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6 シェイクスピアをもういちど

 僕が通ったのは工業大学の大学3年〜修士2年までなので、大半は研究をしていたのだけど、もちろん授業もあった。印象に残った授業がある。

 英米文化論という、文系によくありそうな授業で、1本の映画を毎週すこしずつ視聴し、西洋の文化を学びましょうという授業だった。題材は、アカデミー賞もとった1998年の『恋に落ちたシェイクスピア』。スランプ中の劇作家シェイクスピアが、おしばい好きのお嬢様・ヴァイオラと恋に落ち、『ロミオとジュリエット』をふたりで作りあげる、というもの。時代はエリザベス一世の頃で、この映画にはシェイクスピア作品のパロディがぎゅうぎゅうに詰まっていた。

 授業の最後のレポート課題のなかに、「主人公以外のわき役の視点で、この映画を語りなおしなさい」というのがあった。つまり小論文ではなく創作だった。僕はちょっとでも小説をたしなんでいるのだから、やらないわけがない。実は僕はこのとき、研究で忙しすぎて、小説を2年ほど書いていなかった。僕の創作熱とむくむく生まれ、少しの不安が頭をよぎった。


 僕はレポートの主人公を、『恋に落ちた〜』にでてくるネッド・アレンにした。彼は「シェイクスピアと一緒にいる超売れっ子俳優」という役で、16世紀に本当に実在した俳優らしい。(ややこしいけど、「恋に落ちた〜」でネッド自体を演じた俳優は、ベン・アフレックだった。かっこいい)。

 僕はまず、ネッドが出てくるシーンを調べて、セリフをメモしまくった。それから実在のネッドの資料を他大学の図書館からとりよせた。彼は歴史上の人物だけれど、日本ではマイナーで資料もすくないので、英語の資料も読んだ。ネッドの出生と活躍、晩年を調べて、創作レポートにつめこんだ。ふつう、脇役が出るシーンだけつなぎあわせても、ちゃんとした物語にはならない。僕はプロットを作り、テーマと追加シーンも考えた。セリフや展開はほぼ決まってるから、映画のノベライズかアンソロジーを書いているような気持ちになった。

 僕の書いた小説は、「売れっ子俳優のネッドが、ロミオ役の新人、ヴァイオラの演技をみておどろく。主役のロミオ役をとられ、嫉妬にかられながらもネッドは彼に稽古をつける。映画のさいごのシーンでは、宮内長官に向かって、ヴァイオラの演技力を力説する」というものだった。

 5枚でいいと言われたレポートは12枚くらいになった。しかもこのとき僕は修士論文も書いていて、研究にも追われていた。自分でもばかだと思ったけど、このときは本当に、僕は書くことに飢えていた。創作が楽しくてしょうがなかった。レポートを提出するときはチラッと先生の顔色を見た。


 いまそのレポートを読み返してみると、視点はばらばらで、推敲も足りておらず、とても人に見せられたものじゃなかった。けど、あのときの情熱と充実感はすごかったと思う。僕は先生の反応を見るまえに卒業してしまったけれど、今度お会いする日があれば、ちょっと感想を聞いてもいいかもしれない。先生が覚えていらっしゃれば、だけど。

ネッド・アレンは本名エドワード・アレンと言い、現存する大学ダリッジ・カレッジの創設者でもあるようです。( Wikipedia 『ダリッジ・カレッジ』) ヒロインのヴァイオラは女性ですがロミオの役をしています。ややこしいな。


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