弐「銀翼の魔術師と漆黒に咲く一輪の花」(始)
近場の図書館。
八百万の本が集まる。王立図書館の第二階には、術式(魔法や、法術、精霊術など全般)関連の本がそろっている。
そこに、図書館に似つかわしくない、鎧姿の少女がいる。否、この世界では鎧が標準装備であるから普遍的なのであるが…。
「あら? 一国の代表が国務を全うせずにこんなところにいてていいのかしら? 『聖騎士団第三部隊騎士団長兼任聖騎士団騎士団長および聖騎士団域王国国王代理』、理長アリアさん?」
アリアと呼ばれた少女は焦った。
何故私がここにいるのがばれたのか。隠蔽術式で十の少女に化けていたというのに。こいつはなかなか素質あるか。
アリアは幼子の声で言った。
「隠蔽術を除くと面倒だからそのままにするが……、『聖騎士団第三部隊騎士団長兼任聖騎士団騎士団長および聖騎士団域王国国王代理』の私に何の用だ? 抑も、人に話しかけるときは名前を述べるものだ」
アリアに話しかけたのは、魔法使いだった。
「申し訳なかったわね。アリアさん。聖騎士団第八部隊副騎士団長秘書、南方ユウというものです。先ほどではありましたが、精霊騎士団の元へ送ってまいりました使者がたった今戻った、と千蛇銀翼から連絡が入りまして、それを伝えに参ったの」
そうか。ご苦労だった。
「なるほど……」
「はい、詳細をお聞きになるのかしら?」
ユウは小首を傾げた。
「一応聞いておこうかしら」
「わかりました、何からお話ししましょうか……」
「とりあえず、別の場所に行こうか。えっと、私の学校でいいか?」
少女は小首を傾げて、小指を咥え魔術師を見つめた。
「えっとアリアさん? その可愛らしい顔でその口調、とおっても合わないですわよ?」