序「聖黒合同騎士階級昇任模擬試験」(始)
青空。
そのもとに、第三学園の先生と生徒数十名。
「先生、猫ですか?」
人狼が聞いた。
嗣永莉奈、狼の血を引いており、狙撃よりも進撃に優位。同じ獣人族の山田麗華と仲が良い。
「ええ、そうよ」
伊達メガネ、道長はなぜ尋ねられたのか、疑問だった。
「猫と、この走破訓練に一体、何の関連があるんです?」
ライラ以外のものがその声に頷いた。
すかさず、リディアが咳払いをする。
道長リディア、第三学園第二学年澪水霊学級担任兼任。ややおっちょこちょいの頭が切れるやつ。校長、アリアドナの宿命のライバル。年齢不詳。
「今回の走破訓練は、この、第三学園の周辺、エリア五〇のいたるところに設置された的に、魔法弾を当てつつ、周回すること」
どうせ、猫よりも早く回って来られれば評価は上がるのだろう。
「子猫は周りの物に興味を示しながら元に戻ってきます。この子よりも早く此処に戻ってこられれば、Sランクとしよう、そう思ってます。」
猫よりも早く戻って来れたら、そう聞けば、あながち、難しいってことはないかもしれないな。
ライラは徐に口を開く。
ライラ・エルザ、第三学園第二学年S級学級長。遅刻癖はあるが成績は常に優秀。どんなに寝癖がつこうがお構いなし。赤渕眼鏡がトレードマーク。
「猫の興味を示すものが何かはわからないが、この走破訓練Sランクはもらったわ」
黒髪は唇をゆがめた。
「道長先生」
「何かしら?」
「『猫よりも』という表現に些か疑問を感じたんですが、どうしてそんなことを? S及びA級の私たちが何故そんな陳腐な走破訓練を課せられるのは如何なものかと思うのですが」
在原ノノカ。走破訓練が大の苦手、食べることが大好き天然少女。
「確かにノノカ。戦闘訓練のほうが実践的ね。でもね、ノノカ、これは、私を初めとするA級やB級の生徒が通ってきた道なのよ」
リディアは続けた。
「去年の白金級認定試験も大体似たような試験が課されていたわ。今日の訓練より二十個も多い七十五個の的でしたわね。」
そんなにも多かったのか、今年受けようと思っていたのだが、面倒くさい。今年の試験は少しばかりか、遠慮しようかな。
人狼はそう心の中でつぶやいた。
「だから、この走破訓練は簡単だと仰る御心算かしら」
ローブを着た少女が言った。
「ええ、そうですよ、『仰る御心算』です。何か意見でも?」
まあ、やってみなければわからないな。アリスは親指を立てた。
「少しばかり古すぎやしませんか? アリスさん」
「古くてごめんなさいね!」
「シェル、生半可な言動は慎みなさい。いくらなんでも不謹慎」
「すみませんわ」
シェルロッタ、渾名は『シェル』。聖騎士団第三学園二学年A級唯一の狙撃手。
「面倒ですけど、やるしかないですわね。ライラ、雷撃魔法の準備をお願いするわ」
「勿論、シェル」
「あ、そうだ。シェルロッタは、魔法弾を打つのは、攻撃属性的に難しいから、『簡単に』ぶっ放つための魔法銃を用意してある。だからそれを使いなさい、いつまでも実弾に頼るより、魔法弾をぶっ放つ方にシフトしていった方が、弾切れの心配もないから安全だと思うわよ!」
リディアは魔法銃を懐から取り出すと、シェルロッタ目指し放り投げた。
「面倒な教師ですわ」
それを流し目、左手で受け取るシェルロッタ。
すかさず右手に持ち替えた。
ホルダーから、実弾銃を抜き取るとまた、リディアに投げ返す。
「制限時間はこの子が戻ってくるまで。今回の追加規則はただ一つ、的は早いもの勝ち。3名当てれば消える。五十五の的の内、十五の的に的中させなさい。達成できなければCとする」
ここにいる生徒は全員で十一。全員安定してSランクを取るためのギリギリのラインだ。
誰かが必要以上取れば、当然誰かはCとなる。
絶妙な訓練バランス。
さすがは、今までS級の者たちを指導してきただけはある。
「シェルロッタ」
「ええ、行きましょう」
リディアがシェルロッタから受け取った実弾銃の銃口を、青い天へと突きあげる。
「いざ、尋常に! 宙を舞い行かん! 走破訓練開始!」
いつも通りの走破訓練開始のセリフと共に、実弾銃を打ち上げた。