序「聖黒合同騎士階級昇任模擬試験」(終)
「シェルロッタ!」
「アリス。どうかしたのか?」
なんでもないわ。そう紡ごうとして、アリスはやめた。二十分の時間が経過した今。まだ誰も十の的にさえ魔法弾を当てられてはいない。
「この走破訓練、地味に難しくないか?」
シェルロッタは箒の柄を持ちながら飛翔していた。
「ああ、確かに難しいかもしれない」
はあ。シェルロッタはため息をこぼした。
「面倒」だと。
時間は残りわずか。なのかもしれない。そう白翼の天使はそういった。
「確かに時間はないかもしれない」
でも、黒翼は前置きしながら言った。
「『あの』、詠唱魔法は用意できているのか?」
アリスははっとした。
「シェルロッタ。それはいくらなんでも危険だと思うが」
うん。
「だけど、それを背に受ければ神速突撃が可能。それを実現させれれば、たぶん、だれよりも早く戻ってくることができるだろう」
アリスは少し思案して問うた。
「大丈夫なのか? 雷系神速魔法弾を直にうけると神経系に悪影響を受ける恐れがあるけど」
確かに不味いかもしれないなあ。
シェルロッタは深く考えた。そして、深く頷き、
「だい、じょうぶだ。アリス、お前の魔術を幾度ともなく直に受けてきた。
だから、きっと大丈夫だ」
そうか。なら大丈夫なのかもな。