弐「銀翼の魔術師と漆黒に咲く一輪の花」(弐)
「で? 話は何の用かしら?」
聖装を纏ってアリアは言った。
「南方からは話は聞いているでしょうか?」
学校のE5教室。教室には三人しかいない。
「南方から話は聞いています。あなたはその、黄金級の……」
「日下部リサでございます」
そうだった、アリアは頷いた。
「精霊騎士団、ご存知でしょうか」
リサはつづけた。
「精霊騎士団……第三の派ですが、暗黒騎士団の葵が出入りしているとの噂が入りました」
「葵が、か、なんでそのようなものが精霊騎士団に出入りしているのか?」
「四年前、三つ団の連合会議があったのを覚えているでしょうか」
「実際、私が出席したからな」
「はい。ならあなたのほうが覚えておられるはずです。そこで、葵が精霊騎士団第二部隊のヤマメにいった内容を思い出して見ればどうかと思います」
うむ。四年前か。
「リサ、葵ってうちの学部にいなかったか?」
「ええ、確か当時二回生です」
間髪入れず答える。
そういえば奴、四年前はうちの学部の二回生だったか。
いや、確かに、うちの学部にいたはずだ。
私と同一の学部にいた彼女が、今なぜ、暗黒騎士団にいるのか?
ヤマメにいった内容とこのことがどう関係しているというのか?
「『そちらの学部を今すぐつぶしに向かいます』……」
リサはうなずいた。
「『つぶす』? 彼奴が?」
「はい。あなたが四年前の今日の手記に残していた内容です。なんでも葵を自主退学に追い込んだとか」
「もしかして、彼奴、四年もこの計画あっためていたのか?」
リサは大きく首を振った。
「正確に言うと、いま『準備が整った』。暗黒騎士団が『誕生』したきっかけも彼女です。また『王立ルナーティア騎士団』を名乗っていたわが騎士団が『聖騎士団』に改称したのも暗黒騎士団が誕生したおかげ。精霊騎士団も今の名称になったのも同時期です」
「精霊騎士団がいまの名前に改称したのは……」
「そう、奴から逃れるためよ!」
いきなりクナイが飛んできた。
一斉に三人はクナイが投げ込まれた窓のほうを見た。
「藤林ヤマメよ。驚かして悪かったわね」
「お前がクナイを投げるのは決まりだったな。もう少し外側を狙え、私を狙いすぎだ。で、いつから聞いていたのかしら?」
「数分前からよ、すまなかったわねアリア」
「ああ、まあいいのだが、話を戻すぞ」
「あ、え、ええ」
「とりあえず座れ、茶ぐらい出してやろう」
静かに椅子に座るヤマメ。
それを後目にアリアは静かに立ち上がった。
「すまないわ」
「いや、全然かまわない。むしろ来てもらって助かった。精霊騎士団の藤林一派がここにいるのはものすごくな。
リサ、給湯器はどこだ? 沸かしてなかったのか?」
「給湯器ならそこの棚の中にあるはずよ? 沸かすも何もこの時期この教室を使うのってうちらくらいですよ? 学級の改編の時期ですし」
そうか。
「時間かかるがすまない」
給湯器を取り出し、手桶で水を入れていく。心なしか面倒くさいようだ。
[#ここからルビ無し]
「今回は急な訪問すまなかったですわ」
「ところで、今日はどのようで? ヤマメさん?」
えっとね。