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ロスト

一部修正を行いました(10/11)

物心ついた頃から、私は一人だった。

お父様もお母様もいた。

けれど、私はいつもひとり。


家族の一番はいつも双子の妹だった。

病弱で儚げな雰囲気と反して明るく人懐っこい太陽の様な少女。

魔法の才能にも恵まれたあの子。


みんなあの子が大好きだった。

誰にでも愛されるあの子。


誰が呼び出したのかあの子は神の愛娘と呼ばれた。



それに比べて、私は…。

あの子と比較され、劣等生の烙印を押された。

出来損ない。

そう言って誰にも見向きされなくなるのももうすぐなのかもしれない。


あの子を取り囲むように話す大切な人たちを見て、そんな予感がしていた。









「リリー。16歳の誕生日おめでとう。」

「ありがとうございます。お父様!」


日の光を浴びたストロベリーブロンドを揺らし、少女は男性に抱きついた。

彼女の名前はリリー・サーディル。サーディル家の娘である。そして、私の妹。

部屋には大小さまざまな綺麗な箱が置かれており、開放された広いお屋敷には贈り物を届ける馬車が未だ道を遮るほど並んでいた。

今日はこの領主の娘たちの誕生日。


「今宵はリリーの誕生日パーティーを開く。楽しみにしていなさい。」

「はい。お父様」

リリーが返事するとサーディル卿は口許を弛めた。王の相談役でもあり司法のトップを担うサーディル卿はその冷徹さから『鬼のサーディル』と呼ばれ、恐れられている。しかしその普段の彼からは想像もできないような、娘のことが可愛くて仕方がない。と言わんばかりに崩された顔がリリーに向けられていた。

しかし、そばに立っていた私を目にするとその顔もまた厳しくなる。

「サクラ」

「はい。」

「今宵のパーティーにはシュラ殿下もお越しくださる。粗相の無いように。」

「心得ております。」

私の返事を聞くともう用はないと退室を促すように背を向け、リリーとの会話に戻る。

幼い頃から向けられ続けたこの大きな背中。

「失礼します。」

父と妹の笑い声を背に、父の執務室から退出する。廊下には遅れてやってきた母の姿。母は私に声をかけることなく父の執務室へと入っていった。

窓の外に見える街のいたるところには百合の花が飾られ、街の人々は彼女の誕生を祝い、「おめでたい」そう浮き足立つような活気に包まれているのが見て取れる。

「私も、誕生日だったんだけど…」

小さく呟いてみる。

けれどそれは虚しく響くだけで、廊下に消えていった。






宵の帳が落ちる頃。領主の館は一層の賑やかさを増した。

リリーに祝いを告げる来客が次々に訪れる。

その招待客の案内に私は駆り出されていた。

「サクラ。」

聞き慣れた声に振り返れば、そこには男性が一人立っていた。金色に輝く髪と深い青の瞳。

「シュラ殿下。今宵はリリーの誕生日パーティーにお越しいただきありがとうございます。」

「お前の誕生日でもあるだろう。今日は」

頭を下げれば、呆れたような声が落ちてくる。

「誕生日おめでとう。」

「あ、ありがとうございます…。」

お祝いされるとは思っていなかったため、少し動揺して声が上擦る。

そんな私を咎めることなく、ただ少し微笑まれれば

「俺は、サーディル卿に挨拶に向かう。後で一曲お願いできるか?」

「…はい、喜んで」

私の返事に満足そうに頷き、後で。と一言残して去って行った。

「ひゅー…お熱いことですねぇ。」

「ユージン、やめておけ。後でシュラに怒られても知らないぞ。」

冷やかすような声にハッとすれば、横には銀髪に翡翠瞳の男性と赤銅色の髪と金色の瞳の男性が立っていた。

「ユージン様。グレン様。」

「あー…そんなに固くなるな。俺達幼馴染みだろ?」

「そうだ。ジェイドも間もなく到着する。久し振りに5人揃うんだ。話をしよう」

「ジェイド様もお越しくださるんですか?」

「そ。僕も来るよ。大事な妹分の誕生日だからね」

「ジェイド様」

淡い青い髪に紫瞳の男性が後ろから現れる。

「ジェイド、遅かったな。」

「そうかい?サクラにこれを買ってたからかもしれないね。」

と差し出されたのは桜の花。

「お祝いの言葉はシュラに先越されたけど、プレゼントは一番でしょ?サクラ、お誕生日おめでとう。」

「誕生日おめでとうね、サクラ。けど、ちゃんとプレゼントも用意してあるよ。」

「おめでとう。サクラ」

「あ、ありがとうございます。」

ジェイド様から頂いた桜の花を胸に抱く。

家族から一言も貰えなかった言葉をこの人たちはいとも簡単に私にくれる。それだけで十分私は幸せ者。そう幸せを噛み締める。

「さて、僕達もサーディル卿に挨拶に向かわないと。今日はリリー嬢()誕生日パーティーだからね」

「あー…妹様のお披露目を兼ねてるんだっけ?挨拶に向かうのやだなぁ」

「俺達は家名を背負ってきているんだ。挨拶に向かうのは当たり前だ。」

嫌がるユージン様を引き摺りながら中へと入る2人。

「また後でね。」

そう言いながら手を小さく振られ、向けられた背中に何故だか不安が募った。

まるで彼らが遠くに行ってしまうかのような…。

そんな不安を振り払うように首を振る。

何を不安がることがあるのか。こうやって「おめでとう」と私の生を喜んでくれる人がいるのに。「またあとで」と言ってくれたのに。

「また後で、です」

彼らの後ろ姿にそう言って頂いたサクラを部屋の花瓶に挿しに行くため場所を離れる。広場には続々と人が集まり、もう彼らは見えなくなってしまっていた。



「本日は皆様、我娘の…」

部屋から戻るとお父様の挨拶の声が聞こえ、会場となる広間に慌てて向かえば、妹の乾杯の一声が広間に広がる。

ふんわりとしたドレスに儚げな雰囲気の妹。大勢の人たちが妹に釘付けだった。

そのなかでも彼らは…。あの子を取り囲むように楽しげに談笑していた。

そして、シュラ殿下が妹の手を取り、口許を寄せるのと同時に、


―――――――――パチン。


どこかでスイッチの消える音がした。



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