか?」
「え、あの…」
目の前には黒髪のクラスメート。
え?黒髪?
ばっと顔をあげると、驚いたように私を見るクラスメート。
やっぱり、黒髪だ。
おかしい。彼女の髪はオレンジ色だったはず。なのに、
「あの、髪…」
「髪?」
「黒くて…」
「私の髪はオレンジ色ですけど…?」
不審そうに私を見る彼女の目に耐え切れなくなる。
「で、ですよね…やっぱり、私、調子が良くなくて…保健室行ってきます。」
ここから逃げてしまいたい。その一心でそのまま立ち上がり、教室を出る。
チラッと見たシュラ殿下とユージン様のネクタイは、真っ黒になっていた。