こんな夢を観た「裏山の山賊」
近頃、裏山に山賊が出るという。町へ行くには近いので、よく通る道だった。
「何だか怖いねぇ。いきなり、刃物で切りつけてきたりするのかな」喫茶店でチーズケーキを食べながら、わたしは言う。
「あれ、お前知らねえの? そいつ、光り物とか使わねえんだぜ」小ばかにしたような口調の桑田孝夫。
「じゃあ、棒を振りまわすとか、そんな?」
「違うって」クルクルッとフォークで巻き上げたパスタを、一口でほおばる。「聞いた話だけどな。その山賊、左腕におっかねえ武器を仕込んでるんだってよ」
「へーっ、それってマンガの主人公みたいでかっこいいね」無意識に、赤い全身タイツ姿のタフガイを思い浮かべていた。
「あー、違う、違う。全然、そんなんじゃないから」顔の前で手を振って否定する。
「わかった、けっこう太っちょだったりするんじゃない?」
「体格のことまでは知らねえけど、仕込んでるっつう武器は、ビームとかなんとかじゃねえから。そんなハイテクなもん、現実世界にゃ、ねえだろよ」
「なんだ、ただの凶器か。刀とか、鉄パイプとか……」期待した分、妙にがっかりしてしまう。
「えーとな、仕込んでるのは生きたヘビだ。それも、毒ヘビなっ」桑田が言った。
「どうやって?!」わたしは驚いた。そんなことが可能なものだろうか?
「どうやったかなんて、おれは知らん。だが、そんな噂だぞ。ついでに言うと、コブラとかじゃねえ、マムシだ。で、そいつの呼び名も『マムシ』って言うらしい」
「マムシ――」後の言葉が続かなかった。同じ毒ヘビだというのに、なぜだろう、急にかっこ悪くなってしまう。
「名前からして、いかにもしつこそうだよな。関わりたくねえなあ、そんな奴。山賊なんぞ、ただでさえごめんこうむるが」話の合間に、パスタを巻き始める。
わたしは、チーズケーキの最後の山にフォークを突き刺し、口へと運んだ。せめて、「ハブ」だったら、もう少し体裁がいいのにな、などと思っていた。よりにもよって「マムシ」とは、あまりにも冴えない。
パスタを食べ終えた桑田が、突然、かしこまって、作り声を出す。
「おれは山賊マムシ。左腕に毒ヘビを持つ男だ」
コーヒーを飲みかけていたわたしは、思わず吹きそうになった。
「ちょっと、桑田ってば! 鼻に逆流するとこだったじゃん」わたしは抗議した。笑いのツボにはまったわたしは、ただもう、可笑しくて仕方がない。
山賊マムシ、実際にはどんな容姿をしているのだろう。ますます気になる。
「ねえ。その山賊ってば、どんな顔をしてると思う?」笑いの発作が治まると、意見を求めてみた。
「そうだなあ。毒ヘビなんかで脅す野郎だぜ、陰険で暗い奴に違いない。ナメクジみたいな顔をしているじゃないかな」それが桑田の答えだった。
「それ、最高にキモイよね……」
何日か経って、裏山の山賊が捕まった、というニュースを目にした。
テレビの画面に映し出されたその人相は、桑田の思い描いていた、まさにそのものズバリな顔だった。
逮捕されて明らかになったことが他にもある。
左腕に仕込んでいた毒ヘビというのは、実はアオダイショウだったという事実だ。
「アオダイショウって、確か無毒だったような。あの人、自分が噛まれるのが怖くって、そんなハッタリをかませたのかな、やっぱり」
人ごとながら、情けないやら、憐れでならなかった。




